ミレニアルズの健康カルテ 01

子宮頸がんの発症ピークはミレニアル世代に訪れる 知っておきたい「婦人科系がん」

仕事にプライベートに忙しいミレニアル世代。高年齢出産も増えている中、将来の「妊娠」や「出産」も気になる関心ごとの一つです。でもその前に、自分のからだのこと、どれだけ知っているでしょうか。ライフプランを考える上でも知っておきたいミレニアル女性の“からだ”について、不妊治療専門医の小柳由利子先生がやさしく解説します。

telling,読者のみなさん、こんにちは。不妊治療専門医の小柳由利子です。
日々、telling,世代の患者さんと接するなかで感じた、「気付いてほしい」「知ってほしい」ことを、この連載でお伝えしたいと思います。

初回は、ミレニアル世代なら知っておきたい婦人科系がんのリスクと、早期発見につながるがん検診のポイントについてお話しします。

かつては「40代の病気」だったのに……

日本人の3人に1人が罹患するとされる「がん」。どの世代の人にとっても身近な病気の一つです。とりわけ20~30代の「ミレニアル世代」の女性に特有のがんとして、「子宮頸がん」「乳がん」「卵巣がん」「子宮体がん」の4つが挙げられます。

このうち、罹患率の高い「子宮頸がん」と「乳がん」についてみてみましょう。

子宮頸がんについては、2000年代後半から病気にかかる確率が急激に上がっています。

かつては「40代の病気」だったのですが、年々、発症年齢が若くなり、いまでは30代前半が発症のピークとなっています。
なぜなのでしょうか?

原因の一つに、初体験の年齢が若年化していることが挙げられます。さらに、子宮頸がんをひきおこすヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防するワクチンが定期予防接種の対象となっていないことも、ウイルスの氾濫に大きな影響を与えています。

初交年齢にかかわらず、交際相手に性体験がある限り、HPVウイルスへの感染リスクはあります。子宮頸がんになるリスクを減らすためには、HPVワクチンの接種と定期的な子宮頸がん検診の両方が重要なのです。

定期的に検診を受けていれば早期発見できるので問題ない、と考えられる方も多いでしょう。ところが、不妊治療の現場には、子宮頸がんの前癌病変(がんの一歩手前の状態)で、子宮と膣をつなぐ頸管部分を切除された方が、実に多くいらっしゃいます。

子宮頸管を切除することで、子宮からの粘液が少なくなって精子が泳いで子宮に入りづらくなったり、頸部の変形の影響で、体外受精の際に受精卵を子宮内に戻す処置がうまくいかずに妊娠しづらくなったりするケースが非常に多いためです。

こうしたがんが妊娠可能性に及ぼす“負の影響”は意外に知られていません。また、妊娠できても、頸管が短いことで切迫早産になるリスクが高まります。超早産になった場合は産まれた子どもの健康のリスクも出てきます。不妊治療医としては、子宮頸がんの早期発見と同様、HPVワクチンの接種も必要だと考えています。

不妊治療とがん治療の関係は?

次に乳がんについてです。こちらは30代後半から増えてきて、40代後半にピークがあるとされています。( 日本乳癌学会 患者さんのための乳癌診療ガイドライン )

先述のグラフを見ても、4つのがんの中でもっとも死亡率が高いことに注意が必要です。

乳がん健診で一般的に行われるマンモグラフィーは、40歳未満の方が受けても有効性はそれほど高くはないようです。若い人では乳腺が発達しているため病変が見つけづらいからです。早期発見のためには月1回は自己検診(触診)をおこなうことをおすすめします。

ただし、家族に乳がん患者がいる場合は、40歳未満でもマンモグラフィー検査をしたほうがよいでしょう。体質的に乳腺の濃度が高くがんを見つけづらい(検診の結果に「高濃度乳腺」と記載される)とか、胸が小さいとかいった方は代わりに超音波検査を受けるとよいでしょう。

不妊治療との関連はどうでしょうか。

乳がんの術後ホルモン療法をおこなった場合、その間は不妊治療を受けられません。また、卵巣機能を抑える薬を併用することも多いため、ホルモン療法の終了後は、不妊治療の効果を得にくくなることが多いです。

また、不妊治療や妊娠・出産でエストロゲンという女性ホルモンが増えますが、このホルモンは乳がん細胞を活発にさせる働きもするため、がんの再発リスクを上げることになります。乳がんの治療を続けるか、リスク覚悟で子どもをもつことのどちらをとるかという究極の選択を迫られる患者さんは多いのです。

不妊治療中に見つかることも

卵巣がんや子宮体がんは、罹患率は少ないですが、不妊治療中に偶然見つかることが多いがんです。たとえば、子宮内膜症がある場合は、卵巣がんの発症リスクが高まることが知られていますが、一方で卵の質の低下や卵管性の不妊とも関連しています。また、たとえば、子宮体がんの一歩手前の状態の「子宮内膜(異形)増殖症」では、子宮内膜がいびつに厚くなり、受精卵が着床しにくくなることがあります。このようにがんと不妊症は無関係ではありません。不妊治療をしていたために早期発見でき、治療を終えてから不妊治療を再開して無事、妊娠・出産できるケースもあります。

不妊症でなくても、健診の際に、エコー検査をオプションでおこなえば、早期発見・治療は可能です。ただ、30代後半以降でこうした病気が疑われた場合、治療のために妊娠をあきらめなければならない状況になることも多いのです。

高年齢化にともなう卵子の質の低下の問題に加え、こうした婦人科系がんの発症リスクの上昇も、高年齢での妊娠・出産を難しくする原因の一つであることを、ミレニアル世代の皆さんはぜひ知っておいてください。

産婦人科医、不妊治療医。「東京HARTクリニック」勤務。 研修医時代に生殖医療の道を志す。不妊治療に関する知識の啓発と、多様な家族のあり方を応援することがライフワーク。
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