U30世代、女性の政治参加で生きたい社会を作ろう! 能條桃子さんの考えるこれからの政治
●サステナブルバトン5‐3
「政治家を育てるのは国民」
――能條さんが代表を務める「NO YOUTH NO JAPAN」は、どのような活動をしているのですか。
能條桃子さん(以下、能條): 2019年の参議院選挙のタイミングで、30歳以下(以下、U30) の若い世代に政治参加や投票の大切さを呼びかけようと「NO YOUTH NO JAPAN」(以下、NYNJ)を立ち上げました。当時、私はデンマークに留学しており、そこでは若者の投票率は8割を超えていました。一方、日本の同世代は20%程と低く、政治に私たちの思いが反映されない現状に不満を感じていました。そんな時、デンマークの若いアクティビストから「政治家を育てるのは私たち国民なんだよ」と言われ、「自分でアクションを起こさなきゃ、変わらないんだ!」とハッとしました。そこで急遽、参議院選挙の投票を呼び掛けようと動いたのが、NYNJのはじまりです。
私たち世代と親和性の高いInstagramのアカウントを立ち上げ、みんなに響くような素敵なデザインにしたいと思いました。そんなとき、今回「サステナブルバトン」のバトンを繋いでくださった、グラフィックデザイナーの平山みな美さんがデンマークに来ていると知り、ぜひお力をお借りしたいとお願いしました。
――そのInstagramの公式アカウントは、2週間でフォロワーが15000人以上になったそうですね。
能條: デザインの力ってすごいなと驚きましたし、想像以上の反響が嬉しかったです。平山さんは環境活動家でもあり、ご自分が大切にされている軸がぶれない方だなと感じます。その姿勢にいつも勇気をいただいています。
当初、NYNJはその参院選限りのアクションと考えていましたが、たくさんの人にフォローしていただいたこともあり継続することにしました。今は、「わたしたちの生きたい社会をつくろう」をハッシュタグにして、U30がもっと政治や社会に関心が持てるよう、社会問題や課題についてかみ砕いて発信しています。
近年は、SNSの発信のほか、実際のアクションにも力を入れています。2022年、トランスジェンダーを含む20~30代女性の政治参加を支援する「FIFTYS PROJECT」を立ち上げました。今年4月には、社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子さんの講演や、各地の地方議会の女性議員の方にお話いただく「FIFTYS PROJECT FES.2024」を主宰したほか、東京・駒沢オリンピック公園で開催されたイベント「民主主義ユースフェスティバル」に協力もしています。
――一般的に、日本では若者の政治への関心が薄いと言われます。能條さんはなぜ、強い関心を持つようになったのですか?
能條: 地元の神奈川県平塚市で、小学生の夏休みに参加したワークショップがきっかけだと思います。最終日に市議会議場に行き、そこで子供議員として市議会を実際に見学したのがすごく印象深くて。「自分の暮らしに関わることが、ここで決まっているんだ」と実感したんです。それが、今の私の土台かもしれません。
大学では、政府の資金の出入りなどを研究する財政学を専攻しました。気候変動や差別、格差といったさまざまな社会問題を変えるにはどうすればいいかを突き詰めると、結局は政治が決め手だと感じることが多かったんです。社会をよりよくするには、政治的にアプローチするのが効果的なのではないかと思うようになり、デンマークの社会人講座フォルケホイスコーレ(以下、フォルケ)に留学しようと思いました。
――フォルケでは何を専攻されたのですか?
能條: メインコースとしては、イベントのプロデュースなどを手がけるプロジェクトマネジメントを選びました。地域の音楽フェスでヴィーガン食や昆虫食を販売したり、学校の電気を全部消してみんなで寝転がりながら星を見上げるというイベントを企画・主催したりしました。小中学校の課外授業みたいで楽しかったですね。デザインシンキングの手法や、フェミニズムについて深められたこともよかったです。
留学を決めた大学3年生のころ、周りが一斉に就活を始めたことにすごく違和感があったんです。まだ2年しか大学で学んでないのに、このまま押し出されるようにして就職していいのかなって。休学するのは怖かったけど、いったん立ち止まって将来を考えたいというのも留学した大きな理由だったと思います。
最も刺激を受けたのは現地の10代、20代が議員としてアクティブに活動している姿でした。日本では18歳で選挙権が与えられるけど、議員になれるのは25歳以上で、参議院議員は、30歳以上でないと立候補できません。NYNJは参院選がきっかけだったこともあり、「私たちの代表なのに、30歳以上しか立候補できないなんておかしい」と改めて思いました。次のアクションにも繋がりました。
――NYNJを立ち上げてからご苦労されたことは?
