『アンサンブル』9話

お互い好きなのに……相手を想って「離れる」選択をする恋の切なさ 『アンサンブル』9話

ドラマ『アンサンブル』(日テレ系)は、「恋愛はタイパ・コスパが悪い」と思っている弁護士・小山瀬奈(川口春奈)と、愛や誠を信じる新人弁護士の真戸原優(松村北斗)が、恋愛のトラブルを扱った裁判に向き合うことで、自分たちの恋に生かしていくストーリー。瀬奈はかつて5年間付き合っていた元恋人・宇井修也(田中圭)との間にトラウマを抱えている。第9話では、愛する人の幸せを願った結果の切ない選択が描かれた。
「好きだから幸せにしてあげたい」は本当の愛? 母の支配と迷いを断ち切るには 『アンサンブル』8話 【イラストで見る】ドラマ『アンサンブル』

「信頼されていなかった」瀬奈の孤独

『アンサンブル』1話から9話にかけて、瀬奈の恋愛観は少しずつ変化を見せている。宇井との一件があってからというもの、恋愛とは距離を置き、自分の心をいたずらに傷つけないよう守ってきた。しかし、優と出会ってからは変わった。瀬奈は少しずつ「相手を幸せにしたい」と考えるようになり、優に対しても「私は、真戸原くんを幸せにしてあげたい」と口にしている。

優は、まともな説明もしないまま、瀬奈の前からいなくなってしまった。きっとそれは優の思いやりで、彼なりの思考で「もう、そうするしかない」と判断したからこその選択だろう。瀬奈の母・小山祥子(瀬戸朝香)は「信用した私がバカだった」と嘆く一方で、宇井は「彼は理由もなくいなくなる人じゃないと思うよ」と助言するが、瀬奈自身はどこか「フラれただけ」「もう吹っ切れてる」と諦めの境地である。

瀬奈が優と心を通わせ、愛情を確かめ合ったのは本当だった。自分のことよりも、まず相手のことを考え、幸せにしてあげたいと思える同士がお互いを好きになった。その結果、相手の立場を考えるあまり「離れる」選択をせざるを得ないのは、なんとも物悲しい。見方を変えれば、屈折しすぎているとも取れる。

優の行動は唐突で、あまりにも説明がなさすぎる。瀬奈はただ「負担だったんだよ」「何も話してくれなかったってことは、私のこと信頼してなかったってこと」と自分を納得させるように言うしかなかった。優自身、本心では瀬奈のことを思い、だからこそ無理矢理にでも距離を置いたのだと瀬奈も気づいているはず。だけど、信頼されていなかった、と実感させられる孤独は重い。

「伝えない」選択は本当の優しさ?

「信頼されないことが生む孤独」というテーマが色濃く立ち上がった9話。瀬奈の立場を思えば、過去に宇井から距離を置かれ、今度は優からもしっかりした説明のないまま別れを告げられたことになる。自らを納得させようとする瀬奈は健気だが、結局のところ、優が何を考え、何を理由に姿を消したのか、本人の口から説明されない限りは承服しがたいだろう。

優は瀬奈のことを「心配をかけたくない」「傷つけたくない」と思っていたのかもしれない。でも、それは結果的に瀬奈を傷つけることになった。大事なことを言わないこと、相手のためを思って「伝えない」選択をすることは、本当の優しさなのだろうか。

同じような苦しみを感じていたのが、優の育ての母である真戸原有紀( 八木亜希子)だ。彼女は、夫の真戸原和夫(光石研)が彼の姉であり優の実母でもある真戸原ケイ(浅田美代子)に毎月生活費を渡し、元恋人のたかなし法律事務所長・小鳥遊翠(板谷由夏)が半分以上の金額を援助していたという真実を隠し続けていたことを知り、実家に戻ってしまう。瀬奈と同じように「信頼されず、本当のことを知らされなかった」ことへの孤独が、有紀の胸にも広がっていたのだ。

愛する人を「守るため」「心配をかけたくないから」と隠し事をすることが、本当に相手のためになるのだろうか? そんな問いを投げかける9話だった。

「母のそばにいたい」は本心なのか?

瀬奈のためを思い、これ以上瀬奈に負担をかけたくない一心で、優はたかなし法律事務所を辞め、有紀の実家に身を寄せた。優が極端な行動に出ているのは明らかだ。「大丈夫、小山さんは俺じゃない人となら幸せになれる」という言葉は、自己犠牲を通り越し、卑屈ささえ滲(にじ)んでいる。

瀬奈は優に会いに行くが、もどかしい形ですれ違う。最終回には会えるのか? 会えたとして、瀬奈と優の関係は修復されるのか?

宇井は瀬奈に「真戸原さんのとこ行こうとしてる?」「行かないで」と引き止め「ごめん、瀬奈が好きなんだ」と告白する。しかし、瀬奈は「私は宇井くんに幸せにして欲しいわけじゃないみたい」と言い、優への想いをあらためて自覚する。

もしかしたら、瀬奈は優とも宇井とも結ばれず、一人で生きる道を選ぶ可能性もあるのかもしれない。

大切な人たちから信頼されなかった人たちの、持て余した孤独が描かれた9話。本音を知らされない苦しみを抱えていても、瀬奈は優を「幸せにしてあげたい」と決断した。

最終回の展開を予測するのは難しい。ただ一つ、瀬奈にとって「本当に幸せな未来とは何か」を問うラストにはなりそうだ。彼女が最後に選ぶ道は、幸せへと続いているのだろうか。

「好きだから幸せにしてあげたい」は本当の愛? 母の支配と迷いを断ち切るには 『アンサンブル』8話 【イラストで見る】ドラマ『アンサンブル』

『アンサンブル』

日テレ系土曜22時~
出演:川口春奈、松村北斗、長濱ねる、じろう(シソンヌ)、戸塚純貴、香音、東野絢香、橋本マナミ、SUMIRE、瀬戸朝香、横田真悠、中田クルミ、稲垣来泉、八木亜希子、光石研、板谷由夏、田中圭ほか
脚本:國吉咲貴、諸橋隼人、ニシオカ・ト・ニール
主題歌:aiko「シネマ」
チーフプロデューサー:荻野哲弘
演出:河合勇人

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
ドラマレビュー