ミレニアルズの健康カルテ 02

自分の卵巣や子宮の特徴、どれだけ知ってる?

仕事にプライベートに忙しいミレニアル世代。高年齢出産も増える中、将来の「妊娠」や「出産」は気になるテーマの一つです。でもその前に、自分のからだのこと、どれだけ知っているでしょうか。ライフプランを考える上でも知っておきたい女性の健康事情について、不妊治療専門医の小柳由利子先生がやさしく解説します。

telling,読者のみなさん、こんにちは。不妊治療専門医の小柳由利子です。
日々、telling,世代の患者さんと接するなかで感じた、「気付いてほしい」「知ってほしい」ことを、この連載でお伝えしたいと思います。

第2回は、女性の健康と切ってもきれない「卵巣」と「子宮」について。
女性の人生に大きく影響するこの2つの器官にも、人それぞれの個人差があります。

卵子の数と質には個人差がある

卵巣は卵子の倉庫であり、子宮は赤ちゃんを育てる部屋。それらに個人差があるとは、みなさん想像したことがありますか?

人それぞれ顔かたちが違うように、卵巣や子宮にもそれぞれ個人差があります。
たとえば、卵巣の中の卵子の残りの数は、AMH(アンチミュラー管ホルモン)と呼ばれる血中のホルモンの数値と相関していることが知られています。

年齢ごとにこの数値をプロットしたものが下の表です。
一つ一つの点が一人一人の数値になります。

浅田レディースクリニックデータを引用

これを見ると、いかに卵子の残りの数に個人差があるかということがわかりますよね?

卵子の数は、私たちがお母さんのお腹の中にいる胎児の時からつくられ、20週頃に最大値となり、それ以降は減っていく一方です。そしてその減り方には個人差があるのです。

数だけでなく、卵子の「質」も個人差が大きいと言えます。

子宮内膜症などを患っていれば、卵子の質が下がりやすいと考える手がかりにもなりますが、そうした原因がなくても卵子の質が低い人はいます。30代前半の患者さんが、体外受精で10個卵子をとって一つも産まれる胚にならないケースがある一方で、43歳で1回の採卵でとれた卵で二人出産されるという方もいます。卵子の質に影響を与える因子としては、食事や生活リズム、ストレスなども関係すると言われていますが、はっきりしたことはわかっていません。

卵子の質は体外受精で実際に卵子を取ってみないと評価できないのですが、数については最近は市販のキットなどを使って自宅で簡単に調べることも可能になりました。キットは2万円程度と決して安くはないですが、検査自体は病院で行うAMH検査と結果が近似しており、信頼性は確認されています。自分の卵巣の特徴を知っておくと、将来、計画的に妊活をスタートする際に役に立つのではないでしょうか。

数が少ないから妊娠しにくいわけじゃない

次に、卵子の数や質は、妊娠の可能性にどれほど影響するのかを見てみましょう。

卵子の残数については、妊娠出産歴のある人を対象にAMHを測定してみると、かなり低い人も普通にいることが知られています。つまり、AMHが低いということは卵子の在庫が少ないだけで、妊娠しづらいというわけではないのです。

自然では生理の1サイクルに1個の排卵ですから、当然ながら重要なのは「数」ではなく「質」です。数が問題になるのは、体外受精が必要になる場合です。AMHが低いと、注射などで卵巣を刺激して卵子を多く育てるようにしてもたくさんは育たず、体外受精の成功率は低くなります。最近の体外受精は、卵管が詰まっている場合や精子が少ない男性不妊だけではなく、卵子の質が悪い場合に数で補うために行われることが多いのです。

自身のAMHを知ることは早発閉経のリスクを知ることにもつながります。AMHが極めて低い場合、相手がいて、子どもが欲しいと願うなら、早めに妊活を始めたほうがよいですし、相手がいなければ卵子凍結も視野に入れる必要が出てくるかもしれません。2人以上子どもが欲しいからと出産前にあらかじめ「貯卵」(※体外受精のときに胚を凍結保存すること)しておく人もいます。

一方でAMHが高すぎる場合、生理不順を伴うことが多く、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)という疾患である可能性も。妊娠を望んでいなければ、ピルを内服することが生理不順だけでなくニキビや多毛の治療にもなります。

自分の卵子の「質」をみきわめる

卵子の「質」については、調べることが難しく、「時間で区切って考える」ことが重要です。

ふつう、妊活を開始してから1年以内に妊娠しないカップルは何らかの不妊の原因があると考えられます。タイミング法や人工授精での治療は「半年以内」が目安です。それを超えて妊娠しない場合、受精障害や卵の質など、体外受精を行ってみなければ評価・解決できない理由がある場合がほとんどです。一般的には35歳までであれば卵の質は保たれていることが多く、そこから先は個人差が大きい領域になってきます。

子宮については子宮筋腫や子宮奇形などが不妊の原因となります。子宮筋腫は珍しくない疾患ですが、位置によって妊娠への影響が異なります。内膜に近く着床に影響が大きい場所にあると、1~2cm程度で妊娠が難しくなることもあります。子宮奇形の場合は、着床しづらかったり、早産の原因になったりするものもあり、子宮の内側を一部削るだけで妊娠・出産率が上がることもあります。妊活を始める前にこうしたリスクについて把握しておくことも重要でしょう。

クリニックを訪れる患者さんのうち、卵巣や子宮に個人差があることを知らない人は案外多いと感じます。ご自身の卵巣や子宮の特徴を知り、ライフプランを考える一助にされてはいかがでしょうか。

産婦人科医、不妊治療医。「東京HARTクリニック」勤務。 研修医時代に生殖医療の道を志す。不妊治療に関する知識の啓発と、多様な家族のあり方を応援することがライフワーク。
ミレニアルズの健康カルテ

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