ミレニアルズのライフプラン 子どもがほしいと考えるなら
telling,読者のみなさん、こんにちは。不妊治療専門医の小柳由利子です。
日々、telling,世代の患者さんと接するなかで感じた、ミレニアル女性たちに知ってほしい、気付いてほしい「からだ」のことを、この連載でお伝えしたいと思います。
今回は女性のライフプランについて、生殖医療の視点から考えてみたいと思います。
前回、結婚には「いきおい」や「感覚」が大事だという話をしました。
ただ条件のハードルを下げたとしても、一生をともにすることを考えると、相手選びは慎重にならざるを得ないのも事実です。
「運命の人」と適齢期に出会えるとは限らない
運命は必ずしも完璧ではなく、映画やドラマのようにシナリオ通りにすすむものでもありません。人生でいちばん相性の合う相手と、結婚適齢期の間に出会えるとは限らないのです。男性の場合、結婚時期が遅くなったとしても生殖能力はそれほど低下しませんが、女性は妊娠出産できる時期が限られています。では、生殖年齢の間に理想の出会いがなければ、もしくは恋が実らなければ、子どもをあきらめなければならないのでしょうか?
日本では、ある程度生活が自立してから、理想の相手と結婚し、その相手と子どもをつくる、という手順を踏むことが当然と考えられています。最近は「できちゃった婚」も多いですが、結婚前提での付き合いというのがほとんどでしょう。
私には、この既成概念が、私たちの決断を難しくしているように思えてなりません。世界を見回せば、子どもを持つために、必ずしも「結婚」が必要ではない国や地域は多いです。まだ親のすねをかじっている学生同士が親になるとか、理想の相手がいないからと、理想の「精子」を買って未婚の母になるといったケースもさほど珍しい事象でもありません。
世界では、婚外子(非嫡出子とも言います)、つまり婚姻関係のない女性から産まれた子どもはたくさんいます。でも、日本では非常に少ない。下のグラフを見ていただくと、日本で婚外子がいかに少ないかがわかります。
例えばフランスは、先進国の中では最も出生率が高くて有名ですが、子どもの6割近くが未婚の母から生まれています。婚外子の割合が高い国ほど、出生率も高いことが知られています。結婚という枠組みにとらわれないことは、逆に家族をつくる力の後押しになることがわかります。
ただ、日本の現状では、法的な婚姻関係の下で産まれた「嫡出子」でないと、相続や養育を受ける上でデメリットがあります。仮に父親である男性と別れてシングルになった場合、社会的な支援も乏しく、そもそも学生が子育てしながら学校に通えるような環境が整っていません。日本の若い女性たちが結婚や子づくりに慎重になるのは、ある意味、当然かもしれません。
精子バンクを利用するシングルが増えている
一方で、そもそも子どもを作るのに相手を必要としない人もいます。最近、日本に進出したデンマークの精子バンクが話題となっていますが、日本からサービスを利用する人たちは、最近ではLGBTの女性よりもシングル女性の割合が増えているのだそうです。
日本では営利目的での精子バンク利用は認められていないため、病院で治療を受けることはできません。このため、自宅に精子を配送してもらい、自分で膣内に精子を注入する方法で妊娠します。
精子バンクから精子を買い、人工授精や体外受精をおこなって妊娠するのは、海外では珍しいことではありません。男性が無精子症であるカップルでは必要な治療の選択肢です。産まれてきた子への説明や、ドナーの情報開示をどこまで求めるかなど、当然、倫理的な問題もあります。海外ではカウンセリングの体制が整ってきていますが、日本では十分とは言えず、ドナー精子から産まれた子どもの幸せを保証できる環境が整っているとは言い難いのも事実です。
連れ子再婚、養子縁組。家族のかたちはさまざま
若いときの判断には、失敗が多いのも事実です。子どもは産まれたけれど、相手とは別れて別の人と家族を作るといったことも、海外ではよくあることです。アメリカの例では、18歳以下の子供のうち、初婚の男女に育てられている子どもの割合は約半数。15%は再婚家庭に育てられているそうです(2014年の民間会社調査による)。シングルやLGBT家庭が残りの35%を占めるというのも驚きですね。
日本でも近年離婚率が上昇しています。不妊治療の現場でも、連れ子を育てながら、再婚相手の子どもも欲しいとクリニックを訪れる方が増えています。治療と並行して養子縁組を考えられる方も少なくありません。若い方の間では、いろいろな家族のかたちが受け入れられつつあるのだなと感じます。
「結婚で失敗したくない」「完璧な親でなければならない」と考えすぎて進めなくなるより、行動してから考えてみていはどうでしょうか。
運命は「完璧」である必要はないのです。
私が専門とする生殖医療は、不妊のカップルの治療のためのツールですが、女性の自由な生き方を支援するための強力なツールでもあります。日本では国内で精子を買うこと、卵子を買うことはできませんが、これらが選択肢の一つになれば、女性はもっと伸び伸びと社会で活躍でき、それが社会の力になるのではないでしょうか。
長い人生の15年ほどしかない“生殖適齢期”に「出会い」と「妊活」の二つを詰め込まなければならない女性は、男性に比べてライフプランを考えるうえでとても不自由で、あまりにも運に左右されすぎると感じます。若い世代の方々には、一歩日本の外に出れば様々な選択肢があることを、この機会に知っておいてもらいたいと思います。
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