『アンサンブル』6話

「社内恋愛」を周りに伝える? 母の愛と過干渉で揺れる瀬奈(川口春奈)の選択 『アンサンブル』6話

ドラマ『アンサンブル』(日テレ系)は、「恋愛はタイパ・コスパが悪い」と思っている弁護士・小山瀬奈(川口春奈)と、愛や誠を信じる新人弁護士の真戸原優(松村北斗)が、恋愛のトラブルを扱った裁判に向き合うことで、自分たちの恋に生かしていくストーリー。瀬奈はかつて5年間付き合っていた元恋人・宇井修也(田中圭)との間にトラウマを抱えている。第6話、晴れて恋人同士になった瀬奈と優だが、交際を始めた事実を周囲に伝えるか否かで揉(も)めてしまう。
「私はいなくならない」。別れが不得手な優(松村北斗)と一歩を踏み出す勇気 『アンサンブル』5話 【イラストで見る】ドラマ『アンサンブル』

堂々と支え合える恋は、どうすればできる?

何度もすれ違った瀬奈と優だが、なんとかお互いの本音を伝え合い、無事に交際することになった。6話の主題は「社内恋愛を周りに伝えるか? それとも伝えないか?」だろう。瀬奈と優の関心事は、ひたすら二人が勤めるたかなし法律事務所の人間やお互いの家族に集中していた。誰よりも先に、瀬奈との復縁を望んでいた宇井に伝えたほうがいいはずだが……。

瀬奈は優との交際について周囲に秘密にしたがっており、反して優はオープンにしたいと思っている。瀬奈は「周囲に変な気を使わせちゃったり」して業務に支障が出そうな気がする、と口にしているが、その実、「事務所のみんなに浮かれてるーとか、恋愛したかったんだーとか思われたくなくてさ」と少々自分本位なことを考えていた。

一方、ピュアで真っ直ぐな優は「みんなに言ったほうがお互い堂々と支え合えるし、いいんじゃないかなーって思うんですけど」との希望。瀬奈の考えも傲慢(ごうまん)に思えるが、優の視点も現実を反映しきれていない、と感じてしまう。事務所の面々は安全だろうが、世の中、社内恋愛に対して清い思いを持っている人間ばかりではないと思う。

その点、しっかり「優くんは、小山さんと一緒にいてもいいっていうお墨付きが欲しいんだ。安心したいんだね」「自分のことだけじゃなくて、相手のことも考えてみたら? 恋愛は二人でするものだから」と優を諭す所長の小鳥遊翠(板谷由夏)はさすがだ。

タイミング良く、社内恋愛のもつれによって裁判に至ってしまった案件が舞い込んでくる。瀬奈と優は本件を通して、社内恋愛に対する考えをすり合わせることになり、最終的には互いの考えを受け入れて周囲に交際の事実を知らせることにした。

ドラマの構造上、どうしても仕方のないことではあるが、裁判を通してプライベートな問題を解決させる瀬奈と優を見ていると、「公私混同している弁護士は信頼できない」と事務所のWebサイトに口コミを書き込まれても、さもありなんと思える面もある。

目に余る母の言動に瀬奈の主張は

瀬奈と優が付き合えることになった事実はめでたいが、どうしても宇井との関係を修復させたがっている、瀬奈の母・小山祥子(瀬戸朝香)にとってはおもしろくないだろう。過干渉っぷりはエスカレートしていき、もはやモンスター母となってしまっている。

瀬奈の担当する裁判をこっそり傍聴しに来たり、優の実家である飲食店に乗り込んできたりと、さすがの瀬奈も頭を抱える展開が目立った。祥子は瀬奈を「自分のことは何にも決められない子どもなの」と決めてかかっている。

かつて瀬奈は、宇井と破局したショックから引きこもり同然になっていた時期があり、ずっと寄り添ってくれた祥子に恩を感じている。そのために強く出過ぎることができないでいたが、そんな瀬奈でさえ「どれだけ大変でも、自分が決めた道を歩きたいよ。私の人生なんだから」と主張するほど、祥子の言動は目に余る。

祥子も祥子で離婚に至り、瀬奈に苦労をかけたことから、娘に同じようなつらい思いをさせたくないと考えている……そんな美談に押し込めることもできるだろう。

しかし、産み育ててもらった、寄り添ってもらった恩義にかこつけて娘を支配しようとする母子の構図は、一歩間違えれば共倒れになる危ういものだ。瀬奈と祥子の場合は、お互いを大事に思っていると伝え合ったうえで親離れ・子離れができるかもしれない。しかし、きれいにまとまらない親子関係のほうが断然多いのでは、と痛感させられるエピソードでもある。

孤独は人を狂わせる?

事実婚にまつわる裁判が取り上げられた5話において、「夫」であるはずの男性から一方的に別れを告げられ、裁判で「内縁関係があった」と主張するも認められず敗訴した梶野穂花(山崎紘菜)が6話で再登場した。穂花は、仲良くカフェでモーニングしている瀬奈と優を見かけてしまう。そして、二人への逆恨みからか、たかなし法律事務所のサイトに匿名で批判的な口コミを書き込んでいたのは、穂花だと判明する。

裁判に負けて、恋人も一緒に住んでいた場所も失い、よりどころのない彼女は確かに“孤独”かもしれない。本人も「あの口コミは私が書きました」と認めたうえで、自身の不遇を「不公平じゃないですか。夫に捨てられて、裏で友達に陰口を言われてたことも晒(さら)されて、私だけひとりぼっちじゃないですか」と表現している。

やり場のない気持ちを、幸せそうに見える瀬奈や優にぶつけるしかない。屈折した孤独の描き方は、5話での「やはり事実婚だと、いざというときに困るのでは?」などと偏った見方を助長しかねない表現方法と似通う点がある。

孤独は人を狂わせてしまうのだろうか。穂花の言動は、あまりにもステレオタイプに過ぎる気がしてならない。彼女も一人の女性として、納得できない思いを抱えながらも自立していく過程を描写してほしいと願うが、果たして叶(かな)うだろうか。

「私はいなくならない」。別れが不得手な優(松村北斗)と一歩を踏み出す勇気 『アンサンブル』5話 【イラストで見る】ドラマ『アンサンブル』

『アンサンブル』

日テレ系土曜22時~
出演:川口春奈、松村北斗、長濱ねる、じろう(シソンヌ)、戸塚純貴、香音、東野絢香、橋本マナミ、SUMIRE、瀬戸朝香、横田真悠、中田クルミ、稲垣来泉、八木亜希子、光石研、板谷由夏、田中圭ほか
脚本:國吉咲貴、諸橋隼人、ニシオカ・ト・ニール
主題歌:aiko「シネマ」
チーフプロデューサー:荻野哲弘
演出:河合勇人

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
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