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【グラデセダイ27 / 小原ブラス】YouTubeに「性消費だ」と抗議が来た話

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。タレントでエッセイストとしての顔も持つ小原ブラスさん。ロシア生まれ関西育ちの相方アレちゃんと2人で始めたYouTubeチャンネル「ピロシキーズ」には抗議の声も寄せられるのだとか。ブラスさんが考える「女性らしさ」とは?

●グラデセダイ27

新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中が混乱と静けさに陥っているが、私たちタレントにとってもこの衝撃は大きかった。

4月に入り、これまでレギュラーで出演していた番組の放送休止が決まり、ほとんどの番組の収録やイベントがキャンセル、今はもはや無職に違い状況でこのコラムを書いている。

そんな中で唯一の救いとなっているのはYouTubeをやっていたこと。10万人の登録者数を目標にして、201812月に始めたYouTubeチャンネル「ピロシキーズ」はもうすぐ目標を達成しそうだ。今月の収入はこのYouTubeチャンネルの収益がメインになるだろう。

「生まれはロシア、育ちは関西、舞台は東京」の掛け声のもと、ロシア生まれ関西育ちの相方アレちゃんと2人で、海外文化の違いや時事問題について動画を発信している。

ピロシキーズYouTubeチャンネル

僕たちは見た目はロシア人、中身は下ネタも遠慮なく言いたい放題の関西人で、「見た目からは中身は分からないぞ!」というのがテーマの1つでもある。ピロシキはパン生地の中に様々な具材が入っているロシア料理だが、表面だけを見ると中にどんな具材が入っているか分からない料理だ。各家庭によって具材も様々。チャンネル名のピロシキーズは、そんな部分もかけて、「まずは食べてみてよ」という思いを込めてつけた。

視聴者数が多くなっていくにつれ、応援のコメントが増えたのと同時に、様々なご指摘コメントも増えてきた。これらのコメントには謂れのないただの誹謗中傷もあるが、中には真剣なアドバイスもある。

例えば動画の中で相方のアレちゃんがガムを噛んでいるシーンについて「アレちゃんは大好きだけど、日本ではガムを噛みながら喋るのは印象が悪いよ。やめたほうがいいと思うな。」というコメント、これに対して相方と一晩中、ガムを噛むことに対する是非について話し合ったこともある。本当に日本ではガムを噛むことは印象が悪いのか、それは何故なのか、そもそも視聴者からの見え方をどこまで気にして動画を撮るべきなのか……このようなコメントを通して、色々なことをよく考えさせられる。

特に最近強くご指摘を頂いたのが、相方のアレちゃんが喋る下ネタと彼女の服装についてだ。 

「男性の視聴者に媚びて、再生数のために下ネタを話したり、露出の多い服を着たりするのが悲しい。アレちゃんを性消費の対象として売っていることに納得ができない。」

「ブラスはアレちゃんに変なことをさせるなよ。アレちゃんを性の商品として売るな。」

実は事務所にも直接このような内容で抗議の連絡がきた。確かに動画の中では、一見すると男性視聴者に媚びた格好をしているように見えたかもしれないし、口を開けば下ネタを話す。それをみて視聴者も大喜びだ。

もしも本人がいやいややっているのであれ問題かもしれない。「女性差別だ」と怒られても仕方がない。

そこで本人に話を聞いた。すると「私は自分のやりたいようにやっているだけだ。私が自分の意思で動画を撮っていると思ってもらえないことのほうが心外だ」と言う。

そこで思った。「ブラスはアレちゃんに変なことをさせるなよ」という批判は、僕にとっても、相方にとっても失礼じゃないか? 僕とアレちゃんは対等だ。僕がすべてを指示しているわけではない。男と女が2人で何かプロジェクトをする時に、必ず男がリーダーだとは限らない。リーダーは男だと決めつけること自体、差別意識のあらわれではないか?

その誤解を解くための動画を投稿すると、今度は「アレちゃんが自分の意思でやってるかどうかは関係ない。この動画をみて、女性は性的に消費してもいいものなんだと思う視聴者が増えることに問題がある」という抗議が来た。

確かに女性が「性消費」の対象として見られることを嫌悪する気持ちは(女性ではないけれど)わかる。ただ一方で、自分の趣味嗜好で露出が多い格好をすることまで否定されなければいけないのだろうか。

僕自身は、女性にはぜひ「女性らしさ」という枠を超えて生きてほしいと思っている。女性の生き方に枠をはめることに「ノー」ということが、僕なりの”フェミニズム“の解釈だ。それはたとえば、男性っぽい服装をした女性が、「もっと女らしい格好をしなさい」という周囲の批判に対して「私の好きな格好をします!」と言える環境を目指すこと。そう考えると、「男に媚びた格好をするな!」という批判も、そこに本人の意思があるなら、「自分が好きな格好をする」という権利を侵していることになるのではないか?

「女性らしくなくてもいい」は「女性らしくいてはいけない」とは違うはずだ。

今回、視聴者からの批判を通じて、僕はしばし考え込んでしまった。

1992年生まれ、ロシアのハバロフスク出身、兵庫県姫路育ち(5歳から)。見た目はロシア人、中身は関西人のロシア系関西人タレント・コラムニストとして活動中。TOKYO MX「5時に夢中」(水曜レギュラー)、フジテレビ「アウトデラックス」(アウト軍団)、フジテレビ「とくダネ」(不定期出演)など、バラエティーから情報番組まで幅広く出演している。
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