能條: 政治アクティビストという今まで他の人がやらないことをやっているので、人によっては、異質に見えるかもしれません。私自身は、道なき道を切り拓いている……みたいな感覚は全然なくて。代表として経営や組織運営の難しさを感じることもありますが、それはどこでも同じですし、仲間がいるから、くじけずに前に進んでこれたのだと思っています。すごいねって褒めてくださる方も少なくありません。
女性官僚の先駆けで、元文部大臣の赤松良子さんが新聞の連載「私の履歴書」を元に書かれた「男女平等への長い列」で、“私の世代では全部を実現できないけれど、できる部分が必ずある。それをやり遂げて、少しでもましにして次の世代に渡す”と、いうようなことをおっしゃっていたんです。「私が社会を変えるんだ」とか「世界を救わなきゃ!」と一人で背負い込むと絶望してしまうけど、うまくいかないときは「一人で変えられるほど世の中は小さくない。こんなもんだよね」って思うようにしていますね。
フェアな視点がサステナブルには不可欠
――やりがいを感じるのはどんなときですか?
能條: 小さな成功体験が積み重なって、今に至っていまます。知り合う大学生に「高校のころからNYNJのインスタ、見てました」と言われたり、私と同じ大学を目指して受験を頑張ったという後輩から「合格しました」と知らせをもらったり……。どちらかといえば、地味で憧れられるような活動ではないのに、そう言ってくれる後輩たちがいると思うとすごく先行き明るいなって感じます。
最近は社会問題も、草の根活動として要望書を出したり、SNSで話題になったりすることで、実際に少しずつ変化もみられるようになりました。たとえば、今までは望まない妊娠を防げる緊急避妊薬は医師による処方箋がないと買えませんでした。でも、若い世代を中心に声を挙げ、世論が動いたことで、薬局で購入できるようになりました。政治というと、自分とは遠い出来事と思われがちですが、暮らしと密接につながっていることに気づく人が増えたのだとしたら嬉しいです。
――誰もが暮らしやすい社会にしていくには、何が求められると考えますか?
能條: フェアな視点だと思います。性別や人種、年齢、経済、地域など、いろんな見えない格差があると思うんです。そうしたハードルを取り払っていくと、本当の意味でサステナブルな社会に変わっていけるのかなって。私たちとしては、まずはなにが課題か、解決するにはどうしたらいいかを知ってもらうため、Instagramで引き続き発信したり、オーガナイザーを育成する講座を開催したりしています。
U30世代の代表を国や自治体などに送ることがすごく大事だと思っています。そのために昨年4月、「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」も新たに起こしました。政治参加には経験が必要と諭されることもありますが、10代は10代の、20代は20代の経験をしていると思うし、当事者である私たちの方が何を求めているかよくわかっていると思うんですよ。
――能條さんは、サステナブルをどうとらえていますか?
能條: 今を生きる私たちが、この世界を次の世代に残していくためにできることはなにかを意識しながら暮らすことかなと思います。先日、英紙ガーディアンでIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の記事を見ました。2100年までに地球の平均気温が1.5度に収まると考える科学者はほぼおらず、近い将来、海面が1m上昇するとも言われています。となると、東京の湾岸エリアは水没するかもしれない。なのに科学的根拠を見ないふりして開発を続けるのってどうなのかなと考えることも大切な視点ですよね。
また、東京で生活していると、水や電気、様々な物資などが簡単に手に入りますが、それは地方や世界各地で作られたものを搾取する構造の上に成り立っているのかなと感じます。地球環境も社会課題もそうですが、先進国で消費する側の私たちが行動を起こせば、少しずつでも持続可能でよりよい社会にしていける……。だとしたら、じっとしてなんていられないと思うんです。
――最後に、今後力を入れたいことや深めたいことは何でしょう?
