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【グラデセダイ63 / 小原ブラス】ロシアの「国際女性デー」から男女平等を考えた

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。タレントでコラムニストの顔も持つ小原ブラスさん。ブラスさんにとって2、3月はロシアに帰りたくない時期なのだとか。その理由は、ロシアの文化も関係しているといいます。ブラスさんが考える男女平等とは?

●グラデセダイ63

ロシアの文化が合わない

2月と3月、僕ができる限りロシアへの帰国を避ける時期だ。決して寒いからとか、雪解けが汚いからとか、そういうことではない。ロシアの文化がどうしても自分に合わないことを痛感させられ、なんだかのけ者になった気分になる時期だからだ。

この話をするとまた面倒くさいやつだと言われるかもしれないが、端くれロシア人の偏見による解釈と思って聞いてほしい。
何が嫌なのかというと、ロシアの女性が1年で最も楽しみにしている3月8日の「国際女性デー」と軍人である男性を祝う2月23日「祖国防衛の日」があるのだ。

日本でも近年定着しつつある「国際女性デー」は聞いたことがあるだろう。1904年3月8日にニューヨークで女性が参政権を求めて大規模なデモを起こしたことを起源に、1975年に国連が女性の権利向上を訴える日として制定したのが始まりだ。
昨今話題になっている女性蔑視問題、男女平等の問題、これらの改善は僕も大切なことだと思うし、男性としてできることは協力したい、女性を応援したい気持ちは強く持っている。そのようなことを考える日としての国際女性デーには、大きな意味があると考えている。

ロシアの「国際女性デー」とは

だけど、おそらく世界でも最も盛大に祝われるロシアの「国際女性デー」には、そのような社会的背景を考える一面は全くないと感じる。ロシアの国際女性デーは何に対してなのかを考えもせず、ただ男性が女性に感謝の意を示す日となっているからだ。いや、男性が身の回りの女性に花束やプレゼントを贈り、ジェントルマンになった気分を味わい、女性はどれだけ大きな花束をもらったか、どれだけ高いプレゼントを貢いでもらったのかを競いあう日でしかない。男女平等の精神とは真逆だ。

産んで育ててくれた母への感謝なら分かるが、それは母の日がある。もちろん、母以外の多くの女性に感謝すべきことはたくさんあるから、そういう日をなくせとまでは言わないが、僕が嫌なのはそれをロシア社会全体で強要し、意味が分からないほど過剰な祝い方をする点にある。
朝、テレビをつけると、延々ときれいごと並べ、女性をたたえる言葉が流され、しまいにはプーチン大統領からの祝いのメッセージまで流される。それはもう、お正月番組と並ぶかそれ以上の盛り上がりだ。男性は母や妻へのプレゼントはもちろん、会社の同僚の女性や同級生の女子にまで花束をプレゼントするのは当たり前。幼稚園でさえも、男の子は花束を作らされ、好きでもない女の子へ愛の告白じみた手紙を書かされる。それをしない男性は変人を見るような目で見られ、なんだか恥ずかしい気分にさせられる。

この時期にロシアに帰ったことがあるのだが、親戚の女性にあげるための花束とプレゼントを母が「あげないと恥ずかしいから」と用意してくれたことがある。何で1度も会ったこともない知らない女性に感謝の気持ちを込めて花束なんかあげないといけないんだよとモヤモヤしながら渡したのをよく覚えている。日本での生活が長い僕にとっては、とにかく変な感じだ。

1度ロシアの男性に、このモヤモヤについて聞いたことがあるが、「いつも家事をしてくれる妻へ花束とプレゼントを贈って、その日だけ家事をしてさえおけばチャラになるんだからよくない?」と言われたことがある。いや、だったら普段からちゃんと手伝えよと思ってしまう。

優先すべきは、女性の苦労を改善すること

もちろん、女性には生理や出産など、男性にはない苦労がたくさんある。それでも必死に生きて、次の世代を育ててくれる。そのようなことを考えると、感謝しなければならない。だけど、じゃあ子どもを産まない女性に価値はないのか、生理がこない女性には価値はないのか、持病を持ちながらも必死に頑張って仕事をして税金を納めている男性には価値はないのか、そんなことを考えてしまう。

どれだけ女性をサポートできるかを考えるべきだし、子育てに男性が参加することも大事だという価値観を持つ僕にとっては、それらの女性の苦労を改善しようとしない代わりに花束やプレゼントを渡して適当にチャラにしてもらうイベントにしか見えないのだ。

女性が女性であることを祝う日とは反対に、男性を祝う日もある。それが2月23日の「祖国防衛の日」だ。軍隊に入り、祖国のために戦う男性に感謝する日。その日は女性が男性に靴下やシャンプーをプレゼントする。なんじゃそれ。

男性の兵役義務のあるロシアでは、ほぼ全ての男性がこのお祝い事の対象だが、この時期に「祖国防衛の日、おめでとう」と言われても、日本で育った僕は「すみません。軍の経験はないんです」とこれまた居心地が悪い。男性は軍に入らなければ価値がないとでも言われているようだ。

「男らしさ」を強要されたくない

国際女性デーが盛んに祝われるロシアに対して「女性を大切にする国なんですね」と言われることも多いが、それは表面的な部分しか見ていない証拠だ。ロシアは基本的に、女性は美しくなければならないし、料理や家事ができなければならない。男性はその代わり兵役について、女性や家庭を守れる強くたくましい男でなければならない。とことん男は男らしく、女は女らしくあるべきだという社会なのだ。女性にも男性にも義務の多い社会だからこそ、お互いに羨むことなく、男女でバランスを保つことができているという言い方もできるかもしれない。

また、よくロシアはLGBTQに厳しい国だと言われるが、それは男らしくない男、女らしくない女を認めると、このバランスが崩れるのではないかという社会不安が背景にある。「俺はこれだけ男らしくしているのに、あいつはなんで好き放題してるんだ」という感じだ。

ロシアの「国際女性デー」や「祖国防衛の日」というのは「感謝」などというきれいごとに包み込みながら、「男らしさ」「女らしさ」を受け入れさせ、強要するための日なのだ。だからそれを強要されたくない僕のような人間にとっては、社会ののけ者であることを痛感させられる日となるわけだ。

昨今は日本でも国際女性デーを祝おうという流れがあるが、ロシアのような男女の苦しさを容認するような祝い方にならないことを願っている。
本来であればそのようなイベントに頼らずとも男女がお互いに感謝しリスペクトができる社会を目指すべきだ。感謝や謝罪で終わるのではなく、どうすれば改善ができるのか常に考えなければならないと思う。

そもそも男とか女とか関係なく、人はそれぞれの苦労や苦しみを抱えて生きている。どっちの方がつらいとか競い合う必要もない。自分以外の相手に対して、男としてとか、女としてではなく、自分では想像ができないような苦労を乗り越えて必死に生きる人間として、普段から敬意をもって接するべきだ。それを少しでも改善するために自分にできることはないか、考えられる人間でいたいと僕は思う。

1992年生まれ、ロシアのハバロフスク出身、兵庫県姫路育ち(5歳から)。見た目はロシア人、中身は関西人のロシア系関西人タレント・コラムニストとして活動中。TOKYO MX「5時に夢中」(水曜レギュラー)、フジテレビ「アウトデラックス」(アウト軍団)、フジテレビ「とくダネ」(不定期出演)など、バラエティーから情報番組まで幅広く出演している。
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