妊活の教科書03

不妊治療は段階ではなく、ステップミックスで考える〈妊活の教科書03〉

 不妊治療というとタイミング法、人工授精、体外受精と、どんどん治療方法がステップアップしていくイメージがあります。一度、治療を始めたら後戻りできなそうだし、いまは仕事が忙しいから身動きできない…でも、本当にそれでいいの? 不妊治療に詳しい桜の芽クリニック(東京・高田馬場)の西(田中)弥生院長にお話を聞きました。

●『妊活』なんてまだ早いと思っているあなたへ06

体外受精は最終手段ではない

 ――不妊治療を始めると、多くの場合は排卵日に会わせて夫婦生活を行うタイミング法、採取した精子を子宮に直接注入する人工授精と治療が進み、それでも妊娠しなければ、採取した精子と採取した卵子をシャーレ上などで合わせる体外受精をすすめられる、というイメージですが…。

 不妊の原因が見つかれば、それを治療しながら並行してタイミング法や人工授精を行います。例えば、排卵しにくかったら排卵誘発剤を使って排卵を促しますし、精子の数が少ない、運動率がよくないといった場合は人工授精をすすめます。不妊の原因が見つからなければ通常はタイミング法を行いますが、人工授精のステップを踏まずに体外受精をする、という選択もありますよ。

 ――いきなり体外受精というのは、ハードルが高いように感じてしまいます。体外受精は「最後の手段」のイメージがありました。

 これまで不妊治療は、タイミング法で妊娠しなければ人工授精、それでも妊娠しなければ体外受精と、治療の段階を徐々に上げていく“ステップアップ”の考え方が主流でした。

 でも、患者さんの高年齢化で、時間的な余裕があまりない方もいます。卵管が通っていて精子も十分にある原因不明不妊で、タイミング法でも妊娠しない場合、人工授精は必ずしも効果的とはいえない。それを考えると、体外受精が第一選択肢でもいいと思うのです。もちろん、身体の状態や治療法を理解して、ご夫婦が納得した上で治療するのが前提です。

原因がなければ「ステップミックス」がおすすめ

 ――治療の順番にこだわらなくてもいいんですね。

 はい。原因不明ということは自然妊娠の可能性もありますから、体外受精の合間にタイミング法や人工授精をしてもいいのです。体外受精は、あくまでも治療の一つ。順番にこだわらず、時期や置かれた状況に合わせて最適な治療を選択する、という“ステップミックス”の考え方で治療をしては、と患者さんにも伝えています。

 ――体外受精は、早くトライするメリットが大きいのでしょうか。

 体外受精の妊娠率は、女性の年齢が若いほど高いんです。タイミング法や人工授精を続けて、いつの間にか1〜2年経っていた、ということもありえます。それまでに妊娠すればいいのですが、結局、体外受精に行き着いた場合、その1年がもったいなかったと思うかもしれません。もちろん、時間をかけて考えたい、ステップを踏んで納得した上で体外受精をしたい、という方もいらっしゃいます。

体外受精は通院回数が多い?

 ――特に体外受精では、仕事と治療の両立が難しいという声が多いようです。

 時間の悩みは大きいと思います。採卵日は、だいたいの目安はあるものの、卵胞(卵子が入った袋)の大きさやホルモン値を調べて直前に決まるので、仕事の予定が立てにくいですよね。採卵までの期間に排卵誘発剤の注射を自分で行うなど、なるべく通院の回数を減らす工夫が必要になってくるでしょう。

 ――通院回数が少なければ、「不妊退職」という事態も避けられそうです。

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 本人が望んでいるのなら、できるだけ仕事を続けて欲しいと思います。妊娠は不思議なもので、体外受精がうまくいかなくて治療を休んでいるときに妊娠することも、けっこうあるのです。いつ妊娠するかわからないし、もしかして妊娠しないかもしれない。そのときに“仕事を辞めて収入がなくなってしまった”というのはつらいですよね。

これから受診するなら助成金をチェック

 ――受診しようかどうか迷っている人に、メッセージをお願いします。

 気軽に産婦人科を訪ねて相談してください。パートナーがいて、子どもをもちたいと考えているなら、治療はさておき、検査だけでもしておくといいですよ。東京都の場合、不妊検査やタイミング法、人工授精などに5万円まで助成する制度があります。まずは自分が住む自治体の助成を利用して検査をしてみて、その間に2人でこれからのことを考えるといいと思います。

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女性向け雑誌編集部、企画制作会社等を経て、フリーランスの編集者・ライター。広報誌、雑誌、書籍、ウェブサイトなどを担当。不妊体験者を支援するNPO法人Fineスタッフ。
フォトグラファー。岡山県出身。東京工芸大学工学部写真工学科卒業後スタジオエビス入社、稲越功一氏に師事。2003年フリーランスに。 ライフワークとして毎日写真を撮り続ける。
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