産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。」06

昔に比べて、現代女性は400回も月経が増えている。その影響とは?

「Femtech」(フェムテック)という言葉を知っていますか?  Female(女性)のTechnology(技術)という意味です。女性のヘルスケアの課題を、ITテクノロジーの活用で解決しようという流れの中で生まれた、新しい言葉です。サービスや専用アプリで月経周期を把握できれば、次に月経になる日や、妊娠しやすい時期、気分や体調が不安定になるPMS(月経前症候群)を予測することができます。女性のヘルスケアのキーとなる月経について、産婦人科医の種部恭子先生に教えてもらいました。

●産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。」06

昔に比べて、現代女性は400回も月経が増えている

 毎月起こる月経、「面倒だな」「しんどいな」と、マイナスのイメージを抱いている方も少なくないでしょう。婦人科を受診される方の多くは、月経トラブルです。もっと、月経について知っておいていただきたいと思います。

 昔の女性は、初経を平均16歳で迎え、閉経は40代後半でした。ところが、今は栄養状態や体格が大きくなったことの影響を受けて初経が12歳に早まり、閉経が50代前半。妊娠中は月経が止まるので、出産回数が減ると、その分月経の回数は増えます。

 また、女性1人当たりの出産回数も、昔の女性は多くが4~5人以上産んでいたのに対し、現代は0~2人ぐらい。授乳により月経が止まっている期間も短くなりました。この結果、現代の女性は昔の女性に比べて400回も月経が増えているといわれています。

 月経や排卵は自然なことで健康の証拠と思っているかもしれませんが、月経や排卵の回数が増えたことで多くなる疾患もあります。月経や排卵には大きなエネルギーが必要です。出血というロスや、排卵することによる生活の質の低下もあります。月経や排卵が増えた結果、子宮内膜症、子宮体がん、卵巣がんが増えてしまうこともわかっています。妊娠の機会が少ないことが、乳がんの増加の一因でもあります。

月経トラブルの裏に子宮内膜症や子宮筋腫

 産婦人科は受診のハードルが高いですよね。「妊娠した人が行くところ」と思っている人も多いでしょう。でも、産婦人科医は、妊娠・出産だけでなく、月経のトラブルや性の問題、更年期など、女性の生涯にわたる健康問題を解決するプロフェッショナルです。

 月経痛ぐらいで産婦人科に行くのは…と思っている方が多いですが、月経痛を甘く見てはいけません。子宮内膜症や子宮筋腫といった病気が隠れているかもしれません。とくに、月経痛が頻繁にある女性は子宮内膜症を発症するリスクが2.6倍高いことがわかっています。

 月経に関するトラブルで相談が多いのは40~50代の女性ですが、10~20代の女性でも月経不順や月経痛で生活の質が低下していることがあります。強い月経痛がある場合は子宮内膜症がないかどうか、必ず超音波検査を行います。性交経験がない女性の場合はおなかの上から診ることもできる、痛くない検査です。

 子宮内膜症は、子宮内膜が本来の場所以外に広がってしまう病気ですが、治療をしないで放っておくと月経のたびに進行し、卵巣に大きな腫瘤(しゅりゅう)ができて卵巣がんが発生しやすくなったり、妊娠しにくくなったりします。早く見つけて治療すれば、進行を止めることができます。

子宮内膜症があったら、人生プランを2年前倒しして

「月経痛は我慢するもの」と思ってきた人は多いのではないでしょうか? 鎮痛剤を飲むことが悪いことだと信じている患者さんも多いように思います。鎮痛剤は「痛み物質」を作らなくさせる薬です。痛み物質ができてしまってからでは効きませんから、痛みが出始めたらすぐ飲んだほうがよく効きます。

 痛み物質は子宮を収縮させるものですから、痛み物質が出っ放しの状態のほうが、子宮の収縮により子宮内膜症を発症するリスクが高いことも分かってきました。「飲み続けると、効かなくなる」というのは迷信で、早めにしっかり鎮痛剤を飲むことは、病気の予防という意味でも理にかなっているのです。

 子宮内膜症は卵巣に病変ができることが多く、放置すると病変の周りの卵子の質を低下させたり、おなかの中に炎症や癒着を作ったりすることで、妊娠しにくくなってしまう疾患です。これから妊娠・出産を考える年代の女性の場合は、「子宮内膜症があったら、人生のプランを2年前倒ししよう」とお伝えしています。

 PMSで受診してくる女性は、なんらかの負荷を感じている人が多いです。10代なら受験や人間関係など、20代はいろいろですね。30代では育児や、パワハラ・セクハラなど、さまざまな原因があります。

 女性が快適に過ごせるのは、月経が終わった後の1週間程度。月経が近づくと気持ちの落ち込みや、だるさ、むくみなどが出てきて、月経の間は経血を気にしたり、腹痛や頭痛があったりするのですから。こういう事情を分かった上で、学業も仕事、例えば営業成績などは、1、2週間単位で評価してほしくないなと思います。不調の時期のほうが長いのですから。長いスパンで見てほしい。根本的に体の仕組みが男性と違うのです。

30歳前後で更年期障害なんて、あり得ません

 そういえば「telling,」世代の中に、「私は、若年性更年期障害ですか?」とクリニックを受診する人がいます。ほとんどはPMSや軽い抑うつなのに、教育で更年期や閉経について教えてもらったことがないから、よくわからない不調はすべて「更年期ではないか」と思ってしまうのです。更年期障害は、閉経した後で起こるものです。月経がある30歳前後で更年期障害なんてこと、あり得ませんから。

「違います」と、はっきり言います。そして「思い当たることがあるでしょう?」と聞いてみます。すると、原因が見えてきます。苦手な上司や同僚がいたり、睡眠時間がやたら短かったり、家族やパートナーとの面倒な関係があったり…。介護が原因の場合もあります。

 抑うつは最初からブルーになるものばかりではなく、イライラや動悸などの体の症状から始まることも多いのです。眠りが浅くなったり意欲がわかなくなったりするところは更年期障害と似ています。PMSの場合は逆に眠くなることが多く、月経が終わると、ちょっと症状が緩和されるのが特徴です。月経が終わっても症状が変わらなければ、抑うつかもしれませんね。抑うつは、心のオーバーヒートです。あなたにかかっている「負荷」について、思い当たることは、ありませんか? 

 PMS、抑うつ、いずれにせよ、負荷がかかっていると症状は改善されません。病気・体の不調の多くは、周りの環境との不協和音が起こったことによって、負荷を感じ続けた末に現れるものです。

 負荷、かかっていませんか?

構成:若林朋子

富山市生まれ、富山医薬大医学部(現富山大医学部)卒。同大付属病院などを経て2006年から女性クリニックWe富山院長。専門は生殖医療(内分泌・不妊)、思春期・更年期、女性医療。
北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
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