「へたで、いい」02

人気料理家が教える「上達が早い人の共通点」って?

女優・のんさんがインタビューで語った「ヘタクソでもいいやって思えたら、ラクになれた」という言葉から、「へた」について考えているこのシリーズ。第2回は、神奈川・葉山でオーガニック料理教室「白崎茶会」を主宰する料理研究家、白崎裕子さんにうかがいました。著書『へたおやつ』(マガジンハウス)にて、「へたはえらい」とおっしゃる白崎さん、ほんとに、へたでもいいんですよね?

最初は誰だって、「へた」

——アレルギーにも対応したヘルシーなお菓子を、料理が「へた」な人でも失敗せずにおいしく、簡単につくれる。「へたおやつ」に載っているのは、1年365日のほとんどをキッチンで過ごす自称「料理オタク」の白崎さんの知識と経験をつぎ込んだ、究極のレシピでもあります。白崎さん、なぜ「へたおやつ」のレシピを考えようと思ったのですか?

白崎 今までお菓子づくりなんて全然したことないのに、お子さんにアレルギーがあったり、ご家族の健康管理のために、安心な材料でつくらざるを得ないという人がいます。アレルギー対応のお菓子はなかなか売っていないし、買ったら高い。だから、何とかしてつくろうと頑張ったのにうまくいかない。そんな人たちの姿をSNSなどでよく見かけました。もっともっと簡単なレシピでできないかなと思って考えたのが『へたおやつ』です。

 最初は誰だって「へた」なので、そこで怯えちゃうんですよ。そして、うまくいかなかったと諦めちゃう。でも、頑張って1個つくってみれば「なーんだ、簡単」となる。へたなできばえでも、家族は「おいしい」って言うわけですよ。そうすれば、つくる側はすごく楽になるんですよね。

—— 一度でも成功体験があると、その後はすんなりいくことが多いと、白崎さんは料理教室で教えた体験から実感するそうです。「へたおやつ」は、諦めそうになっている「へた」な人たちの背中を押す、白崎さんからのエールなのです。それにしてもなぜ、「へたおやつ」というタイトルをつけたのでしょうか?

自分から「へた」って言っちゃったら強い

白崎 ずっと前から「へた」が流行らないかと思っていました。へたってすごいよね、かっこいいよねみたいな。「へたでいい」ということほど、ホッとすることってないんです。料理教室に来る女性を見ていて思うのですが、女の人って自分が「へた」って言えないですもん。本当はへたなんだけど嫌いなことにしようとか、興味がないことにしようとか、ごまかしていたりするんです。

 以前、料理教室で「へたクラス」というのをやっていました。料理がへたなためにこんなに人生で損をしたってことを書いてもらって、その損の度合いの大きさで、勝った人が入れる教室です。このクラスの生徒さんが、もうとんでもなく上手になるんですよ。自分でへたって言っちゃった人くらい強いものはない。

「私はへた」って言える人はセンスがいい

——「へたで、いい」ってことですか?

白崎 そう思います。へたというのは、「自分で、始めた」ということだから。みなさん、「へた」は一番下だと思っていますよね。でも実際は、へたより下に「自分ではつくらずに、有名店を予約する」とか、「自分で料理するけど、調味料はおいしい合わせ調味料を買ってくる」とかがある。その上に「へた」があって、そこからどんどん上がって行く。

 「私はへたです」って言える人には、センスのある人が多いんです。だって、「自分はへただ」ってことに気づいているわけですよね? 普通は、ほぼ気づかないんですよ。今はコンソメを入れればスープはちゃんとおいしいし、麻婆豆腐の素もあるし、レンジでチンしたり、買ってきたりしたもので十分ですよね。おいしい合わせ調味料を知っている人が料理上手みたいに思われてるところもある。1から自分で味つけしようと思わない限り、へただってことがわからないんです。自分がへただと気づいている人は、自分で1からやろうとした人ってことですから。

——なるほど、目からウロコです。「へた」に気づくことができなくなっているのは、料理に限りませんね。インスタグラムの写真がうまく撮れなくても、フィルターをかければ素敵な一枚に変身するし、字がへたでも、キーボードで打っていればわからない。世の中が便利になりすぎて、私たちはものの見方も「へた」になっていたとは……。

白崎 へたクラスを卒業した人は、もう教室には来ませんよ。全部自分でやれるようになるわけですから。結局、最終的にはへたクラスの人たちが上手になるんです。「私はへた」って言っちゃった人は、基本の「き」からやるから、本当の料理上手になれる。それこそが、へたの極意だと思います。

白崎裕子(しらさき・ひろこ)さん プロフィール

料理研究家。逗子市で40年続く自然食品店「陰陽祠」主宰の料理教室の講師を経て、海辺の古民家でオーガニック料理教室「白崎茶会」を主宰。『かんたんお菓子』(WAVE出版)、『白崎茶会のかんたんパンレシピ』(学研プラス)など著書多数。『白崎茶会のあたらしいおやつ』(マガジンハウス)で昨年の料理レシピ本大賞・お菓子部門の大賞を受賞する。http://shirasakifukurou.jp/

大学卒業後、テレビ番組制作現場でバラエティー、旅番組、報道番組などのディレクターを務め、2012年からはフリーの構成作家・ライターとして活動。近年は東京・荏原中延の「隣町珈琲」で「火鉢バー」を不定期開催中。