XXしない女たち #03

女らしさがいらない女たち。32歳外資系会社員「パンセクシュアルな自分は、相手との関係性で性のあり方を決める」

情報爆発時代の中で、私たちはさまざまな「HAVE TO:やらなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないことですか?自分ルールの中で生き、社会の“こうあるべき”を手放す人たちだっている。働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研による連載「XXしない女たち」第3回目は、「女らしさ」がいらない女たちをお送りします。
管理職になりたくない女たち。27歳女性「私の人生に、管理職になることは本当に必要ですか?」

都内の外資系企業に勤務し、日本語も英語もペラペラなNさん(32)。生まれは日本だが、高校と大学はイギリスで過ごし、就職活動のタイミングで再び日本に帰ってきた。女性の身体を持っているが、“女らしさ”は自分のものではない感じると同時に、“男らしさ”もしっくりこないという。
「自分は自分でしかなく、ニュートラルな存在だと思ってますね。男性や女性といった性別がない“マネキン”のような感覚です」

女の子、として扱われる違和感

小さいころからボーイッシュなものが好きだった。ランドセルは緑色。かわいらしい衣装を着たセーラームーンやプリキュアよりも、かっこいいアクションシーンが繰り広げられる仮面ライダーにくぎ付けだった。夢はジャッキーチェンのようになることで、小学生の時の習い事はテコンドーだ。
物心がついた頃に覚えた違和感は、女の子という前提で周りから話しかけられることだった。なんだか居心地が悪く感じた。だからこそ、小学生の間はずっと短髪で、選んだ洋服も男の子用のものばかり。
「『なりたい』というよりも、男の子らしさに避難してた感じですね。これでやっと、女の子だと思われなくなる!ってホッとしてました。もしかすると自分は男の子なのかな?と思ったこともありましたね」
中学生になると、週末は男性のファッションに身を包み、一緒に遊んでいた女の子に淡い恋心を抱いた。当時放送していたテレビドラマ「3年B組金八先生」で、性同一性障害に悩む女子生徒の姿を見た。「自分も同じかもしれない」。そう思い、精神科を訪ねた。
医者からは「体も男性に変えたいですか?」と聞かれたこともある。「性転換手術を希望するか」という質問だったが、Nさんは肉体的に男性になりたかったわけではない。自分のことがよくわからなかった。

相手との関係性の中で「らしさ」は構築されていく

高校・大学時代を過ごしたイギリスで、異性愛だけが選択肢ではないという価値観に触れていく。社会的・文化的な性差の概念であるジェンダーや、性自認・性愛対象など多義的な性の概念を表すセクシュアリティは、「男」と「女」の2つだけではないこと、さらにはLGBTQ+という性の捉え方があることなどを知り、自分が解放されていく感覚があった。
そんな中、Nさんに好意を寄せてくれる男性と女性が同時に現れた。これまで誘われてデートしたことは数回あったが、告白されたのは初めて。自分のことを好きだと表現してくれる人がいることに驚いた。
その時に、自分はパンセクシュアル(全性愛者)なのだと気付く。パンセクシュアルとは、男性や女性、またそれらの性の分類に当てはまらない人も含めて、あらゆる人が恋愛対象になるセクシュアリティ。相手の性のあり方にかかわらず、人として好きになる。ジェンダーやセクシュアリティへの捉え方が多様化している近年だからこそ、生まれた概念だ。
それまで「自分がわからない」と思っていたNさんは、誰かに好きって言われることがうれしかった。女性からも好かれた事実が自信につながったと同時に、怖さもあったという。「『女性からも好かれる自分は価値があると思っているのかな?』とか『女性のことをトロフィーガールのように扱う自分がいるのかな?』と思ってすごく怖くなりました」
結局、「ボーイッシュでかっこいいあなたが好き」と伝えてくれた男性とお付き合いすることに。自分の人間性そのものを受け入れてくれた気がして、安心できる相手だった。そんな彼との関係性の中で、気づいたことがある。
ある日、おふざけで女の子っぽいファッションをしてみると、彼が明らかに喜んだのだ。同時に、小学生の時はあんなに嫌だった“女らしさ”や“女らしい格好をすること”に、あまり抵抗がない自分がいた。相手が喜ぶなら、女性としての自分がいてもいい。“自分らしい性別の在り方”は、相手との関係性の中で選んでいくのが、自分のスタイルなのかもしれない――。

社会にはびこる女らしさのテンプレート

“自分らしさ”をつかみだしたNさんだったが、日本での就職活動でショッキングな出来事があった。
企業の採用試験で参加したグループワークで自分の考えを話したら、隣にいた女性から「そんなに一気に話すと、男の子たちが委縮しちゃうよ?」と牽制されたのだ。「日本では、女性というだけで意見も伝えられないのか」と悲しくなった。
飲み会に「華になるから」という理由で呼ばれることにも、職場で「腰掛で仕事をしているの?」と言われることにも、強い抵抗感があった。社会にはびこる“女らしさ”のテンプレートに当てはめられて扱われることが、何よりも苦痛だった。

女らしくないと、愛されないのか?という不安

今は男性のパートナーがいて、女性向けのファッションに身を包んでいるNさん。“女性らしさ”をまとうことは、相手との関係性の中で決めていったことで、納得はしている。
「でも、たまに『女らしくないと、この人は私のことを愛してくれないのかな?』って不安になることがあります。あくまで見た目の話だとはわかってはいるものの、テンプレに自分がはまっていることに動揺してしまうんですよね」
自らをニュートラルに捉えているからこそ、「“自分らしい”ってどういうことだろう?」と迷うことがある。全てが流動的。だからこそ、見た目やファッション、ジェンダーに左右されない、人間としての魅力を高める自分磨きに励んでいる。今でも、自分だけの“らしさ”を模索中だ。

管理職になりたくない女たち。27歳女性「私の人生に、管理職になることは本当に必要ですか?」
1993年生まれ。中国出身、東京都在住。慶應義塾大学で美術を学んだのち、外資系エージェンシーを経て現在は博報堂キャリジョ研所属。戦略プラナー/サービスデザイナーとして食品、トイレタリー、化粧品などの分野で、クライアントのコミュニケーション戦略や商品開発、新規事業立案に携わる。男女ともにフラットな社会を実現するため、プランニングに日々邁進。最近は筋トレとコーチングの学びにいそしむ。