『アンサンブル』8話

「好きだから幸せにしてあげたい」は本当の愛? 母の支配と迷いを断ち切るには 『アンサンブル』8話

ドラマ『アンサンブル』(日テレ系)は、「恋愛はタイパ・コスパが悪い」と思っている弁護士・小山瀬奈(川口春奈)と、愛や誠を信じる新人弁護士の真戸原優(松村北斗)が、恋愛のトラブルを扱った裁判に向き合うことで、自分たちの恋に生かしていくストーリー。瀬奈はかつて5年間付き合っていた元恋人・宇井修也(田中圭)との間にトラウマを抱えている。第8話では「家族とは何か」「愛するとはどういうことか」といったテーマが描かれた。
血の繋がりか、育ての親か。宇井(田中圭)の親権問題と子に近づく“実母”の存在 『アンサンブル』7話 【イラストで見る】ドラマ『アンサンブル』

「信頼」と「共有」のバランス

家族や愛する人との関係性、距離感について考えを巡らせるような8話だった。恋人同士である瀬奈と優の間にある「信頼」と「共有」のバランス、宇井と彼の娘として暮らす咲良(稲垣来泉)の絆、そして優と実母・真戸原ケイ(浅田美代子)の確執。それぞれがすれ違い、悩み、ときに傷つく。そして、「お互いにどんな関係を築くべきか?」と模索しながら、生き方の選択をしていく。

中でも、瀬奈と優の関係は、互いに愛情があるからこその難しさが浮き彫りになったようだった。

優は「本当に俺でいいのかな」と不安を抱え続け、瀬奈がどれだけ愛情を言葉や行動で示しても、それが彼の心を完全に満たすことはできないように見える。「好きだから幸せにしてあげたい」「もう二度と好きな人を泣かせたくない」。その思いは純粋であるはずなのに、彼の場合は「自分がいないほうが相手のためになるのでは」という迷いを生んでしまっているように思う。

瀬奈は「何でも全部話す、一人で抱え込まない」と優に約束させたが、彼はまたしても自分の気持ちを押し殺し、瀬奈の自宅の合鍵を返す選択をする。これまで彼を信用していなかった瀬奈の母・小山祥子(瀬戸朝香)でさえ関係を認めたのにも関わらず、肝心の優自身が、自分はここにいていいのかと、確信を持てずにいる。その姿は少々、自罰的にも映る。

親子の絆と子どもの選択

宇井と咲良の関係を捉えるうえでキーワードとなるのは「親子の絆」と「子どもの選択」。これまで父と暮らしたいと言っていた咲良が、突然「私、お母さんと住む」と言い出す。宇井は困惑するが、これは咲良が、自分のせいで宇井が仕事を思い切りできず、色々なことを我慢している、と「父親を思いやる」からこその発言だった。彼女なりに、大好きな父の負担になりたくないという気持ちがあったのだろう。

しかし最終的に咲良の実母・木原美沙希(市川由衣)は、親権を求める申し立てを取り下げる。「お母さんは幸せじゃない? ずっとつらかったの?」と尋ねる咲良に、美沙希は「ううん、幸せだよ。でも、咲良に会えてもっと幸せになれた」と答える。彼女の言葉が示すのは、大切なのは「今、誰と一緒にいれば幸せでいられるか」ということ。

咲良は「本当はパパのことが好き。これからもずっと一緒にいたい」と涙ながらに本心を打ち明け、宇井も「パパも咲良と一緒にいたい」と応える。親が子を思うように、子もまた親を思っている。親子の絆は「誰といたいか」という選択でこそ強まるのかもしれない。

「毒親」との決別は可能なのか?

優の実母・ケイの存在が、彼の行く先に暗い影を投げかけた。ケイは、優の育ての母・真戸原有紀(八木亜希子)に「やっぱり血のつながった家族っていいもんよね」と言い、過去に見捨てた優の前についに現れる。彼女が求めたのは親子の再会ではなく、「あんた自分だけ幸せになろうとしてんの?」という言葉に象徴されるように、“息子”の人生に執着することだった。

優を育ててきた真戸原和夫(光石研)は、ケイに生活費を毎月渡し、その半分以上は、瀬奈や優の上司であり、和夫の元恋人でもある小鳥遊翠(板谷由夏)が援助していた。和夫がケイについて「優に絶対に会わせたくない」と言っていたのは、ケイが「母親としての愛情」からではなく、優との支配的な関係性を維持するために会いたがっていることを察知していたからではないか。

優は「もう誰のことも傷つけたくない」と口にする。それは「自分の幸せを犠牲にする」考え方にも思える。彼の「一人で抱え込む癖」は、母・ケイとの関係に根ざしているのかもしれない。

彼が本当の意味で瀬奈とともに生きていくためには、「過去」ではなく「今」の家族を大切にする決断が必要だろう。血のつながりがすべてではないことを彼自身が受け入れ、母からの支配や執着を断ち切り、瀬奈との信頼に生きることができれば、優の心はもっと自由になれるはずだ。

瀬奈と優、宇井と咲良、優と実母の関係。どの視点から見ても、愛する人を思うがゆえに揺れ動く感情が鮮やかに描かれていた。

愛することとは? 信じることとは? それぞれが向き合い、自分なりの答えを見つけようとする登場人物たちの姿が際立つ。

血の繋がりか、育ての親か。宇井(田中圭)の親権問題と子に近づく“実母”の存在 『アンサンブル』7話 【イラストで見る】ドラマ『アンサンブル』

『アンサンブル』

日テレ系土曜22時~
出演:川口春奈、松村北斗、長濱ねる、じろう(シソンヌ)、戸塚純貴、香音、東野絢香、橋本マナミ、SUMIRE、瀬戸朝香、横田真悠、中田クルミ、稲垣来泉、八木亜希子、光石研、板谷由夏、田中圭ほか
脚本:國吉咲貴、諸橋隼人、ニシオカ・ト・ニール
主題歌:aiko「シネマ」
チーフプロデューサー:荻野哲弘
演出:河合勇人

ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。
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