グラデセダイ

【グラデセダイ25 / Hiraku】ウソつきの私がSTI(性感染症)検査を受けた話

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。今回は、中村キース・ヘリング美術館プログラム&マーケティングディレクターのHirakuさんのコラムをお届けします。ひょんなことからSTI(性感染症)検査を受けることになったHirakuさん。検査を受けてみて感じたことを率直に語ってくれました。

●グラデセダイ25

突然ですが、私はウソつきです。
これまで、1990年にエイズ関連の合併症で亡くなったキース・ヘリングという、LGBTQコミュニティーのシンボル的な存在であるアーティストの美術館で働いていながら、そしてヘリングの人生を語りながら、いろんな公の場でセーフセックスやSTI(性感染症)検査の啓発、HIV陽性者の応援などをしてきた私。実はつい先日まで、日本でSTI検査をしたことがありませんでした。
今まで「でも実は検査してないんだよね…」と後ろめたく思っていました。

検査のきっかけは、数ヶ月前にセックスをした男性から、梅毒に感染したとの連絡があり、検査を勧められたことからでした。

STI(性感染症)検査を受けに

梅毒感染は日本で20代女性に増えていて、放っておくと死に至る可能性もあるSTIです。今回のコラムでは、ゲイ男性の私ですが、実際の体験談としてシェアさせていただきます。

参考:厚生労働相「梅毒に係る届出基準等の改正について」

その日は久しぶりにバーバーショップで髪の毛を切り、以前から調べていた東京都が無料・匿名で運営をしている東京都南新宿検査・相談室が近くにあったので、時間もあるし立ち寄ってみようかなと思い、足を踏み入れました。

あまり病院やクリニックに行き慣れていない私は、カウンターでまず何と言えばいいのかも分からず、「すみません、性感染症の検査を受けたいのですが」と質問。普段、いろいろな場面で常識や仕組みが分からず、単刀直入に質問をし、相手を困惑させてしまう私に、受付の方は親切かつ淡々と、問診票を渡してくれました。
検査所はHIV・梅毒検査が専門。質問事項に答え、検査結果報告の希望日時を予約します。「電話じゃダメなんだ」と思いながら、日時を選び、カウンターへ待合番号と引き換えに提出。5分ほどの待ち時間で、すぐに検査室へ案内されました。

最初の部屋へ入ると、白衣を着た人からパンフレットを使い、検査についての説明とこれまでの経緯と簡単に生(性?)活習慣について質問をされます。とても丁寧に説明をしてくれるのですが、さっきまで梅毒の心配ばかりしていた私は「HIV陽性だったらどうしよう……なんでここまで検査を怠ってきたんだろう……」という思いで頭がいっぱい。

明らかに浮かない表情をしていたのでしょうか、「肌がつやつやしてますね」とさっきまで無表情だった人がなだめてくれました。次に採血の部屋へ。何度されても、痛くないと思っても、やはり毎回注射の針を見ると身がすくみます。あっという間に採血は終わり、今日はこれで終了。

検査結果を聞く日まで

最後に検査を受けたのは20代。結果報告までドキドキして、何も手につかなかったのに対して、さすがに今では大人になり、HIVへの知識も深まったせいか、1週間平然と過ごしました。

そのせいか、検査報告日を2日過ぎてしまっていました。急いで検査所へ連絡すると、渡された予約用紙の番号を聞かれ、当日には必ず用紙を持って行くように念を押されました。予約日時を決定する際に、4桁の番号を選ぶのですが、そちらを渡しても用紙原本がないと結果は教えてもらえないとのこと。用紙をなくしてしまったら結果は結局教えてもらえないのでしょうか。紙は写真を撮って捨ててしまう習慣のある私の検査結果は、危うく水の泡になっていたかもしれません。

次の日から都内をしばらく離れる予定があり、結果はさらにあと1週間後へ。

検査から2週間後、やっと結果を聞く日がやってきました。まず用紙を渡すと、待合番号を渡され、検査待合室とは別の結果待合室へ案内されます。自分の番号がアナウンスされると、部屋に入り、デスクに座った白衣の男性が結果の書かれたファイルを持っています。

これは何の検査結果で、番号は合っているかなど、個人情報を誤って公開してしまわないように、結果を手で隠しながら話してくれます。絆創膏は、じわじわと剥がさず、一気にバリッと剥がすタイプの私には、この瞬間がもどかしくて仕方がなかったです。

結果を聞いたその足でクリニックへ

まずはHIV感染の結果から。

「陰性」

ニューヨークでは一時期、周りの友達、元ルームメートや元彼が次々とHIVに感染した時期があり、「次は自分だ」と常に思っていました。「HIV」というワードを聞くと、どきっとするほど、他人事だとは思えませんでした。そんな私はHIV陰性。HIV陽性の友達と同じ生活をしてきて、同じ様にセックスを遊びとして楽しんできました。だけど陰性。

結果に驚きながら、いろいろなことに頭を巡らせ、梅毒の検査結果へ。

「陽性」

普段、セックスポジティブである私も、この結果にはなぜだかとても自分が淫らでだらしない人間に思えました。

検査結果を伝えられると、別の部屋へ移動し、専門医とのカウンセリング。

先生は丁寧に優しく梅毒について説明してくれ、さらに質問はないか聞いてくれます。
「この近くで今すぐに治療が始められるオススメのクリニックはありますか?」
と尋ねたところ、地区別に病院やクリニックがリスト化されているパンフレットくれました。

