『アンサンブル』2話

大切な人との時間も「別れたら、全部無駄」? 前に進むために動き出した矢先に 『アンサンブル』2話

ドラマ『アンサンブル』(日テレ系)は、「恋愛はタイパ・コスパが悪い」と思っている弁護士・小山瀬奈(川口春奈)と、愛や誠を信じる新人弁護士の真戸原優(松村北斗)が、恋愛のトラブルを扱った裁判に向き合うことで、自分たちの恋に生かしていくストーリー。瀬奈はかつて5年間付き合っていた元恋人・宇井修也(田中圭)との間にトラウマを抱えている。第2話、宇井との再会をきっかけに、瀬奈は母・小山祥子(瀬戸朝香)との関係性にも向き合うことになる。
痛い目を見た恋愛……一人のままか、誰かと生きるか。「幸せ」の絶対的な条件は? 『アンサンブル』1話 【イラストで見る】ドラマ『アンサンブル』

瀬奈が向き合う過去の想い

このドラマにおいて、瀬奈のキャラクターはいささか“ハッキリ”しすぎているように思う。

瀬奈は、過去の恋愛にまつわるトラウマを引きずっていて、それをきっかけに未だ恋愛に向き合えていない。恋愛と適切な距離を取ることで、「恋愛トラブル専門弁護士」という仕事が成立している。宇井と再会しても向き合うことを避け、ひたすら「愛するものを失った痛みは、ずっと消えることはない。だったら初めから愛さないほうがいいに決まっている」と考えている。

1話は、そんな瀬奈のトラウマの背景や、そこから形作られた人格について紹介する回でもあった。2話では、瀬奈が「別れちゃったら全部無駄だよ、時間の浪費」と言及しているように、彼女自身が宇井と過ごした時間を「無駄だった」と認識していることがわかる。

しかし、瀬奈はすべてを忘れようと頑なになっているわけでも、未だに宇井と向き合いたくないと思っているわけでもないはずだろう。

宇井と別れるきっかけとなった出来事に対し、「住む世界が違うって勝手に焦って、意地張って、まともに話し合おうともしなかった」と、自分にも非があったことを友人たちに打ち明けている。

その後、優に向けて「私たぶん、楽になりたかっただけなんだよね」「瀬奈は悪くない、って言ってほしかったんだろうね」と自己開示していることからも、過去に想いを馳せ、宇井と向き合い、自分の心に居座っているトラウマや葛藤を解放させたい、と望んでいるのではないだろうか。

瀬奈がそう考えるに至った過程において、あまりにも価値観にギャップがある優との出会いは、物語としても大きな意味を与えている。

優と瀬奈のギャップはどう埋まる?

瀬奈のキャラクターがハッキリしているのと同様に、瀬奈の勤める弁護士事務所に入所した優の人柄も、分かりやすいほど明確だ。

大切な人と過ごした時間でも、別れてしまったら「無駄」「時間の浪費」と考える瀬奈。対して「長く付き合うって幸せなことだと思います。だって楽しい思い出もそこから学んだことも全部残るじゃないですか」と言ってのける優。コンビを組むことになった瀬奈と優の凸凹感が際立つほど、本作に独特のコントラストが生まれる。

瀬奈の下に優が付き、二人はさっそく、10年前に妻に浮気され、今になって慰謝料を求めて訴えを起こした夫の裁判に取り組むことに。なぜ夫は、10年も前の浮気をわざわざ掘り起こしたのか? ちょっとした考察要素もある点が、物語に深みを持たせる。

離婚ではなく、慰謝料だけを請求する夫の態度を見て「過去を強く否定する態度に、違和感がありました」と持論を述べる優。「10年も一緒にいたんですよ。普通、相手への愛情があると思う」という彼の価値観は、前回に引き続きピュアで、あまりにも世慣れしていないように聞こえる。

しかし、優の持ち前の愛情、いわば性善説にのっとった考え方が、裁判を穏やかな道へ帰着させたのも事実。夫は、10年前から妻の浮気に気付いていたが、愛する妻と別れたくなくて、「過去の浮気を認めさせれば、彼女は離婚を切り出せないだろう」と思っていた。そして、妻は、浮気を後悔し、夫との関係をやり直すために不妊治療を続けていた、と法廷で明かす。「過ぎ去った時間が無駄だったと思ってほしくない」と考える優のあたたかさが、凝固した瀬奈の心を雪解けのように柔らかくしていくように見える。

際立つ、母との関係性

母校の大学の図書館で、またもや宇井と偶然会った瀬奈。反射的に逃げようとするが、所属していたゼミの教授がその場にいたため、足を止めた。教授の勧めで、瀬奈と宇井は、大学当時の記録映像を一緒に見る。宇井から「あのときはごめん。ちゃんと事情を説明したい」と言われ、瀬奈はあらためて会うことに応じる。

瀬奈が宇井の誘いに足を向けた理由の一つに、母・祥子との関係性がある。

宇井との関係が破綻し、部屋に引きこもるようになってしまった瀬奈。疲弊した彼女をそばで支えたのは、祥子だった。瀬奈自身、母のおかげで立ち直ることができた、と語っている。

そんな祥子に恩義を感じている瀬奈は、毎年、彼女の誕生日に、店で一緒に食事をして、花束をプレゼントし、写真を撮る決まりを受け入れていた。今年も約束し合っていたが、不意に瀬奈のなかに疑問が芽生える。「私も母も、ずっと同じ場所にいる気がしてきて。これに未来はあるのかなって」と口にする瀬奈は、おそるおそるではあるものの、前に進みたい、変わるなら今だ、と感じていることが伝わる。

意を決した瀬奈は、祥子に、誕生日の日に宇井と食事に行くことになったと正直に報告。しかし、瀬奈はその食事の場で、新しい事実を知ることになる。席を外した宇井が向かった先にいたのは、娘と、彼と起業した女性。彼女は宇井の妻なのだろうか。宇井が突然、瀬奈の前から姿を消した理由は、彼女との関係がすでに始まっていたからだったのかもしれない。

しかし、そう考えると矛盾しそうな点も生まれてくる。たとえそうだったとしても、わざわざ瀬奈を呼び出して“事情”を語ろうとするだろうか。余計に瀬奈を傷つけるだけだとわかっていて、食事に誘うとは考えにくい。

そして、祥子と宇井が連絡を取っている事実も判明する。祥子からすれば、宇井は娘の“元カレ”にすぎない。すでに関係が途切れている娘の元恋人と母親が繋がっているのは自然なことだろうか。

過去を後悔しないために、清算するために行動を起こした瀬奈。それなのに、彼女の心を折るような出来事が重なる。ただ一人、優の元来の愛情深さが一等星のように光っている。

痛い目を見た恋愛……一人のままか、誰かと生きるか。「幸せ」の絶対的な条件は? 『アンサンブル』1話 【イラストで見る】ドラマ『アンサンブル』

『アンサンブル』

日テレ系土曜22時~
出演:川口春奈、松村北斗、長濱ねる、じろう(シソンヌ)、戸塚純貴、香音、東野絢香、橋本マナミ、SUMIRE、瀬戸朝香、横田真悠、中田クルミ、稲垣来泉、八木亜希子、光石研、板谷由夏、田中圭ほか
脚本:國吉咲貴、諸橋隼人、ニシオカ・ト・ニール
主題歌:aiko「シネマ」
チーフプロデューサー:荻野哲弘
演出:河合勇人

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
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