女性のカラダ、生き方、ときどきドラマ。

ドラマ「隣の家族は青く見える」で考える「多様な家族」「多様な生き方」

前回に引き続き、テレビドラマ「隣の家族は青く見える」(フジテレビ)を題材とし、お話をうかがいました。ドラマの主人公である深田恭子さんと松山ケンイチさんが演じる夫婦が住むコーポラティブハウスには、さまざまな家族が住んでいます。男性同士のカップル、失業中の元商社マンとその妻子、元妻の遺児を引き取った男性とその恋人など……。多様な家族のあり方も、このドラマの見どころです。家族をどう作っていくのかは、「telling,」世代の重要なテーマでしょう。

 不妊治療中の妻、自己実現の代理戦争である「お受験」に必死の母親、子どもが苦手なのに恋人の息子と同居するネイリスト…。女性たちはそれぞれに悩みを抱えています。男性同士のカップルの願いは「ずっと一緒にいたい」ということ。シンプルで、心に響きます。しかし、彼らはなかなかそれをカミングアウトできません。

 不妊治療と「LGBT」という「見ないふり」をされがちな性に関する題材を、あえて地上波のドラマで扱ったのは、意義深いですね。日本は性を健康的に語り、前向きに捉えることができていない国なのです。学校の性教育ではリスクばかりを強調し、性行動を抑止する教育が中心です。なのに、大人になったとたん手のひらを返したように「少子化だから子どもを産め」といわれる。よりよい人間同士の関係性や家族のかたちを考える風土を作るためには、小さいころから性を健康的に語ることができる環境が必要です。

 LGBTとは、女性同性愛者(レズビアン:Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ:Gay)、両性愛者(バイセクシュアル:Bisexual)、トランスジェンダー(Transgender)の頭文字を合わせた言葉です。「隣の家族は青く見える」に登場する男性カップルが、家族や職場で同性愛者であることをカミングアウトすると、反発を受けてしまう。「同性婚を認めてほしい」という2人の願いは、なかなか受け入れられませんでした。

 LGBTは、「女性の体や生き方」というテーマから外れるように感じられるかもしれませんが、そうではありません。クリニックでは性同一性障害(GID)の診療にも力を入れています。GIDとは、トランスジェンダーの中でも性別に対する違和感が強いため、身体的性と「自認する性」を一致させる治療を望む人たちです。うちのクリニックだけでも多くのGIDの方の治療をしていることを考えれば、治療にたどり着けない潜在的な人は決して少なくないはずです。

性同一性障害は、生活そのものが困難

 GIDの当事者の中からは、こんな声が聞こえてきます。「LGBTをひとまとめに『性的少数者』というけれど、性的指向がマイノリティーだからといって就学や就職で困ることはないでしょう? GIDは生活そのものが困難の連続なのです」。GIDの当事者は、「自認する性」を異なる性の体の中に押し込められているような状態で生きています。鏡を見るたびに突きつけられる現実…。二次性徴が起これば、なおさら違和感は強くなります。学校などの社会生活においては、制服、トイレ、集団での入浴など、生まれた時に割り当てられた性別での生活を強いられる。彼・彼女らは「生活そのものが困難」と痛切な思いを訴えてきます。

 ドラマでは男性同士のカップルの一方が同性愛をカミングアウトすると、実家の母親はショックを受けます。GIDの当事者も「親を悲しませたくない」とカミングアウトできず、したとしても親から、簡単には受け入れてもらえません。こっそり分籍してから名前を変えている人もいます。

 GIDの当事者が学校やコミュニティーで受け入れられにくいことは、親も苦しめます。日本の社会はジェンダーの刷り込み・押し付けが強い。GIDそのものが苦しいことに加え、社会が彼・彼女らを追い詰めるので、GID当事者の希死念慮(きしねんりょ・死にたいと願うこと)や自殺率は高いのです。

 うちのクリニックでは、「自認する性」が男性で女性の体を持つ人(FTM)の身体的性別の診断を行っています。多施設の精神科医、産婦人科医、泌尿器科医、弁護士などをメンバーとする医療チームに参加し、GIDの診断・治療・社会的支援などを担っています。FTMの方への男性ホルモン投与のほか、「自認する性」が女性で男性の体を持つ人(MTF)への女性ホルモン投与も行います。

 GID当事者が生きやすくなるためには、多様な性があたりまえの社会を実現することが重要であり、性教育などの啓発活動で多様な性についての理解を促すよう努めています。

 FTMは幼いころから「元気のいい女の子」として比較的、社会に溶け込んでいます。個人で作業することが多い建築や物流の業界では早くから受け入れられ、バリバリ働いている人も少なくありません。それに比べてMTFは「女々しい男の子」という二重のジェンダー差別の風圧を受けて生きています。声変わりの後、声が出せなくなったり、ひげを隠すためのマスクが外せなかったりする人もいます。生活の制約が多い学校生活を修了することが難しく、職業の選択肢が狭まってしまうこともあります。

自己肯定感を持てない人が増えている

 うちのクリニックがある富山県は、持ち家率が高く、離婚率が低い、保守的な土地柄です。夫婦に子どもが2人いて、一軒家を持つのが一人前、といった理想像が厳然としてあります。この押し付けに責められながら、不妊治療に耐えている人も少なくありません。

 「遺伝子」や「家」を維持する価値観に縛られて、子どものいない家族や、養子縁組、里親、同性婚、再婚者同士や一方が子連れで再婚したステップファミリーなどは「総論賛成、各論反対」。「普通じゃない」と思われがちです。逆に、「子どもが3人以上、いや、もっといてもいいんだけど、そっちに振れるのも…」と思ってしまうような人もいます。多様な家族や生き方が受け入れられず、生きにくい。これは少子化が進む原因でもあります。気づいてほしいですね。

 「遺伝子」は家族を作っていくために不可欠なものなのでしょうか。血のつながった親子なのに理解し合うことができない家庭もあるはずです。親に支配されてきたために、自己肯定感を持てない人が増えている気がします。

 私は「病んでいる人や困っている人の代弁者である」と、いつも肝に銘じています。病んでいる人には本物の「疾患」の人も、もちろんいますが、「根っこにあるのは社会の仕組みの中で抱える困難である人の方が多いかも」と感じています。「不妊治療する前に夫婦で話し合ってみたら?」と伝えることもしばしばです。多様な家族、多様な生き方を認めていくことで、解決できる問題はとても多いのではないでしょうか。

(次回に続く)

続きの記事<卵子凍結は「いつか必ず産みたい」人の切り札になるか?>はこちら

富山市生まれ、富山医薬大医学部(現富山大医学部)卒。同大付属病院などを経て2006年から女性クリニックWe富山院長。専門は生殖医療(内分泌・不妊)、思春期・更年期、女性医療。
北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。
女性のカラダ、生き方、時々ドラマ。

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