のんさんの言葉「ヘタでもいい」から、ヘタをまじめに考えてみた
のんさんは、自らが社長となって2年前に「株式会社non」を立ち上げました。その後、ビデオ作品の監督や音楽制作など、次々と活躍の場を広げています。その原動力は、「ヘタクソでもいいや」と思い切って挑戦しているから。
でも、本当に「ヘタクソでいい」んでしょうか?それって、のんさん、だから許されるんじゃないんかな……。自分に置き換えると、英会話や和のマナー、仕事で未経験のことを任されたときだって、なかなか「へたでいい」とは割りきれません。やっぱり、「失敗したら恥ずかしい」「努力しないで開き直ってると思われるかも」と考えてしまいそう。とはいえ、「ヘタクソでもいいやと思えるとラクだろうな」と、頭のなかはモヤモヤ……。
料理にジャズに…「へた」ブームがやってきた?
世の中を見渡してみると、「へた」という言葉をあえて名前やタイトルにつけている例がけっこう見つかります。最近注目されているのは、スイーツのレシピ本『へたおやつ』(マガジンハウス)。著者は、人気料理教室「白崎茶会」を主宰する料理家の白崎裕子さん。1万部売れれば大ヒットのレシピ本の世界で、刊行から4カ月で既に4万部も売れているそう。
戦前、夜店で売られていたインチキバンドのレコード音源を集めた「へたジャズ!」なるCDも昨年末にリリースされていて、ちょっとした話題になっています。俳優の田辺誠一さんや、タレントのはいだしょうこさんら、へたなイラストが「画伯」として注目されたのもここ数年のこと。これは、「へた」ブームが来てる!? ……と色めきだって、ミレニアル世代の気鋭のライター、武田砂鉄さんに聞いててみました。すると、
「そんなものあるんですかね。何のことを指してるんですかね」
のっけから心が折れそうになるお言葉……。武田さんいわく、「インターネットが発達して、へたブームが本当かどうか、すぐにわかりますからね。サブカル的なものは80年代からずっとありますから。それがSNSの時代になって大衆化してきただけじゃないですかね。いろんな方に話を聞くと、きてるのか、きてないのか、見えてくるんじゃないですか?」
「へた」のルーツは平安時代にさかのぼる
「へた」をキーワードに時代をさかのぼってみると、日本には近代以前から、ゆる~い「へた絵」の系譜がありました。矢島新さんの『日本の素朴絵』(パイ インターナショナル)によれば、平安時代の大和絵あたりがその出発点。リアリズムを追及し、完璧を求める中国の王朝文化は、おだやかな風土で暮らす日本の貴族にとってはキツすぎて、ゆる〜い日本独自の表現が生まれたのでは?と分析します。
私たちが「へた字」や「へた絵」に愛おしさを感じるのも、日本で長い年月をかけてDNAに刻み込まれた美意識のせいなのではないだろうか? 日本という国は、わりと「へた」に優しい「へたがデフォルト」の国なのかもしれません。CD「へたジャズ」をプロデュースした保利透さんはタイトルに「へた」とつけた理由をこう語ります。
「へたじゃない演奏もあります。戦前のジャズってマニアックですから、より多くの人に興味を持ってもらうために『へた』という言葉を使ったようなところがあります。『うんこ漢字ドリル』みたいなものですかね」
このCD売り上げは上々だとか。「へた」、あなどれず! ジャズが流行した昭和初期、売らんかなで量産された一発録音のライブ感とか、やっつけ感とか、いかがわしくも熱い感じに「へた」って言葉は似合う気がします。
素朴絵やへたジャズに感じる、「自己流だけどとりあえずやってみよう」というピュアさ。それが「へた」に愛嬌をもたらし、人の心をくすぐるのでしょう。「へたでもやってみる」という、のんさんの人生への向き合い方は、古くて新しい手法なのかもしれません。
というわけで、明日は、レシピ本『へたおやつ』が好調の、料理家・白崎裕子さんのインタビュー「本当に、へたでもいいんですか?」をお届けします。
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第1回のん 撮り下ろし 「躊躇せず、とにかくやってみる」
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第2回のん 「ヘタクソだからやっちゃダメ」って、誰が決めるんだろう
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第3回のんさんの言葉「ヘタでもいい」から、ヘタをまじめに考えてみた
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第4回武田砂鉄さん、ホントに「へたで、いい」んでしょうか?
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第5回経験ゼロでもできる!『へたおやつ』クッキーレシピ