明かされた宇井(田中圭)の過去とプロポーズ。恋の行方に「やきもき」する理由は 『アンサンブル』4話
元カノを夜通し看病……納得いく?
突然、瀬奈の働くたかなし法律事務所へやってきた宇井。自身の会社とドイツの旅行会社、旅館が提携し、契約締結をするため、ドイツ語ができる弁護士に同行してほしい、という要望に応える形で、宇井と瀬奈は一泊二日で長野へ出張に行くことになる。現地で、ようやく宇井が瀬奈の前から姿を消した理由が明らかになった。
宇井と共同経営者である長谷川朱利(中田クルミ)は、宇井の妻ではなく、彼の娘・咲良(稲垣来泉)とも血が繋がっていない。咲良は宇井の兄の子だ。兄は離婚しており、8年前に事故で亡くなったため、弟の宇井が咲良を引き取って育てているという。
宇井が瀬奈の前から姿を消したのは、当時4歳だった咲良を引き取ったことが、瀬奈の将来を邪魔することになると考えたから。時が経った今、咲良が成長し、かつ瀬奈との関係も良好になったタイミングだと思ったのか、宇井は当時の決断を明かした上で、「俺たち、やり直せないかな? 瀬奈と、家族になりたいんだ」とプロポーズした。
宇井にとっては、瀬奈を嫌いになったために距離を置いたわけではない。少々苦しい言い分だが、あくまでも彼にとっては、瀬奈のためを思って自分の存在を遠ざけたのだろう。もしかすると、瀬奈の母・祥子(瀬戸朝香)からの後押しもあり、今になって結婚に踏み切ろうとしたのかもしれない。
瀬奈からしても、優から「小山さんのこと好きです」と告白されたにも関わらず、後述する、優の元カノ・和泉可奈子(横田真悠)の件で気まずくなっていたタイミングだった。瀬奈が宇井の背景に思いを馳せ、結婚の意思に同意できるのなら、このまま宇井と向き合うのが自然な流れのように思える。
しかし、この流れにおいてどうも気になるのは、優の行動と朱利の人物描写である。
優はとてもピュアで名前の通り優しく思いやりがあり、困った人を放っておけない誠実な人だ。だからといって、思いを告げたばかりの相手を実家に泊まらせておいて、元カノである可奈子のもとへ行き、夜通し看病をするだろうか? 優はそういう人だから仕方ないよね、と視聴者が思える範囲を超えている気がしてならない。
くわえて、おそらく優の母・真戸原有紀(八木亜希子)は実母ではないようだ。たびたび回想シーンとして、幼い優が母に置き去りにされて泣いている場面が挿入されているのと、『アンサンブル』公式Webサイトの相関図にて、優の父・真戸原和夫(光石研)の説明欄に「家族を守るために、ある大きな秘密を抱えている」と書かれていることから推測できる。実母と離れ離れになったトラウマからか、「これ以上、好きになりたくないんだよ。いなくなったら、つらくなるから」と優がこぼしているが、それならここまでトップスピードで瀬奈に思いを寄せている優の心境に説明がつかない。そもそも、優は何をきっかけに瀬奈を好きになったのか? 視聴者が納得いくシーンはこれまで見受けられなかったように思う。
朱利が、宇井の会社を訪ねた瀬奈に対し、同性と思われるパートナーを「私の恋人です。もう10年になります」と紹介するシーンも違和感がある。パートナーを含め、個人的なことをあの場で第三者に伝えることの必然性が見えない。「朱利は瀬奈の恋のライバルにはならない」と視聴者に示すためだけに入れ込んだ、急ごしらえの設定にしか感じられなかった。
4話で、パラリーガルの園部こずえ(長濱ねる)が発言した「このドラマ、やきもきするわ~」が、ある意味、このドラマを楽しむ手法の一つを示しているのかもしれない。
役者の力に頼るドラマに未来はあるか
脚本や人物描写にツッコミを入れているが、優を演じる松村北斗、ならびに宇井を演じる田中圭の演技が素晴らしい点を強調しておきたい。
優が瀬奈を気遣って、踏切の警笛音から守るように彼女の両耳をマフラーで塞いであげるシーンは、もはや本作の鉄板胸キュンシーンになっている。くわえて、瀬奈が、優の妹・真戸原凛(香音)のストーカートラブル解決のお礼として、優の両親が営む「MATO庵」に招かれた日、真戸原家に泊まる流れになり、隣り合って眠ることになった二人をとらえたシーンも外せない。優が瀬奈に「寝られないんですか?」と問いかけるシーンは、そのささやくような声色を含め、声優としての魅力を持つ松村北斗の力量が表れていた。
宇井が瀬奈にプロポーズをする終盤のシーンもそうだ。これまで、なかなか宇井の過去が明かされず、それこそ「やきもき」していた視聴者も多かったことだろう。真摯(しんし)に、真正面から思いを告げる彼の表情は、カメラワークも相まって、印象的なシーンに昇華されている。これも、演じる田中圭の手腕があってこそだと感じられる。
実際のところ、田中・松村の出演に注目したSNS上での言及も見られる。しかし、役者の力に頼りきりのドラマに未来はあるのか? 一視聴者として、応援したい気持ちと、海外に日本の作品が遅れをとっていると言われても「さもありなん」という思いとの板挟みになっている。
漂う違和感の正体は「解像度の欠如」?
おそらく、このドラマの根底に漂う違和感の正体は、登場人物に対する解像度が一定に達していないからではないか。
まず、優だ。前述したように、思いを告げたばかりの相手を置いて元カノの看病をしにいくのは、あり得なさすぎるだろう。
そして、どうしたって気になるのは、瀬奈の母である祥子だ。離婚して一人で瀬奈を育ててきた経験があるから、娘に過干渉になっている、という設定だが、それにしても描写に無理がある気がしてならない。
瀬奈の元恋人である宇井の家に働きにいったり、やたらと二人を引き合わせようとしたり、成人した娘の帰りを朝まで待っていたり、率先して娘の出張の準備をしたりなど、さすがにやり過ぎではないだろうか。瀬奈と祥子の密着した関係性は、2話で精算されたと思っていたけれど、まったく前に進めていない。
「MATO庵」に招かれた瀬奈が餃子を包むシーンで、役者の手にビニール手袋をつける配慮ができるのであれば、脚本や人物造形の矛盾にもう少しテコ入れしてほしい。瀬奈の指の傷が治っていく過程と、瀬奈が宇井との関係に向き合い直そうとしている心境をシンクロさせる描写も、丁寧で上手いと感じる。ならば、「川口春奈・松村北斗のリーガルラブストーリー」のコンセプトを、もっと前面に生かせるはずだ。
![](http://p.potaufeu.asahi.com/telling/images/gunosy_wide_logo.jpg)
日テレ系土曜22時~
出演:川口春奈、松村北斗、長濱ねる、じろう(シソンヌ)、戸塚純貴、香音、東野絢香、橋本マナミ、SUMIRE、瀬戸朝香、横田真悠、中田クルミ、稲垣来泉、八木亜希子、光石研、板谷由夏、田中圭ほか
脚本:國吉咲貴、諸橋隼人、ニシオカ・ト・ニール
主題歌:aiko「シネマ」
チーフプロデューサー:荻野哲弘
演出:河合勇人
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