妊活の教科書02

妊娠・出産は何歳までできる?卵子の数やリスクから妊娠可能な年齢を考える

「タレントの○○○、43歳で出産!」なんて話題があると、「40代でも妊娠、出産できるんだ。私だって、まだまだ大丈夫よね」と、なんとなくホッとしていませんか? でも、高齢出産は本当に誰にでも可能なんでしょうか。そもそも、女性はいったい何歳まで産めるのでしょうか。妊活・出産のタイムリミットを考えます。

1980年代は、30歳以上が「高齢出産」とされていた

日本人の晩婚化、晩産化が進んでいるといわれても、それが当たり前になっているミレニアル世代にはピンとこないかもしれません。まずは、こんなデータから。

1980年当時、女性の平均初婚年齢は25.2歳、第1子出生時の母親の平均年齢は26.4歳でした。80年代といえば、ミレニアル世代のママ世代が結婚・出産した時期です。現在の日本産科婦人科学会の定義では高齢出産(高年初産)は35歳以上ですが、当時は30歳以上が高齢出産とされていました。20代半ばで結婚・出産して、そのあとに1〜2人子どもを産んで30歳を迎える――という人が多かったのでしょう。

資料:内閣府「令和2年版 少子化社会対策白書」より

それから40年後の2020年、女性の平均初婚年齢は29.4歳、第1子出生時の母親の平均年齢は30.7歳。それぞれ約4歳上昇しました。かつてなら高齢出産と言われた年齢で、1人目を産むのが平均的になっているわけです。(※1)

生まれた時点で卵子の数は決まっている

年齢が高くなると妊娠しにくくなることを、多くの女性はなんとなくわかっているかもしれませんが、実際、妊娠はいつまで可能なのでしょうか。閉経直前まで妊娠・出産できるかといえば、そういうわけではありません。日本人の平均閉経年齢は約50歳。その数年前には、妊娠できる能力は衰えているといいます。

卵子の数は増えない

女性は生まれた時点で卵巣にある卵子の数が決まっていて、それが時間とともにどんどん減っていき、やがて閉経を迎えます。
卵子の数は胎児のときが500万〜700万個と最も多く、生まれたときは約200万個、思春期は約30万個、35歳ごろには生まれたときの1〜2%になるという説もあり、閉経前には約1000個といわれています。若い女性では毎日30〜40個のペースで卵子が失われていくという専門家もいます。
卵子は生まれ持った“在庫”が減っていき、新しく作られることはない。毎日新しく作られる精子との大きな違いです。(※2)

卵子の質は加齢とともに衰える

では、卵子がなくならなければ妊娠できるのか、というと、そうではないのです。卵子も加齢によって質が衰えるので、妊娠の可能性も下がります。

卵巣で出番を待つ卵子は、本人と同じだけ年を重ねています。25歳の人の卵子は25歳、40歳の人の卵子は40歳です。どちらが妊娠に有利かといえば、やはり若いほうなのです。

また、加齢により染色体異常が増えて、妊娠できる可能性がある卵子の数が減ります。そのため、妊娠可能な卵子が排卵される確率が下がります。うまく排卵して精子と受精しても、その後の発育が止まってしまったり、子宮に着床しても流産になってしまったりという確率が高くなるのです。

卵子の“在庫数”の減少、それに加えて質のよい卵子(妊娠できる可能性のある卵子)が排卵される確率の低下という二重のパンチなのです。

妊娠可能な年齢には個人差がある

年齢を重ねれば、体のあちこちに影響が出てくるもの。卵巣をはじめとする臓器の機能も低下していきますし、婦人科系のトラブルも起こりやすくなります。
子宮内膜が子宮以外のところで増殖する子宮内膜症は、卵管で増殖すると卵管が詰まったり、卵巣で増殖すると卵巣機能に影響したりすることも。また、良性腫瘍の子宮筋腫は発生する位置や大きさによっては、受精卵の着床を妨げることがあります。

多くの女性が35歳くらいで子どもを産み終わっていた時代には、子宮内膜症や子宮筋腫を発症しても「もう子どもは考えていないから」と治療に専念できました。しかし、現在はその年齢から妊活や不妊治療を始める人も多く、治療をどうするか悩む人もいます。

加齢とともに妊娠・出産に不利なことが増えていくことを考えると、子どもを産むのは早いほうがいいのは明らか。しかし、そうはいってもライフスタイルが多様化した現代、30代で結婚してすぐに1人目を産むことができれば「ラッキー」と捉える人もいますし、早めに産むことができたら、2人目、3人目も考える人も多いでしょう。

どんなことも計画通りにはいかないものですが、こと妊娠となると、相手がいることですし、自分でコントロールはできません。加齢で妊娠しにくくなって、時間がかかったり、望むようにはいかなかったりすることも考えられます。
また、いざ妊活を始めたら男性不妊が見つかった、ということだってあります。

妊娠のタイムリミットは?