能條: 喫緊の課題としては、やはり気候変動の問題は取り組まなきゃいけないと思います。また、イスラエルによるパレスチナのジェノサイドに関して日本や欧米の対応を報道で見ると、様々な面で加担する側にあると責任を感じますし、日本がこのまま戦争をしない国でいられるかどうか、すごく重要な局面にあると考えています。世界を見渡すと、隣国を驚異の対象とみなして不安をあおることで得をする人がいると感じます。日本もそれに追随し、戦争や紛争に加担して手にした豊かさでこの先、私たちは生きていくとしたら……。望まない未来にしないため、よりよい社会にしていくために、U30の代表の意見も反映できる、多様性のある仕組みを作っていきたいんです。
私自身が政治に立候補しないのかと聞かれることもあります。衆議院なら立候補できる年齢ですが、今すぐという気持ちはないですね。政治家は有権者の鏡と言われます。つまり、有権者を育てることが良い政治に繋がります。そうした環境をみんなと作り、育むことのほうがやりがいを感じるんですよね。
●能條桃子(のうじょう・ももこ)さんのプロフィール
1998年、和歌山県で生まれ、神奈川県で育つ。慶應義塾大学経済学部在学中にデンマークへ留学、日本のU30世代の政治参加を促進する「NO YOUTH NO JAPAN」(NYNJ)を設立。慶應大学院経済学研究科修士。2020年にNYNJを一般社団法人化し、Instagramなどを利用したSNSメディアの運営で社会問題の発信や投票率向上に取り組む。2022年、議員における女性の割合を増やすための組織「FIFTYS PROJECT」代表に就任。「立候補年齢を引き下げるためのプロジェクト」を起こし、神奈川県選挙管理委員会へ要望書を提出するなど、実際のアクションも積極的に行っている。
- ■サステナブルバトン5
#01 気候アクテイビスト・小野りりあんさん。「樹木を守り、自分も地球も持続できる生き方を」
#02 「社会課題解決へのコミュニケーションをビジュアルで」。グラフィックデザイナー・平山みな美さん
#03 U30世代、女性の政治参加で生きたい社会を作ろう! 能條桃子さんの考えるこれからの政治
- ■サステナブルバトン4
#01 毎日のごはんから感じるしあわせ 菅野のなさんが伝える素朴だからこそ奥深い料理
#02 長く愛せて顔が見える服づくり 会津木綿で受注生産を続ける山崎ナナさん
#03 郷土料理の魅力を残したい。料理家・写真家minokamoさんが伝える食文化の奥深さ
#04 一番身近なものは、心地よさにこだわりたい。デザイナー荒川祐美さんの考える豊かなくらし
#05 環境にも体にも優しく美しく。YOKO KOIKEさんの手掛けるヴィーガン料理。
#06 美しさとサステナブルが両立するデザインに挑戦 空間演出家・稲数麻子さん
#07 乗鞍高原の自然をいつまでも。シンガーソングライター高橋あず美さんが主催する「自然にやさしいフェスティバル」
#08 トラウデン直美さん「環境にも自分にも嬉しい選択を」。サステナブルも気負わずに
#09 古着で表現する自分らしさ。「DEPT」オーナー・eriさん。使い捨て生活からの脱却に挑戦
#10 コムアイさん、アマゾンでのお産で体感した生命力。「サステナブルとは生き延びるための闘い」
#11 気候変動対策、1歩を踏み出すには? NGOリーダー荒尾日南子さん「みんな自然とつながっている」
#12 岡本多緒さん、ポッドキャストで環境問題を発信。「気候危機は他人事じゃない」
- ■サステナブルバトン3
#01「”賞味期限”から解放されよう」食品ロス問題ジャーナリスト井出留美さん
#02 アフリカのバナナペーパーで環境と貧困対策を実践 エクベリ聡子さん
#03「AFRIKA ROSE」萩生田愛さん ケニアのバラが紡ぐフェアトレードの絆
#04 「10着のうち1着はサステイナブルに」。スローファッションを提案する「Enter the E」植月友美さん
#05ソーシャルオーディター・青沼愛さん 「ラナ・プラザの悲劇」を繰り返さないために
#06 350年続く老舗酒蔵に生まれ、酒の飲めない寺田聡美さん 酒粕で発酵食品作り
#07 てぬぐいカフェから盆踊りまで 瀬能笛里子さんが鎌倉で実践する”和の豊かな暮らし”
#08古着物を「野良着」にアップサイクル 日常生活に採り入れ、魅力を発信 鈴木早織さん
#09ハンドメイドマルシェで、女性たちと地域の輪をつなぐ齋藤直美さん
#10光の演出で包み込む デザイナー迫田悠さんが手掛ける映像空間の魅力
