【高尾美穂医師に聞く#16】男女平等は口ばかり? “男性社会”での仕事がつらい
Q. 会社で管理職として働いています。世の中が変わってきたとはいえ、男性上司の考え方が古いと感じたり、漠然とした男女差別があるように感じたりします。まだまだ「男性社会」であることを意識せずにはいられません。男性社会で女性が快適に働いていく術はあるのでしょうか。(40代、女性)
高尾美穂医師(以下、高尾): 時代的に変わってきているとは言え、まだ「男性社会」とわざわざ言わなくてもいいぐらい男性社会だというのが現状だと思います。それでも、10年前だったら変えるなんて無理だとはなから諦めていたかもしれないことが、今は本当に変えていける時代になっているのは間違いありません。これからはよくなることしかない、と私は思っています。
そういう現状を認識した上で二つの考え方をしていただくとよいのではないかと思います。それは「今いる環境をよくしていく」という考え方と、「その環境下で自分をどう活かすか」という考え方です。
まずは、会社の中でご自身が変えていける部分がないか、どうしたら自分の考えが取り上げられるかを、もう一回よく考えてみること。「変えていける部分」に目を向けることがやっぱり建設的だと思うんですね。この二つの発想がないと、ただ文句を言っているだけの存在になりかねません。
それから、もし自分が評価されていないと感じているなら、その理由は果たして本当に「自分が女性だから」だけか、そこを厳しい目で見てみるということも、自分の成長のためには必要なことだと思います。相談者さん自身にも、「女性だから評価されない」という世の中の刷り込みはないでしょうか。自分を高める努力は続けるべきだと思います。
「上司の考え方が古い」と嘆くよりも
――考え方が古いと感じるという男性上司とは、どのようにコミュニケーションを取っていくとよいのでしょうか。
高尾: 同じ管理職でも、立場が違って、性別も年齢も違ったら、100%意見が合うなんていうことはないと思った方がいいわけです。考え方が違うのは当たり前。その上で、必要なことが理解されるための方法を考えるのは、中間管理職の役割でもありますよね。
上の立場の人がわかってくれないなら、同じ職位にいるほかの管理職はどう思っているのか。その中に女性がいるなら、その人と話してみるのもいいと思います。それはできることの一つですよね。自分がパフォーマンスを出しやすいように変えていくためには、受け身でいるだけではきっと遅い。自分の身の回りの小さなことだけでも動きやすいように変えていく、という考え方から始めてみてはいかがでしょうか。
「男性社会」の医療業界。腐らず続けてみたら
――先生ご自身が働く中で、これまで心がけてきたことはありますか。
高尾: 医療業界は、もともとはかなりの男性社会。女性が働きやすいかと言ったら、決して恵まれた業界ではありませんでした。それでも、腐らず続けていくとやっぱり状況は変わるということは実感しています。
私が医師になったころは、お医者さんと言ったら男の人をイメージする時代。全体の人数もそうですが、上に立つ人の数のうち女性はほぼゼロに近い状態でした。ロッカーも女性医師用の部屋は無くて、看護師さん用の部屋に置かせてもらっているロッカーを使う。そういうハード面も全く整っていない中から働き出しているので、当時からすると今は急速に働きやすい状況に変化しています。
『置かれた場所で咲きなさい』という本があったじゃないですか。あの言葉は、その場所で我慢しなさいという意味ではなくて、自分が置かれている場をちょっとずつ変えていく、という意味も入っていると私は思っているんです。それを諦めてしまうかどうかで、その先はずいぶん変わってくるのではないかと思います。
私の場合は、やりたいこと、例えば自由な髪型にするとか飲み会には参加しませんとか、そういった選択は周りに納得してもらうというより、やるべき仕事はきっちりやっているから「仕方ないよね」と諦めてもらうかたちになりましたね。
枕詞に「女性が」とつける必要のない社会を目指して
――女性が社会で活躍することの意義を改めて伝えるとしたら、先生はどんなところだと思いますか?
高尾: 本来の男女平等は、「女性が活躍する」ということが意義を持たない状態だと思うんですね。わざわざ「女性が」活躍していると言われる必要がない社会で、性別に関係なく、その人ががんばったから正しく評価される。ここを目指したいですよね。
社会も組織も、参画しているすべての人が今の状況を作っている、という考え方もあります。「男性社会が変わっていくといいよね」と思っているだけでは、すぐには変わらないわけです。
具体的に、どういう状態が目指すゴールなのかと言ったら、誰もが子育てや介護と仕事を安心して両立できる社会ということになるのではないかと思います。子どもが熱を出したとき、迎えに行くのは誰か。お父さんはいつも通り仕事をして帰るけど、お母さんは早退して帰る。そうではなくて、分担できたらいい。そういう社会ができていくためには、会社で休む人がいたとして、それが女性でも男性でも、お互いをカバーできる仕組み作りが普段から必要だし、今回の相談者さんも管理職なら、もしかしたらそこに直接的に取り組めるかもしれないですよね。
著者:高尾美穂
発行:朝日新聞出版
価格:1760円(税込)
高尾美穂さん初の「性教育本」。母と娘が性のことや心身の悩みについて話ができるように、知識から話し方までフルサポート。女性が人生の中で経験する心身の揺らぎについて俯瞰して知ることができるので、母に限らず、パートナーや娘、職場の同僚への理解のために、男性にも手に取ってほしい一冊です。