お礼を言って検査所を出ると、その足で近場のクリニックへ。セックスポジティブな自信を何とか取り戻した私は、カウンターで再び何と言っていいのか分からなかったので「梅毒だったので治療をしてもらいたいです!」と伝え、問診票を記入すると、すぐに名前を呼ばれました。

新宿東口クリニックの院長、山中先生はLGBTQ患者に慣れているのか、よくあるゲイ男性と医師との日常のズレも感じさせず、とてもスムーズに会話をしてくれる方でした。

クリニックを出て、家の近所にある調剤薬局に行きました。処方箋を渡し、順番が来たのでカウンターへ行くと、「どうされましたか?」と質問されました。

Hiraku:「どうされたって症状のことですか?」
薬剤師:「いいえ。ペニシリン大量に処方されているので。」
Hiraku:「診断結果ですか?」
薬剤師:「はい。」
Hiraku:「…梅毒です。」
薬剤師:「はっ!ではこちらでお会計どうぞ。」

朝昼晩、ペニシリンを約4週間飲み続けるだけ。もちろんその間、セックスは誰ともできません。1ヶ月我慢しなければいけませんが、1ヶ月なんてあっという間ですよね。

やる気が失せた、日本ならではのアナログ感

この経験をして感じたことは、HIV検査に関して、東京都南新宿検査・相談室は様々な関連団体と意見・情報交換をして、しっかりとネットワークを作り、当事者のことを考えながら検査の仕方の工夫をしているなと思いました。

採血までに、できるだけHIV感染に関する情報を与えてくれて、さらにはもし陽性だった場合の治療や対応をしっかりと知らせて安心させてくれます。結果の知らせも、かなり慎重に心のケアを考えながら情報を与えてくれて、その結果直後のカウンセリングまでもしっかりと整っています。

最初は電話や手紙で結果を知りたかったのですが、対面での結果伝達やカウンセリングに重要性を感じました。
しかし、日本ならではのアナログ感には少しやる気が失せます。結果日を間違ったとき、4桁の番号を作らせておきながら、それには何も意味がなく、予約を手書きで書いた紙がないと成立しなかったことなど、システム上で解決していただきたい点はあります。

梅毒のおかげで出会えた安心できる先生

新宿東口クリニックの山中先生は、STIに対しての恥じらいなく話せる先生で、ついでに自己投薬しているPrep(HIV予防薬)などについての相談にも乗ってくれたり、投薬を続けて良いかどうかの検査もしてくれたり、いつも気になっているけど今更聞けない肝炎のワクチンについての相談にも乗ってくれたりと、梅毒のおかげでとても安心できる先生を見つけることができました。

ジェンダーや人種がそうであるように、セクシュアリティーと医療機関間にはバリアがたくさんあります。私は自身のセクシュアリティーを公表していますが、医療機関へ行って、同性間のセックスについて知識のない医師に、それを話し、自分の健康を任せるのは不安もありますが、なにより億劫で気が引けます。

このクリニックではHIV検査も15分で結果がわかる迅速検査を行なっているので、今後は無料でなくても半年に一回は通おうと思いました。

薬局での経験には疑問がたくさんありました。セックスポジティブな私でも、さすがにあの場でのあの質問にはどう答えていいか戸惑いました。

後から友達に聞くと、みんな口を揃えて日本ではよくある出来事だと言います。あれだけ慎重にプライバシーを守ってくれた検査所やセクシュアリティーと医療機関間のバリアを軽減してくれたクリニックを経験してからのこの対応には、とてもがっかりしました。

薬局は治療に一番と言っていいほど大切な薬を受け取る場所で、検査所や医療機関がどんなに頑張ってSTI検査のスティグマを排除しようとしても、最終地点の薬局が人の多様性にもっと敏感になっていないと、何も解決しないと思います。

もし仮に、調剤後、支払い前のタイミングで診断結果をなんらかの理由で購入者の口から聞かなければいけないのであれば、最初に紙に書いてもらうなど、レジで何も考えずに質問する以外に方法はあるのではないのでしょうか。

どんな病気でも誰もがいち早く検査を受けられる体制を

 最後に、梅毒について。手遅れになる前に検査し、早期発見、さらに他人に伝染することもなく治療を始められ、検査というものの大切さを体感しました。いわゆる「性病」はヤリマンやヤリチンのかかる病気だというイメージがあります。ですが、感染病は、性格や人種、国籍や習慣を選びません。普段からセーフセックスを徹底する必要性はありますが、やはり検査をしていれば、自分だけではなく、次に恋に落ちるかもしれない相手や、セックスを楽しむ相手への感染を防ぐことができるのです。

それは、現在、私たちの命や日常生活を脅かしている新型コロナウイルス(COVID-19)にも同じことが言えるのではないでしょうか。対応が遅れている日本でも、いち早く誰でも受検可能になることを願います。

 

東京都南新宿検査・相談室

タイトルイラスト:オザキエミ

ニューヨーク育ち。2014年まで米国人コスチュームデザイナー・スタイリスト、パトリシア・フィールドの元でクリエイティブ・ディレクターを務め、ナイトライフ・パーソナリティーやモデルとしても活動。現在では中村キース・ヘリング美術館でプログラム&マーケティングディレクターとして、自身が人種・性的マイノリティーとして米国で送った人生経験を生かし、LGBTQの可視化や権利獲得活動に積極的に取り組んでいる。
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