産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。」

【telling,傑作選】結婚すると途端に「同居人」になっていませんか?

2018年telling,でご好評いただいた記事や、もう一度お伝えしたい記事をご紹介しています。 (元公開日:2018年11月6日)20歳の男女600名(男女各300名)を対象に「恋愛・結婚に関する意識調査」をインターネットで行ったところ、新成人の男女の考え方の違いが顕著に表れました。例えば、「専業主婦(主夫)になりたい?」と質問したところ、女性の割合は昨年とほぼ同じでしたが、男性は前回と比べて増えています。産婦人科医の種部恭子先生に、恋愛・結婚観についてどう考えるか、聞きました。

●産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。」09

結婚相手紹介サービスを手がけるオーネットが今年1月に発表した調査によると、交際経験の有無は、前回調査から3.0%増、前々回調査からは約6%増の62.0%と増えています。また現在、交際相手がいる人の割合は31.5%と、こちらも前回調査を0.8%上回りました。そして、「将来結婚したいと思いますか?」と聞いたところ、結婚願望は83.8%と、2002年以降で最も高い数値となっています。

結婚願望が高くなっているのですね。しかし、恋愛感情だけで結婚し、お互いに尊敬の念がない夫婦もいるように思います。結婚すると途端に「同居人」となってしまっていませんか? クリニックで相談を受けると、夫とのセックスレスに関する悩みをよく聞きます。その背景に不倫があることも……。 

身構えて結婚のハードルを上げている?

10代や20代前半で結婚する人については、「恋愛して、その感覚のまま舞い上がって、結婚している」というふうに感じることがあります。一方、未婚のまま歳を重ねてきた人の中には、10代から20代前半で恋愛を経験し、いざ結婚しようと思うと、恋愛と結婚の間が空いていたから、身構えてハードルを上げてしまっているように見受けられます。

「失敗したらどうしよう」と思っていては、結婚は難しいかもしれません。婚姻という形にとらわれないパートナーシップも「あり」だと思います。事実婚もいいと思うし、離婚が悪いとは思わない。結婚してすぐ家を建て、離婚したくてもできない人もいるようです。「こうあるべき」という結婚の理想像に縛られていると、苦しい。生きにくくなってはいませんか?

「専業主婦(主夫)になりたい?」と質問したところ、「はい」と回答した女性の割合は昨年と、ほぼ同じ結果(30.7%、で前回調査からわずか0.7%増)であるのに対し、男性の割合は15.7%と、前回調査から5.4%もアップしました。専業主婦(主夫)願望が高まっているのですね。

ちなみに、わが家の家事の役割分担は結婚当初から「手が空いた方がやる」という意識です。半々か、むしろ夫の方がよくやっている。私と夫、どちらかが不在でも、家の中が回るようになっています。

個人的には「結婚は契約である」と思います。いい意味での「打算」とも言えます。人と暮らすということは、プラスもマイナスもある。結婚生活では、お互いの自由を尊重し合うとともに、分担すべき役割もあります。

うちの夫とは結婚する前に「私は仕事で家にいないことが多いし、単身赴任するかもしれない。だから家事や育児を積極的にやってほしい」と伝えたら、夫もそれを望んでいると言いました。「結婚は契約」と言ったのは、そういう意味です。どちらかが我慢する関係性では、結婚生活に不満が募りますから、最初にお互いの要望を伝え合ったのです。

子どもがいらないなら男女が協力して避妊を

「子どもがほしいですか?」という質問に対しては、68.8%(男性65.0%、女性72.7%)が「ほしい」と回答しています。これは前回とほとんど変わりませんでした。子どもを望むかについては、パートナーときちんと話し合ってほしいものです。

2009年にユネスコ(国連教育科学文化機関)が出した『国際セクシャリティ教育ガイダンス』では、すべての家族が子どもを持つわけではないとしています。子どもがいらないなら男女が協力して避妊をすべきですし、産みたいとしても、いつ産むかは合意に基づいて決めてほしい。「理不尽だ」と思うのは、予期せぬ妊娠も、不妊治療も、思った通りにいかなかった場合の負担を、女性が背負ってしまっているという現状です。

その理由としては、とにもかくにも、あいまいで、不十分な日本の性教育の弊害があると思います。まず、入ってくるのは現実とかけ離れた性の情報です。アダルトサイトもそう。二次元のアニメーションの世界で少女のバストだけが大きかったりする。「支配できる性」が普通だと刷り込まれてしまっているのです。性教育では、いったんそれを打ち消すことから始めなければいけません。

双方の同意というのは、恋愛がスタートしたときから守ってほしいルールです。例えば米国では男の子に、ドラッグや飲酒をしたうえで性行為をしてはいけないと教育しています。彼らは「感情がコントロールできない状態で、セックスするのは悪いこと」だと認識しています。女性の同意なく性行為を迫り、暴力的になってしまえば、レイプ犯とされてしまう危険性がある。男の子にとっては、自身のリスクを回避する意味でも重要な知識です。

お互いに自立した関係が恋愛・結婚の基礎に

日本では大学生や若い女性の飲酒に伴うセクハラが後を絶ちませんよね。無理矢理酒を飲まされて、あらがわない状態で同意のないまま性交に至るのです。睡眠薬を混ぜられるという悪質なケースもあります。被害に遭っても、自分に何が起こったかを覚えていないことも。「何かおかしい」と思った場合は、産婦人科をすぐに受診しましょう。緊急避妊用ピルを72時間以内に服用すれば、高い確率で妊娠を防ぐことができます。

彼氏に「コンドームを使って」と言い出せない関係や、女性の要求を無視してコンドームを使わない性交を強要するような関係は、デートDVのひとつです。「別れるなら死ぬ」とか「友だちに会うな」などと言って束縛することも精神的な暴力です。

嫌なことを、しっかり断れるか。行動を制限されたり、したりしていないか。いつも一緒でなくても、信頼できる関係性を持っているか――。お互いに自立した関係が恋愛・結婚の基礎になると思います。

  • ※種部先生の連載は今回で休載となります。

構成:若林朋子

富山市生まれ、富山医薬大医学部(現富山大医学部)卒。同大付属病院などを経て2006年から女性クリニックWe富山院長。専門は生殖医療(内分泌・不妊)、思春期・更年期、女性医療。
北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
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