『アンサンブル』3話

瀬奈(川口春奈)は“素直”になれるのか? 恋の後押しをきっかけに芽生えた思い 『アンサンブル』3話

ドラマ『アンサンブル』(日テレ系)は、「恋愛はタイパ・コスパが悪い」と思っている弁護士・小山瀬奈(川口春奈)と、愛や誠を信じる新人弁護士の真戸原優(松村北斗)が、恋愛のトラブルを扱った裁判に向き合うことで、自分たちの恋に生かしていくストーリー。瀬奈はかつて5年間付き合っていた元恋人・宇井修也(田中圭)との間にトラウマを抱えている。第3話、宇井の娘・咲良(稲垣来泉)を一時的に預かることになった瀬奈は、素直な感情を吐き出すために一歩を踏み出す。
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恋愛を難しくしているのは誰?

毎回、瀬奈のモノローグから始まる『アンサンブル』。3話は「自分をさらけ出すなんて怖すぎる」という彼女の心の内から幕を開けた。自分の感情に素直になり、相手に本音を伝えること。しこりの残る別れ方をした宇井との関係性からも、瀬奈がとりわけ「対話」を苦手にしていることが伝わってくる。

「恋愛ってなんでこんなに難しいんだろ」と彼女は言うが、恋愛を難しくしているのは、果たして誰なのか?

瀬奈の母・小山祥子(瀬戸朝香)が、宇井の自宅へハウスキーパーとして働きに出ていることがわかった。その繋がりから、少しの間、宇井の娘・咲良を瀬奈の自宅で預かることになる。咲良には好きなクラスメイト・田宮裕汰(宮田体現)がいるが、自分に自信がなくて彼に気持ちが聞けない、と知った瀬奈は、優のアイデアで、咲良と田宮を交えてダブルデートに行くことに。

当日、なんとか場を盛り上げようと、咲良のためにアレコレ提案する優。しかし、ワンピースを着てきた咲良に、娯楽施設でクライミングを勧めたり、髪をセットしてきたにも関わらずヘルメットが必要なスケートボードに誘ったりと、空回りし続けてしまう。

ランチをしようと向かった店も長蛇の列で、咲良は靴擦れを起こしてしまい、田宮も疲れて不機嫌に。元来、思いやり+ピュア100%で構成されているような性格の優は、起死回生の一手として、気球に乗ろう、と持ちかける。

普段は見ることのない開けた景色。高所恐怖症である瀬奈は、自然と優との距離が縮まる。いくらか気分が晴れたのか、その後、咲良は田宮に率直な思いを伝えた。「付き合うとかよく分からない」と言われ、思いは実らなかったものの、春休みに一緒に遊びに行く約束をしたという。

図らずも、宇井の娘である咲良の恋を後押ししたことで、瀬奈の胸中にもこれまでとは違った考えが芽生えたのではないだろうか。コスパ&タイパを重視し、恋愛とは距離を置くと決めていた瀬奈が、いつの間にか優との恋愛に前向きになっているように見える。人物描写が曖昧(あいまい)だとも受け取れるが、瀬奈が素直になることで、物語が前に進んでいくことは確かだ。

優の妹がストーカー被害に?

こうした人物描写の曖昧さは、脚本の不安定な構造にも繋がってくるように思える。

たとえば、優の妹である真戸原凛(香音)が、ストーカー被害に遭っていると思われるエピソード。彼女から繰り返し優に「助けて」とメッセージが送られ、実際に、凛は包丁を持った男に脅され、部屋から出られないでいるようだった。

凛から居場所を聞き出した優は、現場に向かい無事に彼女を助け出す。しかし、その後凛は、ふたたび当の男につきまとわれていた。凛の様子は、被害者というよりは、どこか戸惑っているようにも見受けられる。優が見ている景色と、凛の認識が食い違っているような、どこかはっきりしない顛末(てんまつ)だ。

このストーカー被害にまつわるエピソードは、今後、物語に何かしらの影響を与えるのだろうか? いまのところ、ほかのエピソードとの繋がりが見えず、宙に浮いている。

「恋愛トラブル専門の弁護士」という瀬奈の設定を生かし、凛とストーカー男とのトラブルを裁判に持ち込んで、それを瀬奈と優で解決する……といった脚本なら、リーガルドラマとしての整合性も取れるように思う。

立ち上がる複数のエピソード、物語の行方は

リーガルもののラブストーリーである『アンサンブル』。しかし、3話まで視聴し、どうにも視点や軸が定まらないのは、複数のエピソードがバラバラに立ち上がり、繋がりの見えないまま並行していって、どこに着地するのかわからないからではないか。

瀬奈の友人である澤北千尋(橋本マナミ)や庄司秋帆(SUMIRE)も、現時点でキャラクターとしての存在意義が見えない。彼女たちがいなくても、物語には何の影響もないと思えてしまう。仮に、瀬奈の本心を見せる旧知の友人が必要だったとして、その役割は職場のパラリーガル・園部こずえ(長濱ねる)や事務員・星野藍(東野絢香)に担わせてもよかったのではないか。

また、なぜ宇井が事情を伝えず、急に瀬奈の前からいなくなってしまったのか、その理由も明かされていない。彼が瀬奈にあらためて説明するとしたら、ベストだったのは3話だったはず。これ以上先に伸ばすと、相当な理由でない限り瀬奈も視聴者も納得できないだろう。

いつの間にか瀬奈のことを好きになっている優の心情も、娘の元恋人の家に働きにいく祥子の心理も、どうにも共感しにくい。登場人物へ自分を重ねられないと、物語にも没入できない。

どこか不安定さや継ぎはぎ感を覚えてしまう脚本なのは、複数人で担当しているからなのか、制作側の意図が交錯しているからなのか。4話以降、宇井の真実が明かされるとともに、瀬奈と優の関係性が納得のいく形で前進するのを期待したい。

大切な人との時間も「別れたら、全部無駄」? 前に進むために動き出した矢先に 『アンサンブル』2話 【イラストで見る】ドラマ『アンサンブル』

『アンサンブル』

日テレ系土曜22時~
出演:川口春奈、松村北斗、長濱ねる、じろう(シソンヌ)、戸塚純貴、香音、東野絢香、橋本マナミ、SUMIRE、瀬戸朝香、横田真悠、中田クルミ、稲垣来泉、八木亜希子、光石研、板谷由夏、田中圭ほか
脚本:國吉咲貴、諸橋隼人、ニシオカ・ト・ニール
主題歌:aiko「シネマ」
チーフプロデューサー:荻野哲弘
演出:河合勇人

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
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