血の繋がりか、育ての親か。宇井(田中圭)の親権問題と子に近づく“実母”の存在 『アンサンブル』7話
「育て」よりも「実の」親が強いのか?
第7話の大きな軸となったのは、宇井の親権問題。8年前に亡くなった兄・智也の娘である咲良(稲垣来泉)を引き取り、4歳から育ててきたこのタイミングで、咲良の実母・木原美沙希(市川由衣)が突然現れた。彼女は、咲良が3歳のころ、智也の赴任先であるシンガポールで暮らしていたが、娘を置いて一人で日本に帰国し、5年前に別の男性と再婚している。そんな“実母”が「咲良を返してください」と親権を主張してきた。
咲良にとって、物心ついたときから「パパ」としてそばにいたのは宇井だ。「今まで通りでいいよ、パパと暮らす」と、本人の意思は明確のよう。しかし、宇井は社長業が忙しくて自宅になかなかいられず、裁判では「環境が整ってさえいれば実母が強い」 という現実が突きつけられるという。咲良の実母は本当に「母親としての役割を果たしたい」と思っているのか、それとも、いまになって名乗り出てきた別の理由があるのだろうか?
弁護士である瀬奈を頼って事務所にやってきた宇井。瀬奈も親身になり、親権を取られないようにするためには「咲良と過ごす時間をなるべく増やし、子の監護状況を整えること」 が必要だと助言する。瀬奈がこの問題に本気で向き合う姿を見た優は、当然ながらモヤモヤを抱えることになる。
しかし、瀬奈は優を不安にさせないよう、最大限に言葉と行動で示しているように見えた。宇井に対しても「私、いま真戸原くんと付き合ってる」としっかり告げ、宇井との関係は過去のものと位置づけている。
しかし、瀬奈と宇井は高校から大学にかけての5年間をともにした仲であり、宇井は瀬奈にプロポーズまでしているのだ。優が「二人の間に入り込めない気がする」と不安を感じるのも、無理はない。
愛されるほどに不安になる優
咲良の親権問題に関わるなか、優の心には「どうしても拭えない不安」が巣食って離れない。瀬奈からの愛情はじゅうぶん伝わっているし、宇井の件が仕事であることも理解できている。それでも、瀬奈と宇井の間にしかない唯一の関係性を見出しているようだ。それは一概に嫉妬とは言い切れない、複雑な心理だろう。
瀬奈、宇井、咲良、優の4人でスケートリンクを訪れたときも、仲良さげにしている瀬奈と宇井の姿を見て優は心を揺らしてしまう。かつての瀬奈は、宇井としたいことがいっぱいあった。瀬奈は以前、優たちと気球に乗ったときに「私ね、気球乗ってみたかったの」と口にしていたが、それすらも宇井との“やりたいことリスト”に入れていたことだったのだ。優は瀬奈の部屋で偶然、そのリストを目にしてしまう。
拭いきれない優の不安を察したのか、瀬奈は「二人で一緒に過ごす時間を増やせたらなと思って」 と“週末同棲”を提案した。恋人同士だからこそ、ただの言葉ではなく、行動で示したい。瀬奈が繰り返す言動には、もはや「恋愛が苦手」と距離を置いていた彼女の姿は片鱗(へんりん)すら見られない。宇井との破局の経験、そして優との出会いがこうも瀬奈を変えたのだろうか。
だが、優は心の奥にある不安を完全に消し去れているわけではない。
「小山さんに優しくしてもらうたびに、好きになるたびに思い出して、小山さんがどこかに行っちゃうんじゃないかって」と、実母に置き去りにされた過去があるからこそ、愛されるほどに、好きだという気持ちを自覚するたびに、不安になる優。彼は「どうしたら確固たる信頼を築けるのか?」と模索しているようにも見える。
それに対する瀬奈の答えは「不安があるなら、なくなるまでそばにいる」「大丈夫、絶対に幸せにする」とシンプルだった。言葉だけでなく、日々の積み重ねで、優の不安をひとつずつ消していこうとする瀬奈。彼女のまっすぐな思いが、優の心を少しずつ解きほぐしていく。
愛情のない親子関係の断絶
7話では、優の実母・真戸原ケイ(浅田美代子)も登場。長らく姿を見せていなかった彼女は、優の暮らす家の前でこっそり様子をうかがっていた。彼女は、優を育ててきた真戸原和夫(光石研)の姉で、和夫から毎月多くのお金を受け取る代わりに「優には会わない」と約束していたようだ。和夫にとっては、息子に愛情がなく、姿を消した“実母”を遠ざけるための策だったのだろう。
しかし、ケイはその約束を破って優に近づこうとしている。その構図は、咲良の親権を主張し始めた美沙希と被る。「母親であること」を武器に、子どもの生活に入り込もうとするある種の暴力性が際立つ。
「母親なんだから、とか言われても、無理なものは無理」。かつてのケイが言った言葉だ。たとえ親子だからといって、そこに愛情が保証されているとは限らない。血の繋がりがあるだけでは「本当の家族」にはなれない。「私が不幸なのは全部あんたのせい」という彼女の言葉が、どれほど幼い優の心を抉(えぐ)ったか。親は子を守るもの、という考えは、ただの神話のように思えてしまう。
優が築いてきた家族は、血の繋がりだけではなく、ともに過ごした時間と信頼によって形作られてきたものだった。果たして、ケイはなぜいまになって優の前に現れようとするのか。瀬奈の愛情を信じたい優だが、不安の根源は“実母”に絡む過去の経験にあるのだろう。
「血の繋がり」を根拠にする実母たち。それが本当に子どものためになるのかは、疑問でしかない。「信頼」は、一度築いてしまえば揺るがないものではなく、日々の積み重ねのなかで形を変えていくもの。瀬奈の言うように「不安があるなら、なくなるまでそばにいる」こと、その積み重ねこそが、真の信頼へと繋がっていくのではないか。
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日テレ系土曜22時~
出演:川口春奈、松村北斗、長濱ねる、じろう(シソンヌ)、戸塚純貴、香音、東野絢香、橋本マナミ、SUMIRE、瀬戸朝香、横田真悠、中田クルミ、稲垣来泉、八木亜希子、光石研、板谷由夏、田中圭ほか
脚本:國吉咲貴、諸橋隼人、ニシオカ・ト・ニール
主題歌:aiko「シネマ」
チーフプロデューサー:荻野哲弘
演出:河合勇人
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