妊活の教科書04

体験談に涙…。当事者たちが語った妊活・不妊の本音〈妊活の教科書04〉

妊活・不妊体験者の話を聞き、当事者同士でおしゃべりするイベント「Fine祭り2018 知りたい! みんなの妊活」が11月25日、東京で開催されました。主催は、現在・過去・未来の不妊体験者を支援するNPO法人Fine(ファイン)で、今回で11年連続の開催。満員となった体験談の会場では、参加者は静かに話に聞き入り、あちこちから涙をこらえて鼻をすする音も……。その様子をレポートします。

●妊活の教科書04

 なぜ子どもが欲しいと思ったのですか?

「Fine祭り2018」の様子。東京・銀座キレイが丘本館にて開催

「なぜ子どもが欲しいと思ったのですか? 不妊治療終了後、体験を取材した記者さんから聞かれました。すぐに答えられず、それからは自分でも繰り返し問いかけました」

そう話し始めたのは、Fineメンバーの堀田敬子さん。大学卒業後、営業職として全国を飛び回りました。結婚し、そろそろ子どもをと思ってもなかなか妊娠しないため、大学病院を受診。仕事の合間をぬって通院し、妊娠しました。しかし、仕事の調整がむずかしく、職場に妊娠を伝えないまま、「無理してはいけない」と気にするさなか、流産に。

「このままの状態で仕事を続けていたら、次に妊娠してもまた同じことをして、結局はまわりに迷惑をかける」、そう思って、35歳で退職。順調に重ねたキャリアを手放したのですが、「治療に専念すれば、すぐに子どもを授かるだろう」という期待もあったといいます。

しかし、なかなか妊娠しません。仕事を始めても、夫の転勤でキャリアが途切れてしまいます。いつ妊娠するのか、もしかして妊娠しないかもしれないという焦り、その思いを話すことができず、孤独だと感じる時間が続きました。
見失いかけた自分らしさを思い出させてくれたのは、古くからの友人の言葉でした。
「子どもがいてもいなくても、あなたはあなただよ」

居場所を探していた自分に気がついた

「なぜ子どもが欲しいのか。仕事を辞め、肩書もやりがいも人間関係もなくなり、時間が止まったように感じた不妊治療。子どもを授かれば“○○ちゃんのお母さん”という私でいられる。私は“子どもが私の居場所を作ってくれる”と思い、それに執着していたのです。でも、子どもがいてもいなくても、ちゃんと自分の居場所はありました」

体験談を話したあと、参加者から「私も同じでした」と声をかけられたという堀田さん。
「私が一番伝えたかった“あなたはひとりじゃないよ”という思いが、ちゃんと伝わったのだと感じました。治療中、ひとりぼっちに感じてしまったとき、Fineという体験者の仲間がいることを思い出していただけたら、うれしいですね」(堀田さん)

堀田敬子さん

不妊治療を終えた堀田さんは、以前から興味があった心理学を学び、Fine認定ピア・カウンセラーや家族相談士などの資格を取得、関西でカウンセリングルーム「with」を主宰しています。また、大阪府堺市の不妊・不育個別相談の不妊カウンセラー、大阪府警犯罪被害者カウンセリングの委嘱カウンセラーなど、活動の幅が広がっています。

「男性は検査を先延ばしにしないで」。男性が自らの体験を伝える

不妊という現実に直面したとき、男性はどのように感じるのでしょう。特に、それが男性側に不妊の原因があった場合は? 今回、男性不妊で治療をし、子どもを授かった体験を河合克俊さんが話しました。話すことに抵抗はなかったのでしょうか。

「結婚して間もなく、妻が近所の産婦人科に通っていた際に、自分も精液検査をしたほうがよいのでは、と話したことはありました。そこまでしなくてもよいのでは、と妻に言われたのと、まさか自分に原因があるとは夢にも思わなかったので、その際は検査をすることはありませんでした。結局、自分に原因があることがわかるのに2年も費やしてしまいました。男性が検査を先延ばしにしていると女性の年齢が上がってしまい、その1、2年が妊娠・出産に影響することもあります。最初に夫婦いっしょに検査を受けることが、時間をロスしない、まわり道をしない妊活につながります。自分の反省もふくめて話すことで、男性の意識改革につながればと思い、今回お話ししました」

河合克俊さん

体験談を話したあと、おしゃべり会の会場に移動した河合さん。男性が集まったテーブルにつき、参加者が話しやすいようにサポートしていました。

当事者が抱えがちな思いに寄り添う

今回のイベントでは、男性不妊で子どもを授かった妻側の話、子どもは授からず夫婦ふたりの生活を送る人、不育症による二人目不妊など、さまざまな体験談が語られました。会場では、何度もうなずいたり、涙をぬぐったりする参加者も少なくありませんでした。

「6名の体験談は、私たちの予想以上に好評でした。こんな感情を抱いてしまうのは自分だけだと思って、当事者は孤立しがちです。Fineでは、本人の生の声で体験を伝えることを大事に活動してきました。聞いた方が自分と重ね合わせて“悩んでいるのは自分だけじゃない”と気がついたり、これからのヒントになればと思います。今回初めて、ネットでライブ配信しました。今後も、さまざまな形で体験談を伝えていきたいと思います」(NPO法人Fine理事長・松本亜樹子さん)

体験談を話したメンバー

イベントでは体験談、おしゃべり会と並行して、不妊スペシャリストへの相談も行われました。不妊症看護認定看護師と臨床エンブリオロジスト(胚培養士)による無料の個別相談で、開場前から受付に列ができ、すぐに相談枠が埋まるほど盛況でした。

現在、日本では5.5組に1組が不妊の検査や治療を受けているといわれます。不妊治療は進歩しても、当事者が抱える心の問題は変わらないのだと、あらためて感じました。
Fineでは、不妊体験者であるFine公認ピア・カウンセラーによる電話相談や面接カウンセリング、グループカウンセリング、また、各地でおしゃべり会などを開催し、不妊当事者の心のサポートにあたっています。

「Fine祭り2018」に集まったFineのメンバーと名誉会員・小安美和さん、不妊症看護認定看護師、臨床エンブリオロジストの皆さん
女性向け雑誌編集部、企画制作会社等を経て、フリーランスの編集者・ライター。広報誌、雑誌、書籍、ウェブサイトなどを担当。不妊体験者を支援するNPO法人Fineスタッフ。
妊活の教科書

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