家事代行を使うのは悪? 罪悪感を消してくれた、会社の”サポート”とは

一人暮らしで利用している人が意外と多かった家事代行サービス。後編では、会社の全額負担で社員に家事代行サービスの利用チケットを用意したITベンチャー企業の取り組みを紹介します。取材するにつれ、家事代行サービスへの興味は高まるばかり。毎晩のご飯の支度に苦悩していた私も、料理代行を初体験しました。

会社のお金で料理代行、手作り弁当は「自分を励ますアイテム」

最近では、家事代行サービスを社員への福利厚生メニューに加える企業も増えています。これまでは育児中の社員向けに、費用の一部を会社が補助するところが多かったのですが、ビジネスに特化したスキルシェアサービスを運営する会社「ビザスク」は2017年から家事代行サービスの「CaSy」と法人契約を結び、全社員を対象に、全額会社負担で利用できるようにしました。

CaSyの料理代行を利用している北林さん。「苦手なことを無理してしなくていいと思うようになった」

月1回の利用で料理の作り置きをしてもらっているという社員の北林和恵さん(27)。でき上がった10品ほどのおかずは冷凍保存して、平日のお弁当に入れています。昼食をコンビニで買っていたときに比べ、体調がよくなったと感じるそう。「一人暮らしなのに家事代行を使うのは甘えすぎかな、と思っていたけど、日々の食事が整うと生活が整って仕事もやる気がでる。自分を励ますためのアイテムって感じです」と話します。

食事の大切さは実感しつつも、料理が苦手な北林さんには、お弁当のおかず作りは負担でした。毎回来てくれる50代の女性は、レシピだけでなく残った食材の保存方法やアレンジ方法も教えてくれるので、自身の料理のスキルも上がっているといいます。完成した料理をきれいに並べて写真を撮り、インスタグラムにアップするのも楽しみの一つになっています。

会社が支援するきっかけは、女性社員の「罪悪感」

ビザスクが家事代行サービスを福利厚生に加えたのは、ある子育て中の女性社員の言葉がきっかけでした。その社員は給料が上がったときに、「これで家事代行を頼める」と喜びました。それまでは「お給料も少ないのに申し訳なくて、家族に言い出しにくかった」と言うのです。

女性社員の言葉を聞いたCEOの端羽英子さんは、「そもそも彼女はワンオペで家事育児をしながら働いている。経済的に苦しい家庭でもないのに、なぜ彼女の給料を家庭と仕事の両立がやりやすいように家事代行サービスに使うのに申し訳ないと感じるのか。家事代行を使うことへの心理的なハードルは、それくらい高いんだと感じました」。そこで、社員が家事代行を使うことに家族が反対しない制度にするため、使わないともったいないと感じるように利用料の一部ではなく全額を会社が補助しようと決めました。

ビザスクの端羽英子CEO

さらに、育児中の社員だけでなく、対象を全社員にした理由を端羽さんはこう話します。「たとえば、育児中の社員が子どもの発熱で早退しなければいけない時に、フォローしてくれる社員がいる。その人たちへの感謝が伝わるのも、育児中の社員が活躍しやすい環境にはすごく大事。だからベビーシッター補助ではなく、育児中の社員も、突発事態に全力でフォローしてくれる社員も、皆が少しでも平日夜や週末に自分の時間を確保できるようにしようと思いました」

端羽さん自身、シングルで一人娘を育ててきました。子どもが5歳のときからベビーシッターや家事代行を利用してきましたが、「“母親が完璧に家事をしなければ”“家事は自分でしなくては”という思い込みを捨てる勇気が必要だった」と言います。男性以上に働くなかで必要に迫られて人の手を借りたとき、「やってみたら本当に楽で。何をそんなにためらっていたのかと思いました」と、今では笑って振り返ります。

「過去の自分に、『もっと自分への期待値を下げていいんだよ』と伝えたい」と端羽さん。家事も育児も自分でこなしながらアメリカのビジネススクールに通っていた頃、子どもの保育園の先生から「スプーン1杯の栄養でも子供は生きていける」と言われて、「もちろん比喩だったと思いますが、すごく気持ちが楽になった」と言います。アメリカでは、ランチに冷えたパスタをジップロックに入れて持ってくる子もいたとか。「日本の女性は基準が高すぎ。もっと目線を下げたほうがいいんじゃないかな」という端羽さんの言葉に、救われる気持ちがしました。

どんどん高まる家事代行サービスへの期待。今まで利用に踏み切れなかった私も、実際に料理代行をお願いしてみることにしました。

記者も料理代行を初体験、家事への新たな気づきも

私が最もプレッシャーを感じる家事は、やっぱり料理。好きでも得意でもなく、平日夜は平気でスーパーの総菜に頼りっきりでした。ところが、2歳の息子が大人と同じものを食べるようになってから、このままの食生活に罪悪感を抱くように……。とはいえフルタイムで働きながら毎晩料理するのは負担感が大きく、かといって週末作り置きもできる気がしない。そんな悩みの解決の糸口を探るべく、CaSyの料理代行を初めて利用してみました。

3口コンロをフル回転しながら、さらにフライパンの上で2品同時に調理する森田さん

結論は、素晴らしい! の一言。3時間で鶏丼やお好み焼き、にんじんサラダ、焼き豚など10品を完成させ、洗い物まできっちり済ませてくれました。スタッフの森田明子さんは、30年前に夫婦で始めた料理店の現役女将という大ベテラン。料理酒をたっぷり使うことや、ニンジンをさっとゆでてからサラダにするなど、おいしくなるコツを惜しむことなく教えてくれました。食べたことのないおかずばかりで、自分の料理のレパートリーの狭さも改めて実感。負担が軽くなるだけでなく、家事への新たな気づきも得られました。これはリピートする予感!

野菜をよける息子にも食べやすいメニューを考えてくれた

「家事は女性がやるもの」という思い込みを捨ててみる。そのちょっとの勇気で、家事代行サービスが、女性がもっと自由に幸せになるための背中を押してくれる心強い存在になると思います。

2011年に朝日新聞社入社。記者として大阪、鳥取、東京経済部を経験。最近ウェブメディアの部署に異動し、右往左往する日々。