そして、気になるのは「妊娠のタイムリミット」でしょう。厚生労働省の人口動態統計では、45歳以上で出産した人は1600人以上います(2020年)。この年、日本で生まれた赤ちゃんは約84万人で、45歳以上の母は約0.2%、40歳以上では約5.9%です。
この中には不妊治療の末に子どもを授かった人が多くいますし、提供卵子による妊娠・出産も含まれているかもしれません。

実際のところは、20代でも不妊治療をしている人はいますし、45歳で自然妊娠して初産となる人もいます。「いつまで妊娠できるか」は個人差が大きく、自分が「何歳まで産めるのか」を知る方法は今のところないのです。

ひとつのヒントとなるのが、AMHというホルモンの検査です。この数値は個人差が大きく、卵巣に残る卵子の数の目安をつかむことができるため、不妊クリニックでは治療方針の参考にしています。ただし、卵子の数が多くても年齢が高ければ、残っている卵子の質は年齢なりに低下していると考えられます。

一方、妊娠率を考えるときに参考になるのが、日本産科婦人科学会が発表している体外受精や顕微授精などの高度な不妊治療(ART=Assisted Reproductive Technology)のデータです。日本では、約16人に1人の赤ちゃんがARTで誕生しています(2018年)。

ART、人工授精などの詳しい説明はこちら

資料:「日本産婦人科学会 ARTデータ」より

35歳、体外受精などで出産できたのは18.6%

このデータから、治療して実際に妊娠できるまでにはいくつもハードルがあることがわかります。卵子と精子が受精できるか、受精した後に子宮内に戻せるか(胚移植/ETできるか)、その後順調に成長し、出産まで至るか……。

ARTを受けても、実際に出産までいたる割合は、30歳では21.6%、35歳では18.6%、40 歳では9.5%、45歳では1.1%です。

もうひとつ、このデータで注目しておきたいのが流産率です。35歳では20.1%、40歳では32.1%、45歳では60.6%と、年齢とともに流産率は上がります。年を重ねるほど、妊娠しにくく、流産の可能性が高まるので、出産して子どもを抱ける可能性は低くなるのです。

いかがでしょうか。 妊娠率について、意外に低いと感じた人も多いのではないでしょうか。
ただし、これはあくまでARTを受けた人のデータ。高度な治療を受けるということは、なんらかの妊娠しにくい状況があると推測できます。
自然妊娠や人工授精での妊娠率のデータがないのでわかりませんが、年齢が上がれば妊娠率は下がり、流産率が上がる傾向は変わらないでしょう。

高年齢の妊娠、どんなリスクがある?

高年齢での妊娠については、いくつか知っておいたほうがいいことがあります。

① 流産や早産の可能性が高まる

高齢出産の場合、流産や早産の確率が高くなります。早産とは妊娠22週から妊娠36週6日までの出産のこと。赤ちゃんが小さく生まれるので、新生児医療が必要になるケースがあります。死産の確率については高年齢で高くなると言われますが、「差がない」とのデータもあります。

② 妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を発症しやすい

妊娠中に高血圧を発症した場合を「妊娠高血圧症候群」といいます。ひどくなると脳出血や痙攣発作、肝臓や腎臓の機能障害を起こしたり、おなかの赤ちゃんの発育が悪くなったりすることがあります。
そして、妊娠をきっかけに糖尿病を発症するのが「妊娠糖尿病」です。羊水過多や合併症を起こしやすくなり、おなかの赤ちゃんにも影響を及ぼす可能性があります。巨大児、低体重児などが産まれる要因になるほか、難産にもつながります。

③ダウン症などの先天的な障害リスクが上がる 

若いときに比べて染色体異常の赤ちゃんが生まれる確率が高くなります。
染色体は23対46本ありますが、染色体の21番目が1本多い染色体異常がダウン症です。高齢出産の場合は、出生前診断を受けるかどうか悩むケースもあるかもしれません。

高年齢で妊娠を望む女性が気をつけるべき生活習慣

高年齢で妊娠を希望するのなら、毎日の生活には今から気をつけましょう。といっても特別なことではなく、バランスのとれた食事、十分な睡眠、適度な運動など、一般的にいわれる健康的な生活が基本です。

① 健康的な食生活と葉酸の摂取

妊娠初期の胎児の発育に大切な栄養素である「葉酸」は、妊娠前から積極的に摂りたいもの。厚生労働省では妊娠を希望する女性は食事での摂取に加えて、1日400µgのサプリメントでの葉酸の摂取を推進しています。
また、妊娠がわかったら、飲酒はやめましょう。

② タバコをやめる

喫煙している女性が妊娠すると流産や早産のリスクが高くなり、出産では低出生体重児の可能性が高くなります。

③ やせすぎや太りすぎを避ける


無理なダイエットによるやせすぎや極度の太りすぎは、妊娠に関係するホルモンに影響すると言われています。肥満になると流産や早産、妊娠高血圧症候群になるリスクが高くなるので気をつけましょう。

「不妊治療をすれば高年齢でも産める」は間違い


40代で自然妊娠する人はたくさんいますから、妊娠・出産を必要以上に不安に思ったり、あきらめたりすることはありません。でも、「40歳になっても不妊治療をすれば産める」というのは、誰にでもあてはまるものではないと考えたほうがよさそう。妊娠の確率だけでなく、人の身体の状態はそれぞれ違うし、妊娠はパートナーも関係することだからです。

〈参考資料〉※1:厚労省「人口動態統計」(2020年)、※2:『よくわかるAMHハンドブック』(協和企画)、『名医が教える 最短で授かる不妊治療』(主婦の友社)※ともに著者:浅田義正

女性向け雑誌編集部、企画制作会社等を経て、フリーランスの編集者・ライター。広報誌、雑誌、書籍、ウェブサイトなどを担当。不妊体験者を支援するNPO法人Fineスタッフ。
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