グラデセダイ

【グラデセダイ41 / Hiraku】 体とマインド

「こうあるべき」という押しつけを軽やかにはねのけて、性別も選択肢も自由に選ぼうとしている「グラデ世代」。今回は、中村キース・ヘリング美術館プログラム&マーケティングディレクターのHirakuさんのコラムをお届けします。

●グラデセダイ41

みなさんにとってセックスとは気持ちのいいものでしょうか。
つい何年か前まで、私にとってセックスとは「決まりごと」や「惹かれ合っている人とするもの」であり、快楽というよりも「相手がクライマックスを迎えるまでの我慢」でしかありませんでした。

友だちと話していて気づいたのですが、ストレート女性やウケのゲイ男性の中には、このことに共感できる人もたくさんいるようですね。

30代になって、私はセックスを「相手を気持ちよくさせなきゃいけないもの」から「自分が気持ちいいもの」に変えることにしました。そうすることで、セックスが私にとって楽しく、メンタルヘルスに健康的なものとして存在しています。

セックスを覚えて間もない10代の頃、ある男性と出会いました。
彼は、いわゆる男っぽくムキムキで、当時の私の好みでした。今思い返すとぎこちなく一方的な彼とのセックスは、相手の唸りとともに終わりました。彼は直ぐにベッドから立ち上がり、バスルームへ。私もシャワーを浴びようとバスルームへ入ると、彼は洗面所の鏡の前でポーズをとりながら自分の体を眺めていました。「変な人だな」と思い、ササッとシャワーを浴びてお別れしました。帰宅後に体内にコンドームが残っていたことが発覚。おまけにセックスは記憶に残っていないほどで、大損でした。

それ以来30代になるまで「気持ちいい」と思うセックスをしたことがありませんでした。私がセックスをした相手はコンドームをつけてくれなかったり、ローションも使わない人ばかり。大人になっていくにつれ、それに慣れてしまい、付き合っている相手も、それ以外の人も、セックスをする前は気合を入れなければいけませんでした。
その上、髪の毛のセットをしたり、下着を選んだり、毛の処理をしたり、気になり始めたら準備が限りなく増え、一度新しいことをするとそれがさらに習慣に……。「あと10分くらいで着くよ」と連絡をもらったときには居留守するしかありませんでした。いつの間にか私の生活における一大イベントになってしまったほど。

そんな20代を経て、30代へ。年をとるということを現実として受け止めた私は、徐々に「手の込んだおしゃれ」から「実用性」に焦点を当て始めました。例えば、出かける度に薄化粧をして、肌をきれいに見せていましたが、スキンケアに集中し、すっぴんで出かけることに慣れる努力をしました。こういうこだわりって、実は周りの人はなにひとつ気づいていないもの。気にしていたのは自分だけだったという現実を知ったのです。

これをきっかけに、すっぴんで出かけるのがどれだけお金や時間がかからないことであるかが分かりました。何よりも自分らしく、ありのままであることに自信を持つことができ、解放された気分になりました。

このマインドのエクササイズを始めてから、他人の目を気にしすぎて、自分に余計な負担を掛けていることが、ほかにもまだまだあったと分かってきたのです。
その中のひとつがセックスでした。

「見た目」を気にしすぎることをやめた私は、ある時、長期出張の荷物を減らすことに挑戦し、出張中は洗濯を頻繁にして、同じ格好で2週間過ごすというチャレンジにも挑みました。同じトップス、ボトムス、靴下、下着を2枚ずつ持っていき、毎日同じものを着ることにしました。もちろんスキンケアも最低限こだわったものを持参し、準備に頭を使うことから自らを解放。余計なストレスは溜まらず、本来の目的である仕事に集中することができました。

ところが、出張先で何気なく開いた出会い系アプリにタイプの男性からのメッセージが届きました。出張中であることを伝えて、メッセージのやり取りを続けたのち、お互いに体が目的であることを確認し、会うことになりました。もう二度と会うことはないであろう相手と、自分の見た目にこだわるオプションのない私は意を決して会いました。このとてもシンプルな出会いが私を正直にさせたのです。

実際に会ってみると、毛が生えていることも、下着が普通であることも、肌が少し荒れていることも、今まで気をつかっていたことは何も問題ではありませんでした。更に、ぎこちない場面も「もっとこうしよう」などと相手への意思表明にも挑戦してみました。

それは、今までにないほど心地よく、気持ちのいいものでした。おおげさかもしれませんが「性の解放」に気づき、岩盤浴で思いっきり汗をかいた後のような、とてもリラックスしてリフレッシュした気分になりました。
気分がすっかり晴れ、翌日からも仕事への集中力や私生活の充実感を与えてくれました。

それ以来、自分の体の気持ちのいい部分を探り、なにも取りつくろわず、いやなものは「いや」いいものは「いい」と伝えるパワーを知りました。

今、私にとって、セックスとはメンタルを健康にしてくれるエクササイズのひとつです。もちろんゲイとは言えシス男性なので、性に対するアプローチは女性とは違うかもしれません。
自分にとって健康的でポジティブであるという視点で、読者のみなさんも、心と体の両方で楽しんでもらいたいのです。そのヒントは「考え方」なのではないかと思っています。実際に、私の体はマインドとつながっていましたから。

ニューヨーク育ち。2014年まで米国人コスチュームデザイナー・スタイリスト、パトリシア・フィールドの元でクリエイティブ・ディレクターを務め、ナイトライフ・パーソナリティーやモデルとしても活動。現在では中村キース・ヘリング美術館でプログラム&マーケティングディレクターとして、自身が人種・性的マイノリティーとして米国で送った人生経験を生かし、LGBTQの可視化や権利獲得活動に積極的に取り組んでいる。
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