夫の週1「保育園お迎え」が妻のキャリアに影響 働く子持ち女性「夫のキャリア優先」過半数に

出産後も仕事を続ける女性は増えていますが、産休・育休から復帰後、仕事内容が制限されたり出世ラインから外れてしまったりする「マミートラック」の問題が生じています。先月まとまった男女のキャリア意識に関する調査では、26~40歳で子どもがいる正社員の共働き夫婦のうち、過半数の女性が「配偶者のキャリアを優先する」と答えていました。子どもをもうけた後も夫婦ともに輝き、活躍するには何が必要なのか。3月8日の国際女性デーを前に、調査を担当した21世紀職業財団の山谷真名さんにうかがいました。
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役職、経験に男女差大きく

――21世紀職業財団では今回、26~40歳の子育てをしている共働きの男女計約4200人を対象に、キャリア意識に関する調査(※1)を実施しました。どのような傾向が見えてきましたか?

山谷真名さん: まず目を引くのは、男女が同じ勤続年数だった場合でも、男性の半数以上が6~10年で係長級以上となっているのに対し、女性は7割以上が一般従業員にとどまっていることです。勤続11年以上になるとその差はさらに広がり、男性の一般従業員は18.2%なのに対し、女性は62.2%となります。

それまでの経験を見ると、「昇進・昇格による権限の拡大」や「部門を横断するような大きな異動」の有無について男女差が大きく出ました。「一皮むける経験をしたことがない」と答えたのは、対象年代すべてにおいて女性が男性よりも多い結果に。31~35歳では最も差が大きく、男性が15.8%に対して女性は倍近い30.8%がそう答えています。

女性の半数超は「配偶者のキャリアを優先」

山谷: 子どもが生まれた後、働き方の男女差はさらに明確になります。総合職の女性の49.2%、実に約半数が「以前は残業していたが、子どもが生まれてからはほぼ毎日定時帰りにした」と答えていますが、同じように答えた男性はわずか12.9%でした。

出産後、「難易度や責任の度合いが低く、キャリアの展望もない」という、いわゆる“マミートラック”に該当する女性は全体の46.6%にのぼりました。一度マミートラックに入ると脱出するのは容易ではなく、子どもが3歳になった後も7割がそのままだということも分かりました。

そして男女双方に、夫婦のめざすキャリアタイプを尋ねたところ、「配偶者のキャリアを優先していく」と答えた女性は55.2%にのぼっていました。男性では9.6%に過ぎませんでした。

――女性の半数以上が「配偶者のキャリアを優先する」と答えていたのが印象的です。

山谷: 私も驚きました。一つには、女性自身が無意識に「子育ては女性がするもの、男性のキャリアを優先するのが当たり前」というバイアスを抱いているのかもしれません。自身で選択肢がないと思い込んでしまっている、あるいは周囲の環境からそう思い込まされているのかもしれません。
しかし、これからの時代、男性にとっても会社が傾いたり、あるいは会社員を辞めてフリーになったりと、環境の変化は大いにあり得ます。そんな時に、妻側に安定したキャリアがあれば、夫の選択肢を増やすことにもつながります。

もう一つ考えられる要因としては、男女の賃金格差です。給与額の高い男性が育休など取らずに働く方が経済的メリットあると考える場合もあるでしょう。これはある意味、「タマゴが先か、ニワトリが先かの問題」であり、男女の賃金格差がなくなれば解消できるわけで、どこかで断ち切らない限り、永遠に続いてしまいます。

――そもそも、この世代のキャリア志向を調べてみようと思ったのはなぜでしょうか。

山谷: 今回調査対象とした26~40歳のいわゆる“ミレニアル世代”は、上の世代と比べるとより男女平等の環境で育ち、働き、子どもを育てています。男女の働き方や、育児と仕事の両立などに関する様々な法整備も進みました。しかし国の調査(※2)によると、女性の正規職員の割合は低く、特に子どもがいる世帯の場合、30~34歳の男性は84.9%が正規職員であるのに対し、同じ年齢の女性では30.2%にとどまっています。

出産後に仕事を続けることは出来ても、女性のキャリアが停滞してしまう要因はどこにあるのか、ただ働くだけでなく夫婦それぞれが仕事にやりがいを持ってキャリアを積んでいくにはどうすればよいのかを考えようと思いました。

夫の仕事のやりがい経験が、妻の働き方を左右

――こうした「マミートラック」について、男性側はどう感じているのでしょう。

山谷: 子どもが生まれる前、「育児は夫も妻も同じように行うべきだ」と考えていた男性は7割近くいましたが、この男性たちに子どもが生まれた後の実際の家事・育児時間を尋ねると、「夫も妻も同じ時間」もしくは「夫の方が長い」と答えたのは約4割にとどまっていました。男性は「夫と妻が同じように行うべきだ」という考え方を持っていても、実現出来ていない場合が多いことが分かります。

配偶者(妻)のキャリアアップをどう考えるかについては、面白い結果が出ています。「自分自身が仕事のおもしろさを感じた経験がある」と答えた男性は「お互い、キャリアアップを目指していく」とする割合が46.3%と高くなりました。一方で、仕事の面白みを感じたことのない男性では、「お互いキャリアアップを目指す」としたのは22.3%にとどまり、逆に「2人ともキャリアアップは目指さない」の答えが37.9%と高いのが目を引きます。

