料理の頻度、日本では女性が男性の3倍! 国際女性デーに考える「料理とジェンダーギャップ」

3月8日は国際女性デーです。男女問わず、生活していくうえで欠かせない「食事」。それなのに、1週間に料理をする回数は世界平均で女性が9.1回に対して男性は4.5回に過ぎない――。料理レシピサービスの運営などを手がける「クックパッド」がこんなデータを発表しました。しかも日本では男女の料理頻度の差は約3倍もあるそう。“家族留学”を手がける「manma」を創業し、現在はクックパッドで世界規模の料理頻度調査(※)を担当する新居日南恵(におり・ひなえ)さんに、料理から見えるジェンダーギャップなどについてお話をうかがいました。

――発表されたコロナ下の2020年の「World Cooking Index」(料理頻度等のグローバル調査)では、世界約140カ国の平均で女性の料理頻度は1週間に9.1回、男性の料理頻度は4.5回と女性が男性の約2倍。しかも日本では男性が3.3回で女性が9.3回と男性の約3倍、女性が料理をしている現状があります。

新居日南恵さん: 日本で男女の料理頻度の差が大きい背景には、長時間労働により男性が家で料理を作れないという労働環境や、1997年ごろまでは専業主婦世帯の方が多かったことから、女性が家事・育児を担うという性別役割分業の意識も残っていることがあるのでは、と考えています。  

2020年と19年の日本における料理頻度の比較=提供

「コロナ」で、女性の料理にかける時間が長くなった

しかもコロナ禍に見舞われ、在宅時間が増加する中、UN womenの調査によると女性の料理や食事の提供にかける時間が世界的にも長くなっています。
コロナ下で在宅勤務が進んだ日本では、家にいるようになったことで、女性の仕事と子育ての両立が大変になったという話がありました。同様のことが料理についても起きている。実際コロナ下の日本においては、2019年と比較して男性の料理頻度は0.1回増えた一方、女性は0.3回の増加です。家にいる時間が増加した結果、女性がより料理をするようになったと考えられるのです。世界的にもこの傾向は変わりません。ただ私はコロナ下で男性の料理頻度が増えたこと自体は、肯定的に捉えたいと思っています。

意識の変容、Z世代が後押し

――日本でも積極的に料理をする男性が増えている印象もありますが……。

新居: World Cooking Indexからも、日本において男性の料理頻度が増加傾向にあることが分かっています。18年には2.8回だった男性の調理頻度は、19年には3.2回、20年には3.3回にまで上昇しました。一方国内の女性の頻度は、18年が9.8回、19年が9回、20年が9.2回となっており、減少傾向にあります。

1986年の男女雇用機会均等法の施行を機に日本社会は変化。共働き世帯が増加するにつれ、お父さんが保育園のお迎えに行ったり、男性が料理をしたりするのが、日常的なことになったと捉えています。そして考え方や価値観が変わった。それが25歳以下のZ世代に影響を与えているという印象を受けています。世界的に見ても、男性の料理頻度の増加はZ世代において顕著。今後はZ世代がさらに後押しする形で日本全体の意識の変容に繫がっていくことを期待しています。

データを「社会課題の解決に繋げていきたい」

――Z世代には希望がある。

新居: 25歳以下でも、世界的に男性より女性の料理頻度が高い現状はある。それでも男性の料理頻度は2018年、19年、20年と、年を経るごとに0.5回ずつくらい上がってきて20年は1週間で約4回に達しました。女性の料理頻度はほぼ変わっていないので、結果的には25歳以下に絞ると、男女の料理頻度の差が縮まってきています。

――この調査を今後、どのように生かしますか。

新居: 様々な研究をしようとしています。たとえば、作ってから廃棄やリサイクルまでの温室効果ガスの量を明らかにするカーボンフットプリント。1日で食べる典型的な食材と頻度から、カーボンフットプリントを算出することで「家庭料理と環境負荷」を考えることができます。クリーンエネルギーが無い途上国で料理を担っている女性の「身体的な負荷と料理頻度の関係」を検討することも可能。このデータを用い、社会課題の解決に繋げていきたい思いがありますね。

デリバリーが普及、問われる自炊の意義

――コロナ下ではデリバリーサービスが一気に普及しました。

新居: グローバルにデータを見ると中国が典型的です。中国はコロナ対策で激しい規制をたびたび行ってきました。その中国では規制が緩和されたタイミングでの調査になったので、外食が大幅に増加。そして厳しい措置の間にはデリバリーが浸透しました。中国ではこれら2つの要因と調査のタイミングが相まり、料理頻度が激減したというデータが出ています。コロナ下でデリバリーが普及したことで、料理をする動機を持ちづらくなった可能性を示唆しています。

料理を作ること自体の危機が、そこにはあります。ジャンクフードからヘルシーな食事に至るまでデリバリーですぐ手に入る世の中で、自炊する意味をどのように見出すかは悩みどころ。“健康”のためなのか、料理を一緒に作って食べるといった“人との繋がり”なのか、あるいは“環境負荷”なのか――。私たちが、「これからの料理をすることの意味や価値に関する研究アイディア」を募ったら、「料理×カーボンフットプリント、Well-being、ジェンダー」という観点からの提案が、非常に多かった。環境的な視点での自炊の優位性は議論すべきだし、栄養的な観点からも考えた方がいいと思っています。我々は「個人」「社会」「地球」の3つの観点に分けて考えていて、3つそれぞれの健康のためには、家庭での料理がいいという仮説を検証したり、議論したりしていきたいと考えています。

――最後にメッセージをお願いします。

新居: 大きく2点あります。まずは世界的なコロナ禍は、若干ですが男性も料理に参加するきっかけになったということ。繰り返しになりますが、グローバルに見てもZ世代を含む若い世代では、男女の料理頻度の格差は縮小傾向になっています。若年層が伝統的な性別役割分業にとらわれなくなったことは、料理におけるジェンダーギャップを変える大きなきっかけになる可能性があります。
そして今回、世界平均と比較しても日本では「女性が男性より多く料理をしている」という現状を我々が示したことが、料理との関わりをみなさんが考え直すきっかけになれば――。非常に嬉しいですね。

※クックパッドがギャラップ社と連携し、2018年から行っている世界約140カ国で実施している料理頻度等のランダム抽出による調査。以前は対面で実施していたが、コロナ禍以降は電話など非対面の形式で実施した

●新居日南恵(におり・ひなえ)さんのプロフィール

1994年東京都生まれ。慶応大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了。慶応大の学部生だった2014年に学生が子育て家族の日常生活に同行する“家族留学”を手がける「manma」を設立。現在は特定非営利活動法人「manma」理事を務める一方、クックパッドで世界規模の料理頻度調査を行う「World Cooking Index」を担当している。
ハイボールと阪神タイガースを愛するアラフォーおひとりさま。神戸で生まれ育ち、学生時代は高知、千葉、名古屋と国内を転々……。雑誌で週刊朝日とAERA、新聞では文化部と社会部などを経験し、現在telling,編集部。20年以上の1人暮らしを経て、そろそろ限界を感じています。
1989年東京生まれ、神奈川育ち。写真学校卒業後、出版社カメラマンとして勤務。現在フリーランス。
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