産む・産まないの選択 ドラマ「隣の家族は青く見える」から考える

女性の生き方が多様化し、仕事・恋愛・結婚・出産・育児……様々なライフイベントにおいて選択の幅は広がりました。だからこそ、「自分らしく生きていくにはどうすれば?」と立ち止まることもあるかもしれません。 身近な話題の中から、「telling,」世代の心と体を考えるヒントになりそうなテーマを産婦人科医の種部恭子先生と考えるシリーズ、産婦人科医・種部恭子の「女性のカラダ、生き方、ときどきドラマ」。初回は、不妊治療をテーマとしたテレビドラマ「隣の家族は青く見える」(フジテレビ)から「不妊治療」について。深田恭子さんが演じる五十嵐奈々と、松山ケンイチさんが演じる大器という30代の夫婦は妊活中。思うようにいかず葛藤する姿が丁寧に描かれ、2人を支える家族や周囲の人とのやり取りには考えさせられます。

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 子を持つか、持たないかで個人の存在価値に何ら変わりはありません。でも言いにくいし、聞いてはいけないことになっている。ヒロインの奈々は不妊治療をしていることを職場になかなか言えないでいたけれど、そういう方は、患者さんでもとても多いんです。妊娠すると堂々と「健診に行きます」と言って休めるのに、「妊活に行ってきます」とは言えない。休まず、こっそりと治療を受けるため、終業まできっちり勤務してから、夕方以降の遅い時間にクリニックに慌てて駆け込んでこられます。

 ダイバーシティーを推進する企業は、年休を時間単位どころか10分単位で取得させたり、年休の「貯金」を導入していたりします。不妊治療に長期の休暇は要りません。治療の内容にもよりますが、週に数回、短時間の診察を受けるか、丸一日休めば治療できますので。休むこと自体を「マイナス」ととらえる風潮があると、余計な気遣いをされたり事情を探られたりすることも…。治療を受けにくい理由です。マラソンを趣味とする人が休んで「大会に参加します」って言えるでしょ。

 治療の結果を聞いてくる上司もいるかも。そしたら、「マラソンをする人にタイムまで聞かないですよね」って、さらっと流せばいいんです。不妊治療は、女性の負担が圧倒的に大きい。「少子化」を問題にしながら、妊活に優しくない。それっておかしいな、と思います。

勤務時間が短くなっても、仕事の質は落とさないように

 ワーク・ライフ・バランスは女性の育児支援と捉えられがちだけど、むしろ男性の課題です。「妊活中」と聞いて露骨に「戦力外通告」をしてくる上司もいるかもしれません。そんな上司には、負けないで。人に裏切られることはあっても、仕事は裏切りません。妊娠や妊活には静かな応援が必要ですが、仕事とは別です。勤務時間が短くなっても、仕事の質は落とさないように頑張ってください。

 妊活が重荷になっている女性は少なくありません。治療を始めたころは「よし、次こそ!」と明るく「頑張ります」と言えるのですが、治療が長くなったり、自分の親や舅(しゅうと)、姑(しゅうとめ)などから子を産むという嫁役割や娘役割を押しつけられたりすると、つらい。姑に「畑が悪い」なんて言われたり、実家の母から「お金あげるから不妊治療受けてきなさい」とプレッシャーをかけられたり、月経日をカレンダーに印でつけられたり…という話も聞きました。

 それは、しんどいですよ。「家」とか「嫁」より、まずは人間としての自分を大切にしてください。

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 考えてみてほしいのです。不妊の原因の半分は男性にあるということを。不妊症の原因が男性側にある夫婦は約4組に1組で、男女両方に不妊症の原因がある夫婦も約4組に1組います。だから、どちらに原因があろうと、子を持つのは共同作業。どちらかだけで治療を受けるのではなく、2人で共通の敵に向かって戦う「同士」のようであってほしい。

「遺伝子を残したいですか?」それとも「親になりたいですか?」

 ドラマでは、治療内容をステップアップするかどうかで、夫婦の意見の食い違いがありました。治療を続けるか、やめるかの決断には、本人たちの意思が尊重されないといけません。うちのクリニックでは検査や治療で立ち止まったとき、「遺伝子を残したいですか?」「親になりたいですか?」と聞きます。後者なら、養子縁組や里親になることを選択肢に加えるようお勧めしています。実際、里親研修に行った夫婦や、養子縁組をした親子もいます。

 子を持つことはそれぞれの希望だけれど、子を持つ手段は様々。「なんでもっと早く養子をもらわなかったんだろう」と嬉々として子育てを楽しんでいる女性もあれば、大変な治療の末に子を授かったのに、「妊娠できなかったときの自分」を痛みとして抱き続けている方もいる。妊娠は「ゴール」ではないということ、お伝えしておきたいと思います。

「妊娠してしまった」と悩む人が多いのも日本の実情

 「妊娠できない」と悩む人が少なくない一方で、「妊娠してしまった」と悩む人が多いのも日本の実情です。「望んで産む女性」が少ないのです。不妊治療がこれほど一般的になっていることを考えると、日本の社会は大きな矛盾を抱えているのです。

 海外の調査機関の統計によると、日本の女性においては、妊娠のうち「望んだ出産」に至るものが36%、「予定外の出産」が36%。残念ですが「望まない出産」が3%、25%が「中絶」を選んでいます。つまり実際に「望んで出産した人」は3分の1強しかいません。ちなみに、フランスの女性は「望んだ出産」が66%、「予定外の出産」が12%です。大きな差があります。

 これらの結果から見えてくるのは、日本の女性が、「産む」「産まない」という決断をするときに、主体性を与えられていないということです。中絶したくて妊娠する女性はいません。健康教育も不十分です。女性の「性」を肯定する文化もないといえるでしょう。海外との違いに気づくための情報が不足しているのかもしれません。

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 「子を持つ」「持たない」は、自分で決めてよいことです。大切なのは、いずれの人生を選ぶ場合でも、正しい情報を得たうえで、「自分第一」で決断を下してほしいということ。

「妊娠してしまった」

「妊娠のチャンスを逃してしまった」

 ――すべての妊娠が女性の希望で起こる妊娠なら、そして女性が描く夢やキャリアが存分に実現できるなら、女性はシアワセです。「自分の思い描いた人生であってほしい」と願っています。

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富山市生まれ、富山医薬大医学部(現富山大医学部)卒。同大付属病院などを経て2006年から女性クリニックWe富山院長。専門は生殖医療(内分泌・不妊)、思春期・更年期、女性医療。
1971年富山市生まれ。同市在住。1993年北陸に拠点を置く新聞社へ入社、90年代はスポーツ、2000年代以降は教育・医療を担当、12年退社。現在はフリーランスの記者。
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産まずに生きる
「産まない」「子どもはいらない」と意思表明するのは、なぜ勇気

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