#11子ども向けバイリンガル劇団を主宰する草野七瀬さん。国籍も言語も越え自由で平和な表現空間を
#12柔軟な働き方を選べる社会を目指すPolaris市川望美さん。「シゴト軸のコミュニティ」も構築
- ■サステナブルバトン2
#01留学で気づいた「ファッションを通した社会貢献」。徳島県上勝町でゼロ・ウェイストに取り組む、大塚桃奈さんの新たな挑戦とは
#02「“エシカル”という言葉を使うことで、抜け落ちてしまう何かがある」コミュニティ・コーディネーター松丸里歩さんが考えるエシカルのかたち
#03「サトウキビストローを販売するだけでなく、回収し堆肥化までが本質」4Nature代表・平間亮太さんが取り組む、人と人とのエシカルなつながり
#04「エシカルを押し出すのではなく、コーヒーショップとしてできることを考えたい」オニバスコーヒー坂尾篤史さんが考える、エシカルの本質
#05 旅する料理人・三上奈緒さん「旅する理由は自然の中に。答えは自然が教えてくれる」
#06「自然はとても複雑で答えはひとつではない」アーティスト勅使河原香苗さんが自然から学んだこと
#07「サーキュラエコノミーとは心地よさ」fog代表・大山貴子さんが考える、循環型社会とは
#08「関わるものに、誠実に素直に対応できているか」株式会社起点代表・酒井悠太さんが福島県でオーガニックコットンを栽培する理由
#09 英国発のコスメティクス「LUSH」バイヤー・黒澤千絵実さんが魅了された「美しい原材料」の考え方
#10「心地よい空間は、他者を思いやることから」。ダウン症の人の感性を発信し、居場所作りを進める佐藤よし子さん
#11森を豊かに、自分も心地よく。森林ディレクター奥田 悠史さんが描く森の未来図
#12 ハチドリ電力の小野悠希さん「一人が出来ることは決して小さくない」地球温暖化を止めるため「最も大きなこと」に挑戦
- ■サステナブルバトン1
#01 「消えゆく氷河を前に、未来のために今日の私にできることを考えた」エシカル協会代表・末吉里花さん
#02 「ファストファッションは悪者? そうじゃないと知って、見える世界が広がった」エシカルファッションプランナー・鎌田安里紗さん
#03 「薬剤やシャンプーはすべて自然由来。体を壊して気づいた、自然体な生き方」ヴィーガンビューティーサロン美容師・中島潮里さん
#04「“地球に優しい”は、自分に優しいということ」エシカルコーディネーター・エバンズ亜莉沙さん
#05「花屋で捨てられていく花たちを、どうにかして救いたかった」フラワーサイクリスト・河島春佳さん
#06「花の命を着る下着。素肌で感じるサステナブルの新しいかたち」草木染めランジェリーデザイナー小森優美さん
#07「家庭科で学ぶエシカル。サステナブルな未来は“やってみる”から始まる」高校教諭・葭内ありささん
#08「ふぞろい野菜、瓶に詰めたらごちそうに。自然とつながる“おいしい”の作り方」ファームキャニング代表・西村千恵さん
#09「世界を9周して気づいた、子どもを育てる地域コミュニティーの大切さ」一般社団法人「そっか」共同代表・小野寺愛さん
#10「エシカルとは“つながっていること”。人生の先輩たちの生活の知恵を残していきたい」一般社団法人はっぷ代表・大橋マキさん
#11「庭で見つけた“発見”を作品に」変化し続けるアーティストasatte羽田麻子さん
#12「自分で自分を幸せにしてほしい」TOKOさんが考えるヨガとエシカルの関係
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第99回「デザインとはメッセージ」。環境活動家でグラフィックデザイナーの平山みな
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第100回インドの子どもや女性の支援もできる「アルティーダ ウード」のジュエリー
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第101回U30世代、女性の政治参加で生きたい社会を作ろう! 能條桃子さんの考える
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第102回街のパン屋を守るセレクトショップ「BAKERs' Sympho
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第103回核のない世界に向けて行動する「カクワカ広島」田中美穂さん。メッセージを発