「子どもがいてもいなくても、自分の価値は変わらない」。月岡ツキさんが気付いた“生きづらさ”の解消法
子育てはエベレスト登山と同じ
――月岡さんは著書の中で、子どもを産み、育てることを「エベレストに登る」ことに例えられています。そこにはどんな想いがあるのでしょうか?
月岡ツキさん(以下、月岡): エベレストを上手く登り切れた人は、「本当に人生が変わった!」「やってよかった!」と言うと思います。でも、みんながエベレストを登らなきゃいけないか、登れるかというと、やっぱりそうじゃないなと思うんです。登るにあたっては、命をかける覚悟が必要だし、お金もかかるし、いろんな装備を準備する必要もある。しかも登り始めたら簡単には降りることができない。そうした点が子どもを産み、育てることと、すごく通ずるなと思うんです。
もちろん、子育てが上手くいっている人、楽しんでいる人がいるのはわかっています。でも、登る途中で高山病になって動けなくなったり、滑落して亡くなったりした人の声は届かないじゃないですか。子育てがなんとかならなかった人たちのことを考えると、おいそれと挑戦できることではないなと思ってしまうんです。
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――一方、育児も仕事もこなすスーパーワーママと呼ばれる女性もいます。
月岡: この時代に「母」をやるには求められるものが多すぎると感じます。私の友人の中でも分刻みでスケジュールをこなしながら、子育てと仕事を両立している人がいますが、本当にすごいなぁと思ってしまいます。国は「女性活躍推進」を掲げて、「結婚も出産も仕事も諦めない社会にしましょう」と言うけれど、そんなに簡単なことではないですよね。
“私”の思いを無視した「女性活躍」という言葉
――月岡さんは著書の中で「女性活躍推進」のために押し出すのは、「結婚し、子どもを産み育て、仕事もするための制度ばかり」で、「子どもを持たない女性のことは数に入れていない」と指摘されていますね。
月岡: そもそも「活躍」って、何なのでしょう? さもいいことのように聞こえるけど、結局のところ、国が女性に求めているのは、「子産みと納税」なのではないかという気がしてしまうんです。私は運良く働けていて、子どもを産もうと思えば産めるのかもしれません。それでも、そうしない理由があるわけです。それなのに、「私が人生をどう生きたいか」なんてことはどうでもいいことで、「あなたは、この社会にどれだけ役立つ価値を提供できますか?」と、常に問われているような気持ちになることがあります。
――「自分は子どもを育てていないし、全然活躍もしていない」と自分を責めてしまう子なし女性も多いようです。その裏側にはどんな問題があると感じますか?
月岡: その「申し訳ない」と言う気持ち、よくわかります。「活躍」と言う言葉が、どうしても圧力になってしまうんですよね。子どもがいない人の中には、身体的に就労や出産が難しい人だっているでしょう。そういう人たちは、より存在を否定されている気持ちになってしまうのではないでしょうか。「女性活躍」というキラキラした言葉の裏側で、女性一人ひとり、事情や感情があるということが、忘れられてしまっているように感じます。
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――日本では「女性活躍推進」の一環として、女性の身体的な問題を技術で解決しようとするフェムテックへの注目が集まっていますが、それが本当に女性たちのつらさを解決することに繋がっているのか、疑問の声も上がっています。月岡さんは、それについてどのように思われますか?
月岡: 生理痛や更年期などのつらさは解消したいし、だから、そのための技術もどんどん発展してほしい。そして、そのツールが安価に手に入るようになればすごくハッピーだなとは思います。ただ一方で、「これがあるからもっと働けるよね」というのは別の話だと思うんですよね。個人の可能性とか選択肢を広げることと、国の施策が結びついてしまうことには、やっぱり抵抗があります。
“そっち側”も“こっち側”も、みんな孤独
――親しい女性に子どもができることで、寂しさや疎外感を覚える子なし女性は少なくないようです。落ち込んだり卑屈になったりしてしまうことも……。そんなとき、月岡さんはどのように自分を保っていたのでしょうか?