また、育休を取得した男性は、「夫婦がお互いキャリアアップを目指す」と答える人が、非取得者よりも10ポイント以上高い結果も出ています。彼らの多くは、育休を取得したことで自身も効率的に仕事を行うようになり、モチベーションが上がった、視野が広がったと答えています。

加えて興味深いのは、夫が子どもの「お迎え」を週1回以上している場合、妻は「自身がキャリアアップ出来ている」と思う割合が10ポイント近く高いことも分かりました。女性が週1回でも帰宅時間の心配をせずに働くことが出来ると、妻のキャリア形成に好ましい影響があることが読み取れます。

お互いの将来の可能性を話し合おう

――男性側(夫)が育児や家事を担う経験の有無が、妻のキャリア形成に大きな影響を与えることが読み取れますね。今回の調査を受けて、どうすれば子育て中の男性も女性もともにキャリアアップを図ることが出来ると思いますか?

山谷: 仕事に子育てに日々、目の前のことで忙しくきゅうきゅうとしがちな毎日かと思いますが、時には中長期的視点でお互いの将来、可能性について話し合うことが大切です。実際、配偶者とキャリアについて日頃から話し合ってきた女性は管理職への昇進意欲が高いことも、今回の調査で明らかになっています。どちらかにチャレンジングな仕事が来た時は、相互にサポートしあい、成長の機会を逃さないことが重要です。

学生時代まで、あるいは就職までは男女同じように歩んできたかもしれませんが、出産以降、あるいは一部は結婚後、性別役割や分担意識が強くなってしまう女性が少なくありません。先ほど述べたように、女性が自身のキャリアを大切にして経済的に自立することは、夫の生き方の選択肢を増やすことにもなります。女性のキャリアを大事にし、ともにキャリアアップをはかる夫婦が増えれば、夫婦間はもちろん職場や会社、社会全体にとってもプラスになります。

男女ともにキャリアを志向できる社会の仕組みづくりを

――当事者だけでなく、社会や企業はどんな取り組みをするべきなのでしょうか。

山谷: 企業は、働く時間の長さではなく、時間あたりの生産性を適切に評価する制度を導入する必要があります。大前提として、男女ともに家事や育児を分担するため、メリハリの利いた働き方が出来る「働き方改革」が急務です。
これまでのような短時間勤務など「仕事免除型」から、在宅勤務などを含めた柔軟な働き方によって仕事の難易度を下げずに成果を出せるよう支援する「キャリア支援型」へと転換をはかることも必要でしょう。

さきほど見てきたように、育休を取得した男性はその後も家事・育児時間が長く、仕事の効率化や視野が広がるなどのメリットに加え、妻と互いのキャリアアップを目指す人が多い。22年4月からは改正育児・介護休業法が順次施行され、企業での育休取得に関する意向確認などが義務化されます。管理職らに対しての研修も必要です。

そのうえで女性にも、キャリア初期の段階から「一皮むける経験」をさせ、男女ともに結婚や出産といったライフイベントを前提とした人材育成戦略を立てるべきです。そして育休から仕事に復帰した際にキャリア展望を低下させないことが、その後のキャリア形成に極めて重要だと言えます。

上司が少し高い目標や経験より少し困難な仕事を与えてチャレンジさせている女性の場合、「夫婦ともお互いキャリアアップを目指す」との回答は5割近くと高くなっています。企業が女性活躍の取り組みに積極的であれば、男性もともにキャリアアップしようとする志向が高まることが、今調査でも分かっています。

女性の中には、上司がチャレンジングな仕事を与えようとしても断ってしまう人もいますが、「本当はチャレンジしてみたいが、自信がない」という方も。この調査が、「本当はしてみたい」と思っている女性たちの背中を押すことにつながれば嬉しいです。

※1…「子どものいるミレニアル世代夫婦のキャリア意識に関する調査研究~ともにキャリアを形成するために~」 1980~95年生まれ(調査時26~40歳)が対象。20年8~10月、男女ともに総合職の夫婦33組と女性1人(うち2組は子どもなし)の計67人にインタビュー。21年6月、31人以上の企業に務める正社員で子どもがいる男女計4106人に対してWEBアンケート。調査研究委員会は佐藤博樹・中央大学大学院戦略経営研究科教授を委員長に、高村静・同研究科准教授、日本航空や三菱UFJ銀行、大成建設、住友化学、日本水産、JVCケンウッドの大手企業6社の人事担当者で組織した。2022年2月、分析結果を公表。

※2…厚生労働省「国民生活基礎調査」(2019年)

図表:21世紀職業財団提供
写真:getty images

家事がいらない女たち。39歳メーカー勤務「女性なのに家事が苦手。自分を許すことから始まった外注ライフ」
telling,編集長。朝日新聞、AERAなどで記者として教育や文化、メディア、ファッションなどを幅広く取材/執筆。教育媒体「朝日新聞EduA」の創刊編集長などを経て現職。TBS「news23」のゲストコメンテーターも務める。
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