グラデセダイ

【グラデセダイ43 / 小原ブラス】「どうやったらロシア人の彼女を作れますか?」と聞かれた時の、僕の答え。

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。タレントでコラムニストの顔も持つ小原ブラスさん。日本人の中にこびりついている「ハーフ(ダブル)」や「LGBTQ」への固定観念について。

●グラデセダイ43

何度も聞かれた、辟易する質問

「どうやったらロシア人の彼女を作れますか?」

幾度となく聞かされてきたこの質問だが、いつまで経っても「は?」と思ってしまう。
「なんでロシア人の彼女が欲しいの?」と聞くと、「だってロシア人ってかわいじゃないですか」とくる。え、そうなの?

もちろん、僕はゲイなのでロシア人を彼女にしたこともなければ、どうやって付き合うのかは知らないのでこの質問に答えることはできない。

何かロシアに興味を持っているとかならまだいいのだが、ロシアという国にはなんの興味もなく、ただ「かわいいから」という理由でロシア人の彼女が欲しいというのだ。

ロシア人にだって美人もいるし、そうでない人もいる。そんなことは子どもでもちょっと考えれば分かるはずだ。ましてやロシア人には多くの人種がいるので、あなたのご期待の容姿にみんなが当てはまるかは疑問だ。結局、目が青くて、金髪で色白のいわゆるステレオタイプなロシア美女をドヤ顔で連れ歩いてみたいということが本音なのだろう。

それであれば、期待しているであろう美人はロシア人に限らず、欧米諸国のいろんな所にいるし、日本人にだってかわいくてきれいな人はいっぱいいるはずだ。わざわざロシア人に限定する必要はどこにもない。

「ゲイ」や「ハーフ(ダブル)」はアクセサリーなの?

そもそも、彼女を「作る」という感覚がおかしいのではないだろうか。

恋は「するもの」というより「落ちるもの」であるはず。何かに脅されるかにように、必死こいて多くのことを妥協しながら、彼氏や彼女を作ろうとする人もいるが、一人ってそんなにダメ?

はやく誰かと付き合って結婚しなきゃ売れ残ってしまうという恐怖を背負って生きている人が男女に限らず多いけど、僕はもっと自然にまかせていいのでは?と思っている。自然にまかせた結果売れ残ったとしても、それが不幸なことだとは限らないのだから別にいいじゃん。

「私が恋に落ちるべきは“◯◯人”で“年収◯◯以上”で“◯◯な人”」と恋をする前に制限をかけることの方が、結果的に自分を苦しめる気がする。その肩書きに目が眩んで、その人の本質が見えなくなるから上手くいかないのだ。考え方があってたまたま恋に落ちた相手がロシア人だったというのが1番しっくりくる。相手の国籍なんてなんでもいいのだ。

このように、人との関わりのために、その人の持つ肩書きやカテゴリでフィルターをかけてしまうことは他にも多くある。

例えば、僕がゲイであると知ると「わたし、ゲイの友達が欲しかったんです」と目を輝かせて言う人がたまにいる。え、僕と友達になりたいのではなくて、ゲイと友達になりたいの?あなたが「わたしゲイの友達がいてさ〜」と他の飲み会で話せる話題づくりのためにあなたとお友達になる気はないよと思ってしまう。

海外ドラマでよくゲイの男性を連れ歩く女性がカッコよく描かれているので、そのようなシーンに憧れているのかもしれないけど、正直そんな風にファッション感覚でお友達を名乗られるのは不快でしかない。

その他にも「あたし、将来はハーフの子どもを産みたい」という女性がたまにいる。これにはかなりイライラさせられる。

いや、あんたの子どもは「PRADA」や「GUCCI」じゃないんだよ。ハーフだからってかわいいとは限らないし、「ポメラニアンを飼いたい」みたいな言い方をするなよと思う。かわいくない子は産みたくないってか?愛せないのか?期待通りの子どもが生まれなかったらガッカリするのかよ。子どもは親が自慢するためのアクセサリーではない。

ハーフタレントさんたちが作ってきたイメージによって、そのステレオタイプなハーフ像に苦しめられているハーフの人が日本にどれだけいることか。「ハーフなのにかわいくなくて悪かったな」と常々吐き捨てている、アメリカ人とのハーフの友達を思い出す。

ダイバーシティが叫ばれる今、「いろんな人がいていいと思う」という考え方が広まってきているのはよく感じる。ただ、今はまだその「いろんな人」の肩書きの種類を増やしているにすぎないのだとも思う。

例えば、昔は「男」と「女」の2種類だった性別が、「男」「女」「バイ」「ゲイ」「レズビアン」「トランスジェンダー」などと種類が増えた。昔は「日本人」と「外国人」の2択だったのが「ハーフ(ダブル)」が認知されるようになってきた。

種類が増えたのはいいものの、各種類にステレオタイプな代表像のイメージがつきまとっている。女はこういうものだ、男はこういうものだ、ゲイはこういうものだ、ハーフはかわいい……。

本当はその分類された種類の中にも、もっともっと多くの種類があって、なんなら分類をすることすらバカらしいとさえ思える。多様性を受け入れる、というのは種類を増やして受け入れるのではなくて、種類を考えないことなのかもしれない。

だから「ロシア人と付き合いたい」なんて言わないでよ。

1992年生まれ、ロシアのハバロフスク出身、兵庫県姫路育ち(5歳から)。見た目はロシア人、中身は関西人のロシア系関西人タレント・コラムニストとして活動中。TOKYO MX「5時に夢中」(水曜レギュラー)、フジテレビ「アウトデラックス」(アウト軍団)、フジテレビ「とくダネ」(不定期出演)など、バラエティーから情報番組まで幅広く出演している。
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