Presented by ルミネ
サステナブルバトン

「自分で自分を幸せにしてほしい」TOKOさんが考えるヨガとエシカルの関係

サステナブル・エシカル業界で活躍する人にバトンをつなぎインタビューする「サステナブルバトン」。第12回は、神奈川県葉山に隣接する秋谷(あきや)のヨガスタジオで、ヨガを教えているTOKOさんです。20歳の頃、野生のイルカと泳いだ時に味わった「至福」の時間。その感覚を追い求めて、野生のイルカと泳ぐドルフィンツアーの仕事をする中で、ヨガに出会いました。そこで、イルカと泳いでいる時と同じ「至福」の体験したことから、ヨガに興味を持ち始めました。「幸せは自分の内側にある」ヨガのベースにはエシカルがあると言うTOKOさんに話を聞きました。

●サステナブルバトン12

asatte羽田麻子さんからTOKOさんへのメッセージ

秋谷の海を見下ろす丘の上で「tada.ima YOGA HOUSE」を主宰するTOKOさん。
おおらかで、あたたかく、誠実な彼女は、包み込んでくれるような優しい声の持ち主。その美しき立ち姿のごとく真っ直ぐな芯の強さも感じます。
日々の暮らしの何気ない一瞬、空や海や草木を見て、どう感じるのか、彼女の眼差しに共感することが多々あります。
自然との関わり方、受け取り方、心のもちよう、ひいては生き方。今、大切にすべきことが、TOKOさんの中にギュッと詰まっている気がするのです。

ヨガを通して「安心できる場所」を提供したい

――前回登場いただいた羽田麻子さんとは、どのようなきっかけで知り合ったのですか?

TOKOさん(以下、TOKO): 私が住んでいる秋谷では、7年ほど前から「秋谷の秋展」という小規模な芸術祭が毎年秋に開催されています。3年前、私がヨガのイベントで出展した際、麻子さんも出展されていたのがきっかけで知り合いました。インスタグラムをフォローし合っているのですが、雨上がりの水滴や、道に咲いていた花を撮った写真など、二人とも似たような投稿をしていることが多いんです。お互い自然が好きで、感性が似ていると感じます。

――TOKOさんはtada.ima YOGA HOUSE でヨガを教えられていますが、「ただいま」という響きがいいですね。

TOKO: この名前には、訪れる人にとって「安心できる場所」であってほしいという思いが込められています。そのきっかけは、学生時代にさかのぼります。私は父親の仕事の関係で、小6までは香港、それ以降は米国カリフォルニア州南部のオレンジ郡で過ごしました。

外国での暮らしは楽しい反面、言語や文化の壁を感じ、大変な思いをしたこともありました。つたない英語を一生懸命話したら周りから笑われてしまい、「学校に行きたくない……」とポロッと家族に話したことがあります。

その時の家族の反応は「休みたかったら休んでもいいよ」だったんですね。何をしてくれるわけではなく、いつもと変わらず母は料理を作ってくれる。安心感のある空間を提供してくれました。
その経験から、少し大げさかもしれませんが「もし世界中を敵に回しても、家族は私の味方でいてくれる」という気持ちが芽生えました。その思いは、大人になっていくにつれて、私の“強さ”になっていきました。
その安心感、安全な感覚が、私がヨガを通して最も提供したいことなんです。

20歳でイルカと出会い、「至福体験」を味わう

――幸せの定義は難しいと思いますが、TOKOさんはどういった時に「幸せ」を感じますか?

TOKO: 私の幸せの原体験は、イルカといっしょに海を泳いだ時でした。元々、動物と海が好きだったのですが、20歳の時に映画『グラン・ブルー』を見て、「イルカと泳いでみたい」と思いました。調べたところ、小笠原諸島で野生のイルカと泳ぐ「ドルフィンスイム」のツアーがあることを知り、申し込みをしました。

初めての一人旅。東京の竹芝桟橋からフェリーに乗り、24時間かけて小笠原へ。そして、念願だったイルカといっしょに泳ぐ夢が実現しました。
私が潜ると、イルカもいっしょに潜り、横に並んでアイコンタクトをしてきて。全く違う生物同士なのに、コミュニケーションが取れ、「こんな世界があったんだ!」と衝撃を受けました。
海の中に潜ってイルカと過ごす時間は、他のことを考えずに、目の前にいるイルカだけに集中できます。まるで子どもみたいに無邪気な気持ちになり、全細胞がよろこんでいる感覚を味わいました。これが至福というものなのだと。

その「至福体験」が忘れられず、大学3、4年生の時はアルバイトをして貯めたお金でバハマやハワイに行き、イルカと泳ぎ、帰国して大学の授業を受けるという生活を送っていました。

ヨガのベースにある倫理観=エシカル

――大学3年生の頃から就職活動が始まると思いますが、その合間をぬってイルカに会いに行っていたのですか?

