婚活と妊活のはざまで
telling,読者のみなさん、こんにちは。不妊治療専門医の小柳由利子です。
日々、telling,世代の患者さんと接するなかで感じた、ミレニアル女性たちに知ってほしい、気付いてほしい「からだ」のことを、この連載でお伝えしたいと思います。
第3回は、出産と結婚の“適齢期”について、生殖医療の観点から考えてみます。
「人生100年」「ライフシフト」と言われる時代。女性の社会進出もこの20年でだいぶ進みました。多くの女性たちにとって「30歳」は、これから仕事をばりばりやりたい、脂ののっている時期ですね。
30年ほど前までは、20代半ばに結婚・出産するのが一般的でした。近年はそれらの年齢が上がり続け、第1子出産年齢は30歳を超えているのが現状です。
ところが、生物学的には人間の生殖機能は数千年前から変わっていません。
社会が変化しても、医学がどれだけ進歩しても、人の「妊娠力」という本質は、変わることはないのです。
科学の進歩でも変えられない「妊娠力」
このギャップが、現代社会で不妊治療を必要とする患者さんが増えている原因となっています。不妊治療を専門にしている医師の立場としてお伝えしたいのは、「体外受精まで進めばだれでも妊娠できる」という幻想は捨てなければならない、ということ。たとえば、40代で体外受精を行った場合に妊娠できる人の割合は全体の1~2割に過ぎません。
上の図を見て、「40代でも2割以上が出産しているじゃないか」と感じるかもしれませんが、妊娠しやすい人は自然に妊娠します。言い換えると、年齢による卵子の質の低下に対し、体外受精はそれほど効力はないということなのです。(※卵子の質の個人差については前回の記事を参照)
40代で妊娠した有名人のニュースなどを見ると、40代でもふつうに妊娠するのだと思うかもしれません。でも、「だれかが妊娠する」のと、「だれでも妊娠できる」のとは違います。参考までに、オランダの研究チームがまとめた「欲しい子どもの数と達成確率からみる妊活を開始すべき年齢」によれば、子ども1人が「いてもいなくてもいいや」なら41歳、「いたらいいな」だと37歳、「どうしても欲しい」なら32歳までに、妊活を始めるべきという結果になったそうです。(※下図ご参考)
結婚は頭ではなく“感覚”で決める
そうはいっても、希望の時期に理想の相手と巡り合えるかどうかはわかりません。それに人生のまだ2~3割程度しか生きていないのに、一生を左右するパートナーを選ぶのは、とても勇気がいることです。人生の半分くらい生きてからでもいいよね……などと思ってしまいますよね。
ただ、婚活中の女性たちからよく聞くのは、年齢が上がるほど出産リミットを意識しすぎてガツガツしてしまう、という嘆きです。
妊娠・出産を意識した焦りだけでなく、年齢が上がるほど、私たちにはいろいろな経験やそれに伴うこだわりが鎧のように付加されていくため、身動きがとりづらくなるのかもしれません。知らず知らずのうちに頭がかたくなり、相手を決めることが難しくなりがちです。結婚には、若さと勢いも大事なのかもしれません。
では相手を決めるとき、何を手がかりにすべきなのでしょうか?
仕事柄、多くのカップルと出会いますが、仲が良さそうなカップルは、夫婦が驚くほど似ていると感じます。外見ではなく、雰囲気、つまり波長が似ているのです。
一緒にいるから似てきた部分もあるのかもしれませんが、結婚して長いカップルばかりではありません。もともと波長が合うもの同士がくっついたと考えるほうが自然です。
相手の外見や学歴、収入など、ハイスペックな相手を求めてなかなか決断できないという方もいるでしょう。でも、最終的には「一緒にいて居心地がよいかどうか」が重要なのではないかと思います。
相性を見極めるためには、感覚を研ぎ澄ますことが必要です。恋は頭ではなく体でするもの。もちろん、性の相性もあるでしょう。男性を選ぶ際、性的な部分はそれほど重要視しない方もいるかもしれませんが、不妊治療中のカップルで治療に成功しやすいのは、治療に関係なく仲良くしているカップルであることがデータ的にも示されています。
近年では恋人同士のやりとりもメールやチャットが占める割合が多いようです。五感(味覚、触覚、視覚、聴覚、嗅覚)のうち、視覚以外の四感の薄れつつある時代だと言えるかもしれません。
デジタルから始まる恋もあるでしょうし、始まりは何であってもよいと思います。でも、やはり一緒に話して触れ合って、心地よいと感じるかどうかは、末永く仲良く過ごすためにも、世代をつないでいくためにも、とても大事なことだと思います。