XXしない女たち #04

家事がいらない女たち。39歳メーカー勤務「女性なのに家事が苦手。自分を許すことから始まった外注ライフ」

情報爆発時代の中で、私たちはさまざまな「HAVE TO:やらなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないことですか?自分ルールの中で生き、社会の“こうあるべき”を手放す人たちだっている。働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研による連載「XXしない女たち」第4回目は、「家事」がいらない女たちをお送りします。
女らしさがいらない女たち。32歳外資系会社員「パンセクシュアルな自分は、相手との関係性で性のあり方を決める」

メーカー勤務のTさん(39)の家事外注ライフは、食事の作り置き代行サービスの担当者とのやりとりと、2週に一度のお掃除依頼の内容をまとめることから始まる。4歳の娘と夫の3人家族、夫婦ともに共働きでせわしない毎日だ。

作り置きサービスは4人分を3日分、計12食届けてくれるコースで、約8000円。市販のお惣菜や冷凍食品をはさめば、なんだかんだ1週間はもつ。栄養のバランスはいいし、なにより美味しい。コロナ禍を機に利用しはじめ、ここ2年、自分で料理することはほとんどなくなった。

お掃除は2週間に一度、水曜日に来てもらう。会社の支援制度も利用して1回2時間、1万円。部屋の床や風呂など、毎日の掃除は自分ですませているが、ベッドマットやソファ、排水口についた水垢の掃除、そしてシーツの交換といった“ちょっと労力がかかる家事”は丸っと依頼している。

「女で家事が苦手」そんなことあり得るの?

結婚前の同棲を始めるまで、Tさんは実家暮らし。仕事が忙しかったこともあり、手伝いらしい手伝いをしていなかった。母から「女の子なんだから家事くらいできないと!」と言われることがなかったという。夫と暮らすようになってからは、夫婦ともに多忙だったこともあり、平日の食事は、それぞれ外食で済ませることが多かった。夫もうるさくなく、家事をやらないことに対する罪悪感はなかった。「『女性は料理や掃除ができないといけない』という固定観念がない母のもとで育ったので、結婚してからも『自分がやらないと!』とは全く思いませんでしたね」

そんな多忙な中、妊娠が分かる。育休に入り家で過ごす時間が増えたTさんは、その時はじめて「もしかして、あんまり家事が得意ではないかも…?」と気づいた。
まず、自分の作った料理がおいしくない。むしろ夫のほうが上手な気がする。掃除も、できればやりたくない。

「『女性で家事が苦手ってありえるのか?』って自分でも、その現実を認めるまでに時間がかかりましたね」。自分の中にも、いつの間にか『女性なのだから料理ができて当然!』という思いが潜んでいたのだ。同じ思いを抱えている人がいないだろうか、と思い必死になってTwitterの育児アカウントをあさったこともあった。

子どもが1歳になるまでは、実母に料理や掃除の手伝いに来てもらい、家庭と仕事を何とか両立。しかし、その生活もコロナ禍で立ちゆかなくなった。

そんな時に出会ったのが家事代行。ミールキットなどを検討しているときにちょうど料理の作り置きサービスと家事外注の広告が目に入ったのだ。「無理をしてまで自分たちでやる必要はないだろう」と夫も賛成だった。現在は各種サービスと、お掃除家電をフル活用した家事外注ライフだ。

自分を保つために、自由時間がほしかった

保育園などへのお迎えから、子どもの寝かしつけまでの怒濤の1日の中で、料理を作る必要はなくなった。夜の時間に余裕ができたため、連ドラをチェックするのが至福の時だ。
「自分で料理をしよう思うと、連ドラチェックの時間なんて取れないことは、試してみてよく分かりましたね。でも自分を保つためには、夜の多少の自由時間は必要でした」

知らない人を家に上げることへの抵抗がはじめはあったという掃除代行についても、会ったときの印象や掃除のやり方を見て、今では信頼していている。なによりも驚くほどピカピカになるため、負担も減るし、家族も喜ぶしと、いろいろと効率がいい。

トータルで月4万円弱の出費については、「安くはないけど、私も夫も働いているし、こんなにも心の余裕ができるなら、見合ってるかな」と話す。
「家事は小さいことの積み重ねで一つ一つはそんなに難しくないから、『外注するまでもない』と思っていた自分がいましたね。でも、他のことより優先したいかというと、そうではなかった。その気持ちに気付けたことが大きかったです」

「家事が苦手」男女の差は関係ない

キャリジョ研の調査によると、料理が苦手だと答えた女性は59%。約2人に1人は料理に対する苦手意識があることがわかった。男性の63%という数字と同水準だ。(※)

人間だから、苦手なことがあることは当たり前。「運動が苦手」「細かい作業が苦手」などは日常的に出会う“苦手たち”だ。それなら、料理や家事の苦手だって普通のこと。そこに、男女の差を持ち込む意味もない。ただ女性の場合「 「『家事が苦手』『料理が苦手』なんて、女性なのに恥ずかしくない?」という視線を向けられるのが現実だ。

家事は生活に直結するものだから、逃げられない。そんなときに、外の力に頼ってみるということが選択肢として広がればいい。「わたしは家事が苦手」と吹っ切れたように話すTさんを見て、ふとそう思った。

※博報堂キャリジョ研 自主調査 2020年9月実施 インターネット調査(全国)20~30代男性女性200名で分析

女らしさがいらない女たち。32歳外資系会社員「パンセクシュアルな自分は、相手との関係性で性のあり方を決める」
1993年生まれ。中国出身、東京都在住。慶應義塾大学で美術を学んだのち、外資系エージェンシーを経て現在は博報堂キャリジョ研所属。戦略プラナー/サービスデザイナーとして食品、トイレタリー、化粧品などの分野で、クライアントのコミュニケーション戦略や商品開発、新規事業立案に携わる。男女ともにフラットな社会を実現するため、プランニングに日々邁進。最近は筋トレとコーチングの学びにいそしむ。