妊活なんてまだ早いと思っているあなたへ―企業の妊活支援

不妊退職 03 企業の妊活支援って、どんなものがあるの?

「一生働き続けたい」と願う女性たちが、妊活を機に転職や退職の道を選んでいる--前回は、妊活で仕事を辞めた女性の本音をお伝えしました。今回は、「不妊退職」を防ぐための企業の取り組みを紹介します。

●不妊退職 03 企業の「妊活支援」ってどんなものがあるの?
【『妊活』なんてまだ早いと思っているあなたへ】

前回はこちら(不妊退職のリアル)

 仕事と不妊治療の両立が難しくなって、やむなく「不妊退職」する人は少なくありません。「女性活躍」「一億総活躍」が叫ばれるなか、働く意欲のある人が退職したり、実力を発揮できないのは、企業や社会にとってもアンハッピーなこと。企業では、どんな取り組みが行われているのでしょうか。

 不妊治療に通い始めると、
・治療による身体的な負担
・治療費等の経済的な負担
・「いつ妊娠するのだろう、子どもを持てるのだろうか」といった精神的な負担
・通院にかかる時間的な負担
など、様々な負担を抱えます。生理周期によって治療が進むために急に受診日が決まるなど、働きながら治療をする人にとっては時間のやりくりが大きなストレスになってきます。そのために業務を他の人に代わってもらう心苦しさ、キャリアを足踏みするジレンマなど、精神的なつらさもさらに増えるのです。

 仕事と不妊治療の両立を体験・考慮した人を対象にしたNPO法人Fineの調査では「職場に不妊治療のサポート制度がある」と回答した人は5.8%と、まだまだ少数派。とはいえ、会社に制度がある人は4割以上が「満足」と答えています。(※1)

一人100万円まで治療費を補助してくれる企業も

 企業では、どのようなサポートがあるのでしょう?
 たとえば、パナソニック(株)では、治療のために通算365日休業が可能なチャイルドプラン休業制度を2006年に導入しています。また、キヤノン(株)では、不妊治療にかかった費用の50%を、社員一人100万円まで補助する制度を2007年から設けています。

 急に翌日の通院が決まって「不妊治療で休みます」とは、なかなか言いにくいもの。そもそも治療をしていることを人に知られたくない人が多く、当事者にとってはこうしたこともストレスなのです。
 そんな声をくみ上げたような制度を設けているのが、IT大手の(株)サイバーエージェント。「妊活休暇」や「妊活コンシェル」などを掲げた女性社員向けの制度「macalon(マカロン)パッケージ」を2014年に発表しました。人事本部労務グループの田村有樹子さんにお話を聞きました。 

“妊活”支援ではなく女性支援、誰もが使える仕組みに

「macalonパッケージは女性の活躍を支援する制度で、ママ(ma)がサイバーエージェント(ca)で長く(long)働く、という意味が込められています。妊活休暇と妊活コンシェルという2つの妊活支援のほか、子どもの急な発病などの際に在宅勤務できるキッズ在宅制度や、子どもの学校行事などの際に取得できるキッズデイ休暇などをパッケージにしています。

 まず、女性の休暇は通常の有給休暇を含めてすべて『エフ休』という名称にし、生理休暇や、妊活休暇の取得がしやすいようにしました。エフ休のFは『Female(女性)』の『F』なんです。
 そして、『妊活休暇』は、不妊治療の通院のために月に1回まで取得できる有給休暇です。急な通院に対応できるように当日でも取得でき、現在、月に12〜15件ほど活用されています」

 不妊治療中の女性社員は、なかなか周囲にそのことを伝えづらいですが、その際、「エフ休です」と伝えれば、休む理由は問われません。それは生理休暇も同様です。

「当社では、上司が20代男性というケースも多く、生理痛と言いにくいから『腹痛で休みます』と伝えると、心配して『どうしたの? 大丈夫?』と聞かれ、気まずい思いをすることがありました。“エフ休”と伝えればそれ以上は尋ねませんから、お互い気がラクになったという効果もありました」(田村さん)

妊活コンシェルは「いつかは…」について考える機会にも

 もう一つの妊活支援である「妊活コンシェル」は、保健師による個別カウンセリングを月1回30分、受けられるシステム。
「社内でヒアリングをしたところ、いつかは子どもを…と思っているものの、『妊活について相談したくても、どこに相談すればいいかわからない』という声が多かったのです。妊活コンシェルは男性社員も利用でき、男性一人でも、社外のパートナーと一緒でも相談できます」
 制度開始直後は希望者が多く、1カ月3枠の予定を倍に増設したそう。妊活の有無は問わず、「将来のために何をしておくべき? といった相談や、専門機関にかかる前の相談として活用するケースが多いようです」と田村さん。

 仕事が充実したり、職務に責任を感じると、妊娠・出産について考えることすら先送りにしがちです。「気がついたら妊娠・出産の時期を逃してしまった」「年齢的な限界について知らなかった」とならないように、一度立ち止まって考えるのはとても大事なこと。気軽に相談できる場は、そうしたことにも役立ちそうです。

平均年齢31歳、将来のために今やっておくことは?

 サイバーエージェントの社員の平均年齢は約31歳と、まさにtelling.世代。女性社員の比率は約3割で、現在ママ社員は170人ほど。第二子、第三子の出産で休業中の人も増えているそうです。そんな中で、妊活支援をすることになったのは?
「“妊活”というとインパクトがある分、制度があっても気軽には取りにくいと思います。また、産まないと考えている人もいるでしょう。女性だったら誰でも使える制度を意識しました」

 macalonパッケージをスタートして間もなく、田村さんに「どうして妊活? 私は妊活よりも婚活なんです」と話した女性がいたそうです。ところが、

 「その後、彼女が制度を使ったと知りました。今はまだリアルでなくても、自分がその立場になったときに『あってよかった』と思える制度が望ましいですよね。会社はキャリアだけではなく、プライベートな面も応援している、というメッセージを伝えることも重要と考えています」

 優秀な社員に長く活躍して欲しい——。そのために制度もパワーアップ。認可外の保育園と認可保育園との保育費の差額を補助するなど、2016年にはmacalonパッケージに3つの制度が追加されました。そうした支援のバックアップがあってか、同社の産後の復職率は90%以上といいます。

意思のある人にずっと働き続けてほしいという企業の思い

 「長期間休んで妊活に集中したい社員には、個別相談に対応します。周りに休む理由を何と話すか、人事から伝えるか、もしも妊娠しなかったときはどうするかなど、本人がどうしたいのかを確認していきます。macalonパッケージを設けたことで、こうした相談ができることや、社内窓口が明確になったのもよかった点です」

 休暇や制度のネーミングひとつでも、企業の思いが伝わり、当事者の心の負担が軽くなることもあります。仕事を続けたい意志のある人をサポートする企業の姿勢こそが、何よりの支援といえそうです。それは妊活だけでなく、育児や介護、病気治療などにもいえること。そして女性が妊活できる期間は、長い人生ではほんのわずかなのです。

(次回に続く)

女性向け雑誌編集部、企画制作会社等を経て、フリーランスの編集者・ライター。広報誌、雑誌、書籍、ウェブサイトなどを担当。不妊体験者を支援するNPO法人Fineスタッフ。
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