産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。」07

「よい排卵」につながる? 低用量ピルについてもっと知ろう

なでしこジャパンの元主将だった女子サッカー選手の澤穂希さんは最近、現役時代の健康管理について積極的に発言しています。基礎体温をつけ、定期的に婦人科を受診し、低用量ピルを使って月経周期をコントロールしていたことなどを講演会で話しています。引退後はすぐに妊娠・出産。キャリアも女性としての健康も自分の意思で選び、実現してきたのです。産婦人科医の種部恭子先生は、「澤さんの生き方は、スポーツ選手はもちろん、女性としても手本になる」と言います。

●産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。」07

お手本は澤穂希さん。キャリアと妊娠・出産を選び取ってきた。

 澤さんは20歳の時から基礎体温を測定し、30代からは低用量ピルを使って月経周期をコントロールしていたそうです。「いつかは子どもが欲しい」という人生のプランを立て、婦人科を受診していました。医師には納得のいくまで話を聞き、自分の体調を管理していたのです。

 30代後半まで競技生活を続け、引退して間もなく妊娠。アラフォーでママになることもできました。ワールドカップ(W杯)に6度、五輪に4度出場し、2011W杯ドイツ大会で得点王とMVPを獲得。長い競技生活で望んだ通りのキャリアアップを果たし、人生の次のステージで妊娠・出産という夢をかなえました。

 積極的に自身のライフプランと向き合い、選択して、「自分の思い描いた人生」を実現している「telling,」世代の良き先輩だと思います。出産後、落ち着いたところでいろんな場へ出向き、後に続く女性アスリートや一般の方々に、低用量ピルを使った月経コントロールを勧めていらっしゃいます。

 

 女性は月経周期により体調が変わります。周期のどのあたりにいるかによってパフォーマンスが異なるため、基礎体温で自身のリズムを知り、体調をチェックしていたそうです。これは女性アスリートが最大限のパフォーマンスを発揮するために、とても役立つことでしょう。

 また、低用量ピルの使用は、なでしこジャパンのチームドクターから勧められて始めたそうです。勝負の日に月経が重ならないように周期をコントロールするだけでなく、低用量ピルのホルモンの作用で服用中は月経量が減るため、貧血を防ぐこともできます。自分の体調をチェックし、ピルにより周期をコントロールすることでパフォーマンス向上にもつなげました。さすがです。

 トップアスリートは、ドーピング検査がありますから、薬を飲む場合には細心の注意が必要です。彼女は米国でプレーした時、チームメートが低用量ピルを服用していたことから不安なく、取り入れたのです。「月経周期や生理痛は努力や根性では克服できない」と女性特有の不調を受け入れ、策を講じた澤さん。彼女が低用量ピルの服用を公表したことにより、低用量ピルを飲む選手が増えているそうです。

 低用量ピルで排卵を抑えている間は卵巣を休ませることになるため、ピルをやめた直後に良い排卵が起こることが分かっています。澤さんもピルをやめた直後に妊娠し、無事に出産できました。ピルを上手に使いこなすために「自分の体調を見ながら決め、相談できるドクターを持っておこう」とも話しておられます。

 澤さんが勧める低用量ピル。医学的な知識も踏まえたうえで、ライフプランや現在、表れている不調に合わせて、服用するかどうかを考えてみてください。

低用量ピルは、多くの研究データによって安全性が確立

 そもそも低用量ピルは、欧米諸国に40年遅れて、1999年に「経口避妊薬」として国内承認されました。「性的にアクティブな人が飲むもの」という誤解を受けたり、副作用に過剰な不安を感じたりする人もいましたが、多くの研究データによって安全性が確立されています。子宮内膜症の予防や治療効果も明らかになり、現在では月経困難症や過多月経の治療目的で使用する低用量ピルが、治療薬として保険適用されています。

 うちのクリニックでも、月経痛がある若い女性には、積極的に低用量ピルの服用を勧めています。月経痛の緩和には鎮痛剤が有効ですが、鎮痛剤はあくまで症状を緩和するもの。月経痛が強い女性は子宮内膜症の発症リスクが高いことが分かっています。低用量ピルは月経痛の緩和だけでなく子宮内膜症の予防や治療ができる点で、鎮痛剤より優れています。健康な若い女性が服用する分には、副作用は極めて少なく、安全なものです。さらに低用量ピルの長期服用で、子宮体がんや卵巣がんの発症が減る効果も期待できます。また、月経前症候群(PMS)の症状の改善にも効果があります。

 低用量ピルは1カ月分のパッケージに入っている薬を、毎日、規則的に服用するものです。飲んでいる期間は28日周期で月経が起こるので、次の月経がいつかを正確に予測できます。また、毎月の月経が都合の悪い時期にかからないように1日単位で月経日をコントロールすることもできるので、旅行や仕事が忙しい時期を外すことにより行動が制限されないという利点もあります。

 それでも「ホルモン剤はコワい」という先入観が強い日本人。副作用の心配から服用を躊躇(ちゅうちょ)する人もいます。低用量ピルの服用開始後初期に、軽い吐き気、月経が長時間にわたるなどのマイナートラブルが出ることもあります。しかし、飲み続ければ症状は数日でなくなるでしょう。ピルを服用すると月経痛やPMSが改善されるはずですが、思ったような効果が得られない場合は薬の種類を変えてみることなどをお勧めします。ピルにはいろいろな種類がありますから、自分に合う薬を探すために主治医と相談してくださいね。

避妊薬として「予期せぬ妊娠を避ける」効果も

 もちろん、避妊薬ですので「予期せぬ妊娠を避ける」効果も重要な目的です。避妊効果が高く、一方で、中止した次の日からすぐに妊活が可能です。また、服用をやめた直後に勢いよく、良い排卵が起こることも知られています。

 子宮内膜症の予防、望んだ時期の妊娠、月経周期によるパフォーマンス低下の軽減効果など、女性が活躍し、自分の人生設計を主体的に立てるために役立ててください。低用量ピルは、現代女性のライフプランに非常に有用なものなのです。

続きの記事<日本の女性は、やせすぎている。産婦人科医が警鐘を鳴らす大問題>はこちら

構成:若林朋子

富山市生まれ、富山医薬大医学部(現富山大医学部)卒。同大付属病院などを経て2006年から女性クリニックWe富山院長。専門は生殖医療(内分泌・不妊)、思春期・更年期、女性医療。
北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
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