のんさん「監督のイライラは自分の演技のせい?」 ぐるぐる考えた過去と、楽になった今
自分についてうまく語れなくてもいいと思っていた
――2016年にセルフプロデュースを始めて、近年は表現活動の幅をより広げています。自ら仕事を選び、次々と新しいことにも挑戦していますが、キャリアを重ねて仕事の取り組み方は変わりましたか?
のん: 少しずつ変わってきたのかなと思います。たとえば、以前は出演した作品のインタビューを受けたときに「私は俳優なので、出演した作品についてしっかり語ることができれば良い。私個人の考えや生活を聞かれて、うまく喋れなかったとしても問題がない」と思っていたんです。でもいろいろな表現活動を通じて、出来上がった作品だけではなく、その背景を語ることにも意味があると気づきました。作品ができるまでの経緯、演じる私がどういう人間か、表現に込めた思い……。お客さんは、結果だけではなく過程も含めて「作品」として楽しんでいるんだと。だったら自分について語ることも、俳優としての表現のひとつなのだからしっかりやろうと、心構えが変わりましたね。
それから2021年に劇場用の長編映画を初めて監督したことで、「現場で監督のご機嫌をうかがう必要はないんだな」とわかりました。
――それはどういうことでしょう?
のん: 私はけっこう気にする性格で、監督が現場でイライラしていたり、焦っていたりすると「私の演技が良くなかったのかな」「オッケーと言われたけど、本当にオッケーなのかな」と、ぐるぐる考え込んでしまうようなところがあったんです。でも自分が監督をやってみたら、あれもこれもと忙しくて、アドレナリンが放出されっぱなし。こんなに大変なのだから、そりゃイライラもするよなと。気にしすぎる必要はないと思えたので、俳優としての自分が楽になりました。
経験を重ねて、自分の「できない」が見えるように
――telling,の読者は、仕事でもプライベートでも転換期を迎える人の多い年代です。一方で周囲から「変わらなければいけない」とプレッシャーを感じるという声もあります。たとえば頑張りたいのに「そんなに仕事ばかりしていていいの?」と声をかけられてモヤモヤすることが……。
のん: ああ、わかります。私も今年のお正月、家族に会ったときに「結婚とか考えてないの?」と聞かれて。ちょっと半分無視したんですけど(笑)。
もし、声をかけられてモヤモヤするのなら、あまり耳を傾けなくてもいいんじゃないかな。年齢を重ねても人はそんなには変わらないし、頑張りたいのはその人の自由。私は、経験を重ねてきた今だからこそ、これからの自分がどんどん良くなっていく予感がする。以前は「絶対にお芝居で生きていくんだ」と力んでいたから、自分の演技に対してやたらと自信を持っていました。でも今なら自分のできないことも冷静にわかるし、課題をしらみつぶしにこなしていけば自分はどんどん良くなる、とも思えます。
――「これからの自分がどんどん良くなっていく予感がする」というのが素敵ですね。「耳を傾けなくてもいい」と思うと少し気が楽になります。
のん: もちろん、自分のことを心配してくれている人の声を100パーセント否定すべきではなくて。「そうか、人はこういう感覚なんだ。自分とは違うんだな」と、違いを見つけてハッとする。違いを知ったうえで、自分らしい生き方、人との付き合い方を見つけられたらいいですよね。
――これからのんさんが、やってみたいことはありますか?
のん: 今は散歩をしたいなと思っています。以前はしていたのですが、最近は疲労もあって、あまりそういう時間がもてなかったんです。街をぶらぶらして「こんな人がいるんだな」と、日常のいろいろなことに気づけるような時間をつくりたいです。
スタイリスト:町野泉美
ヘアメイク:菅野史絵
●のんさんのプロフィール
兵庫県出身。2006年にファッション雑誌のモデルとしてデビューしてから、映画やテレビドラマ、CMなどで幅広く活躍。2016年、事務所独立をきっかけに名前を「のん」に改め、音楽、アートとマルチに活動の幅を広げる。近年の出演作に映画『私をくいとめて』『さかなのこ』『天間荘の三姉妹』『Ribbon』など。2024年、第16回伊丹十三賞を受賞。
出演:のん、田中圭、滝藤賢一、田中みな実、服部樹咲、髙石あかり/橋本愛、橘ケンチ、光石研、若村麻由美
監督:堤幸彦
原作:柚木麻子『私にふさわしいホテル』(新潮文庫刊)
脚本:川尻恵太
製作幹事:murmur
©2012 柚木麻子/新潮社 ©2024「私にふさわしいホテル」製作委員会