仕事と不妊治療の両立に悩み…辞めたくない私が、会社を辞めた理由
●不妊退職 02 辞めたくない私が、会社を辞めた理由
「社員である今は、不妊治療はやめて」
前回紹介した、不妊当事者を支援するNPO法人Fineが2017年に実施した「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」では、妊活をしている女性が働き方を変えざるをえなかった理由として、「通院回数が多い」「診察・通院に時間がかかる」などの通院の負担がいちばんの原因であり、同時に、「精神的に負担が大きい」も大きな割合を占めていることがわかりました。
そして、見逃せないのが、自分ではどうしようもない「職場」でのストレス。「職場で不妊治療に対する協力やサポートを得づらい」、「職場で不妊治療に対する理解を得づらい」などの声。それぞれ、経験者の4割が理由に挙げています。
回答者からは、
「上司には不妊治療をすることと、休みが増えてしまうことを告げてあったのですが、おそらく欠勤や遅刻、早退が上司の想像を超えて頻繁だったのだと思います。ある日、『妊活か仕事か、どちらかを選びなさい』と言われました」
との声も寄せられました。職場で「社員である今は、不妊治療はやめてくれ」「不妊治療をするなら契約社員になったら?」などと言われた人もいたといいます。
「プレ・マタニティハラスメント」も起こりうる
こうした「プレ・マタニティハラスメント」ともいえる発言の背景には、職場で不妊治療についての情報が不足していることがあると考えられます。
そのため、治療中であることを職場に告げずに、仕事との両立に苦しむ人も。今回のアンケートでも、「職場で不妊治療をしていることを話しづらい」と感じる人は81.3%にのぼりました。その理由として6割以上が「不妊であることを伝えたくなかったから」、半数以上が「不妊に対する理解が少なく、話してもわかってもらえなさそうだから」「周囲に心配や迷惑をかけたくなかったから」などと答えています。
働き方を変えた人に、その時の気持ちを聞いたところ、「治療のために毎月何度も何度も職場の人に迷惑をかけるのが非常に申し訳なく感じた」「悔しさと職場への申し訳なさ。いつも謝りながら仕事をしていた」などの声が並びました。
多くの人は現状の仕事を続け、治療との両立をギリギリまで頑張ったものの、「仕事か治療か」を考えた末に年齢的な限界がある不妊治療を選び、やむなく退職や働き方を変えたことがうかがえます。
一方、企業側は? 妊活を支援する様々な制度を用意する企業もあります。
職場の制度と当事者が求めるサポートにギャップが
休暇制度、就業時間の変更、費用の補助など、「職場に不妊治療のサポート制度がある」と回答した人は、この調査では約6%にとどまっています。サポート制度がある会社で働く女性の満足度は、4割を超えていますが……。
その一方で、制度があっても「使わない(使おうと思わない)」と答えた人も4割以上にのぼりました。「不妊治療していることを知られたくない」のほか、制度の使いにくさや職場の理解を得られない点などがその理由。
当事者が求めるサポートと実情が合っていないのですね。ただ、こうした女性たちの本音が明らかになったこと自体がごく最近。企業の理解が深まり、制度を求める人・使う人が増えれば、サポート内容も改善していくでしょう。ただ、今悩んでいる人は「待ったなし」の状態です。
職場の支援があれば、治療のしかたも変わる
妊娠・出産には年齢的な限界があり、女性は加齢とともに妊娠しにくくなります。「今は仕事が忙しい時期だから」と先のばしにすると、妊活の機会を逸してしまう可能性もある。また、治療をしても妊娠・出産できるとは限らず、何年も治療を続ける人は少なくないことも、心に留めておいてくださいね。
仕事と治療の両立がしやすくなれば、先のばしをせず早めに検査や治療を始めることができますし、短期間、集中的に治療するなど、治療への取り組み方が変わることも考えられます。それが妊娠・出産に結びつくかもしれないし、「納得して治療できたから、もう治療を終えよう」と次の道に進むきっかけとなる可能性もあります。
まずは、不妊治療について、職場や社会が正しく理解すること、私たち女性も早めに知っておくことが大切ではないでしょうか。「いつも謝りながら仕事をする」環境がなくなるだけでも、精神的な負担は軽くなるのですから。
(次回に続く)
*記事中のデータとグラフは、NPO法人Fine「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part2」より。http://j-fine.jp
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