TOKO: 実は、就職活動は全くしなかったんです。当時はドルフィンスイムのツアーのアシスタンや通訳をしていて、卒業後もこの仕事を続けたいと思いました。その思いを伝えたら父に反対されるかなと思ったのですが、「何かが嫌で逃げるためだったら許さないけれど、本当にやりたいことだったらやってみなさい」と言われました。本当は心配していただろうに、娘の意思を尊重してくれたことがありがたかったです。

20代は国内外の海を渡り歩き、ツアーに同行する中で、イルカに癒されたい参加者に出会いました。満足する人もいれば「イルカは何もしてくれなかった」とがっかりする人もいましたね。天候にも左右されるので、ツアーに申し込んだからといって、必ずしもイルカと泳げる保証はありません。

それを見ていて、「こんなにイルカばかり頼っていていいのか……」という疑問が湧いてきたんです。そう思い始めた時期に、たまたまヨガを体験する機会がありました。初めてのヨガで味わったのは「今ここにいる感覚」でした。

それは、イルカと泳いでいる時に感じるものと同じ感覚だったんです。これまで遠い海に行かないと味わえなかったことが、日常において、自分で生み出せることを知った瞬間でした。そこからは、ヨガのことをもっと知りたいと思い、ヨガにめり込んでいきました。

――ヨガを学ばれ、今はご自身で教えられていて10年以上経ちますが、冒頭に言われた「安心」や「安全」はヨガを通して伝えられている感覚はありますか?

TOKO: はい。最初にヨガを受けに来られる方は、肩や腰など身体的な不調を訴える場合が多いのですが、クラスに通ううち「仕事でのイライラが減った」、「大嫌いだった人が受け入れられるようになった」など、心の変化を報告してくれる人もいます。

ヨガのベースにあるのは、日常で「してはいけないこと」と「すべきこと」の哲学です。それは倫理観という意味ではエシカルとも言えると思います。ヨガは体のみを動かす運動だと思われがちですが、実は、土台には倫理観があり、その上にポーズや瞑想があるんですね。

心と体はつながっているので、体が楽になると心も楽になり、その逆もしかりです。ヨガを通してその連動を見ることができているのがおもしろいと感じています。

自分を幸せにする努力を惜しまないで

――昨年から新型コロナウイルスの感染が広まっていて、安心、安全を感じにくい世の中になっていると思います。改めて、ヨガを通して伝えたいメッセージを教えてください。

TOKO: ヨガは、ポーズをとることで体の緊張をほどき、呼吸を使って神経を穏やかにし、瞑想によって自分見つめていきます。
安心、安全なスペースが“外側”にあったら最高ですが、自分の“内側”にも探してほしいと思っています。

その答えはダイレクトに与えず、その人に合った小さなヒントをたくさんちりばめて日々伝えていくことで、本人が自分で気づくまで待ちます。
幸せも同じだと思っています。「誰か」や「何か」に「幸せにしてもらう」のではなく、自分で自分を幸せにする努力、そのための時間を惜しまないことが大切です。
それは決して難しいことではありません。例えば、30分外を歩いてみたり、花や木に触れてみたりと好きなことをして、“不安のスイッチ”を切る工夫から始めてみてください。

人間はAIや機械ではないので、調子がいい時も悪い時もあります。そういった“揺れ”を許し、それ自体を楽しむくらいの気持ちで。粗があるのも人間の豊かさです。そのことに客観的に気づくと心が楽になるかもしれません。

■TOKOさん(とこ)さんのプロフィール
1973年東京生まれ。父親の仕事の関係で、小中高校時代を香港と米国カリフォルニア州で過ごす。日本の大学へ進学した後、20歳でイルカと出会う。大学卒業後、国内外の野生のイルカと海で泳ぐ「ドルフィンスウィムツアー」のアシスタントや通訳の仕事をする。30歳の時、ヨガを知り、トレーニングを積み、TOKOYOGAを始める。2018年に神奈川県横須賀市の秋谷に、tada.ima YOGA HOUSE(タダイマ ヨガハウス)を開く。現在はオンラインとオフラインでヨガやヨガ哲学を教えてている。
https://www.tokoyoga.com/

同志社大学文学部英文学科卒業。自動車メーカで生産管理、アパレルメーカーで店舗マネジメントを経験後、2015年にライターに転身。現在、週刊誌やウェブメディアなどで取材・執筆中。
写真家。1982年東京生まれ。東京造形大学卒業後、新聞社などでのアシスタントを経て2009年よりフリーランス。 コマーシャルフォトグラファーとしての仕事のかたわら、都市を主題とした写真作品の制作を続けている。
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