月岡: 以前は友人が出産すると、「また一人“そっち側”へ行ってしまった」という気持ちになることがよくありました。子どもを産んだ人にしかわからない、感情や見えない景色があるんだろうなと、“そっち側”と“こっち側”の間に壁を感じてもいました。
でも、家族に恵まれ全てが満たされていそうな人も、裕福ですごく素敵な家に住んでいる人も、バリバリ働いて輝いて見える人も、365日ずっと幸せで満たされているわけではない。SNSではすごく幸せそうに見えていた子ありの友人が、久しぶりに会ってみると、夫や子育てへの愚痴をマシンガントークのように打ち明けてきたりもする。悩みや状況は違えど、みんな同じように孤独なんだなと思ったんです。“そっち”側にいようと、“こっち”側にいようと、納得した人生を送れるかどうかは、自分次第。そう気付いてからは気持ちも楽になりました。
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「子ありVS子なし」の分断から見える余裕のない社会構造
――例えば職場で、育児中の女性を子なし女性がサポートするうちに、モヤモヤを抱えてしまうことがあると聞きます。“子持ち様”という言葉が聞かれるようになるなど、「子ありVS子なし」がさまざまな場面で目立ちます。こうした女性の分断の背景にはどんな問題があると思われますか?
月岡: 現場で割を食っている者同士がいがみ合うなんて、やっぱり馬鹿らしいと思うんです。例えば育児の都合で毎週のように早退する女性がいたとして、その女性を非難するのはおかしいですよね。非難すべきはその夫かもしれないし、その夫の会社かもしれないし、一人減ったくらいで回らなくなる職場の体制でもあるはず。そもそも社会全体が働きすぎな傾向もありますよね。子ありも子なしもみんなが頑張っていることを、企業側はもっとケアするべきだし、例えばそれは仕事をカバーした人の手当を増やすとか賃金を上げるといったことなのかもしれません。両者が納得できる職場が増えてほしいですね。
――立場やステータスが違っても、女性同士が手を取り合える社会になったらいいのですが……。
月岡: 私は、必ずしもみんながみんな手を取り合わなくてもいいと思っています。というのも、「子あり」「子なし」と一口に言っても、そのスタンスや抱えている事情は本当に人それぞれ。互いに理解し合って仲良く連帯するのは、なかなか難しいことだと感じます。無理に繋がろうとしなくとも、互いを完全にシャットダウンしないことが、大切なのではないでしょうか。
それも心が元気で、余裕があるときでいいと思うんです。例えばまったく違う立場の人がいる集まりに顔を出してみるとか、一対一で語り合ってみる。「こういう人もいるんだ」「わからないけど、そういう考え方もあるんだ」くらいの感じで聞けるようにしておくと、立場の違う相手に対して必要以上に潔癖にならなくて済む気がします。
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子どもがいてもいなくても、“私は私”
――特に、20代後半から30代は、結婚・仕事・出産など、人生の選択を迫られ、モヤモヤを抱えている女性が少なくありません。どんな立場であれ、一人ひとりが堂々と生き、互いに尊重し合える社会になっていくには、どんなことを心に留めておくといいでしょうか?
月岡: なんとなくモヤモヤしているという状況にある人は、自分が何にモヤついているのか、一度納得のいくまで頭の中を整理してみるのがいいと思います。それこそ私は「なぜ子どもを産むことに躊躇があるのか」書き出してみたら40個の理由が見つかりました。モヤモヤのその先にある自分の本当の気持ちがわかると、自分なりの結論が出ると思うんですね。それは、「(仮)」でも全然構わなくて、そこまで考えたということが大事なんだと思うんです。
その上で、私が言いたいのは、「どっちでもいい」ということ。というのも、自分のモヤモヤを一冊の本に正直に書いてみて、「子どもの有無とか、結婚するとかしないとかで、私のコアは変わらない」と本当に思ったんです。確かに人生の重要な選択だけれど、それが私の全てではないと。だから、どんな答えでもいいんです。自分の出した結論を、そこにある気持ちを、自分だけは大切に知っておけたらそれでいいのかなと思います。
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●月岡ツキ(つきおか・つき)さんのプロフィール
1993年長野県生まれ。大学卒業後、webメディア編集やネット番組企画制作に従事。現在は、会社員として週3日勤務しながら、ライター・コラムニストとして活動。DINKs(仮)として子どもを持たない選択について発信している。2024年12月に初のエッセイ集『産む気もないのに生理かよ!』(飛鳥新社)を出版。既婚子育て中の同僚と、Podcast番組『となりの芝生はソーブルー』を配信中。
X:@olunnun
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