卵子凍結は「いつか必ず産みたい」人の切り札になるか?
卵子が減るスピードは37.5歳以降、2倍に加速する
女性は生まれる前にたくさんの卵子をつくってから、生まれてきます。あとから卵子をつくることはできません。女性は、月に1つ排出される卵子を待ち受けるために、月経で子宮内環境をリセットして準備をします。だから、卵子が1個でもある限り、月経は続くのです。卵子が底を尽く50歳ぐらいまでは間隔があいても月経は起こるため、「月経がある限り妊娠できる」と考えている女性は多いかもしれません。
年齢を重ねると卵子が少なくなることは、かなりの方が知っていると思います。月に1個ずつ減るのではなく、卵子は月に約1000個ずつ減っています。女性の身体は、毎月1000個のうちの1つ、最も状態のよい卵子のみを排出し、残りの999個は消滅・吸収しています。そして、卵子が減るスピードは37.5歳以降、2倍に加速することが分かっています。卵子の絶対数が少なくなると、状態のよい卵子が得られにくくなるため、妊娠も起こりにくくなります。
生まれたときに700万個あった卵子は45歳で200個に
生まれたときに700万個あった卵子は、20歳までに12万個、30歳で5万個と減り続け、40歳では5000個になってしまいます。45歳ではたった200個しかありません。
子どもを持つか持たないかは、個人の自由。妊娠・出産の有無で人の評価や存在意義が変わるものではない。でも、生きることそのものが科学です。「自分で自分の人生を選んで生きる」ために、科学の知識は必要です。「もっと早く教えてほしかった」と思う人も少なくないのではないでしょうか。保健体育では二次性徴ぐらいは学んでも、産むこと、老いることは教えてくれません。
一方、男性は生涯、精子をつくることができます。しかし、卵子と同じように加齢に伴う影響はあり、35歳前後から、精子の質や量に加齢による変化が表れます。精子の減少は34歳から、運動率の低下は43歳ごろから。さらに、55歳を過ぎるとY染色体を持つ精子が減ります。卵子と精子の質・量が低下すれば当然、妊娠しやすさ――妊孕性(にんようせい)は低くなります。いったい何歳になったら、どのくらい妊娠しにくくなるのでしょうか?
不妊治療も避妊もない昔の人口統計で、結婚した年齢と子どもが1人以上いる人の割合を調べた研究があります。それによると、20~24歳で結婚した人で子どもがいない人の割合は5.7%、25〜29歳で9.3%、30〜34歳で15.5%、35〜39歳になると一気に高くなり29.6%。40〜44歳で結婚した人では、子どもがいない割合は63.6%でした。
スキンケアやメイクなど、女性が自分に投資することができる時代です。外見が若々しくても、卵子は「年相応」。卵巣や精巣の機能については、禁煙以外のアンチエイジングはありません。そして、仕事にも年相応の適齢期があります。女性の妊孕性が最も高い時期と、女性のキャリア形成に大切な時期は一致しています。残念ながら今の日本では、子どもを持つことにエネルギーがかからない20代で産み、キャリアも手に入れる、ということが困難です。仕方がないので、両方手に入れたい人は「どちらをとるか」という個人レベルのトレードオフをせざるを得ません。少子化は日本の若者の「ストライキ」のようなものです。
健康な女性の卵子凍結は専門家の間でも意見が分かれる
「卵子を凍結して将来の妊娠のために保存する」という選択もあります。確かに、若い女性ががんになった場合、抗がん剤などの治療で卵巣機能の低下が予想されるため、治療後の妊娠の可能性を残すために実施することはあります。健康な女性の卵子凍結の是非については、専門家の間でも意見が分かれるところです。私は「いつか必ず産みたい」と願う人にはお勧めしません。「それなら、先に産もう」と。
凍結卵子が受精・着床し妊娠が成立する確率は、通常の体外受精胚移植よりも低いのです。高額なことも問題。加えて、加齢により妊娠合併症のリスクが高くなってからの妊娠出産は、命がけ。妊娠することがゴールではありません。そして子育てには体力が必要です。少しでも若いほうが、子どもと楽しめる時間も長くなります。また、米国では今年3月、不妊治療施設が保管していた卵子と受精卵4000個が凍結保管庫の故障により、全滅するというトラブルが起こりました。凍結という手段は、盤石ではないのです。
「いつか必ず産むつもり」なら、「今」でない理由を解決する方法を探しませんか? 産みたいならば、産んでから、いい仕事をしてください。出産・子育ての経験は、必ず仕事の役に立ちます。それを不可能にするような組織に、未来はありません。働くことを躊躇したり、心が折れたりする時もあると思いますが、よい子育てをしたければ、仕事や社会活動などで「自分の居場所」を持つことをお勧めします。
構成:若林朋子
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