またダメだったらどうしよう?妻が大好きだけど、妊活が怖い夫
●妊活と不妊治療のリアル 03
不妊治療の末に妊娠、でも…
telling,編集部(以下編集部): M子さんは、「避妊をやめたら自然に妊娠すると思っていた」のに妊娠にいたらず、不妊治療を続けたんですね。「変な同情をされたくない」と、会社の同僚にも言わずに病院に通って。
M子さん(以下M子):そうなんです。しょうがないんですけど、負担が大きいし成果が出ないし、理不尽だなと思っていました。結局、ファーストステップの「タイミング法」ではできなくて、「次行ってみます?」と言われて人工授精に移行。こちらの気持ちとは裏腹に、淡々と着々と、進んでいく。何カ月ダメだったら次の段階に、とか、決まってるみたいなんです。人工授精になってから4カ月ぐらい経って、ついに妊娠しました。
あんなに不妊治療頑張って、毎月まじめに通ったのに妊娠がわかった時、一番に思ったことって何だったと思います?
A男さん(以下A男):なんだろう?
M子:「困ったな」。「今年ハワイ行けないじゃん」。
A男:えっ! ハワイ!?(笑)
M子:そうそう、奥さまの妊娠がわかったときのA男さんと一緒でした、実は。嬉しいとかより、戸惑い、困惑のほうが大きかったです。その時初めて、「私、子どもほしくなかったんじゃない?」 って思っちゃったんです。子どもへの執着が薄いというか。それでもやっぱり、自分の中に命が育っていくというのは、特別な感覚でした。どこで産めばいいんだろうとか、無痛分娩のこととか調べ始めたりして、心がそっちに向かっていったんです。
でも結局8週目かな? 「今回はダメだね」って言われて。呆然としました。えっ、妊娠するの自体もなかなかうまくいかなかったのに、今度はお腹の中でちゃんと育たないの? こみ上げてきたのは悲しみではなくて、怒りでした。理不尽な現実への怒り。
編集部:どこにもやり場のない気持ちですね……。
M子:そうなんですよ。夫に言ったら、すぐ帰ってきてくれて。何をするわけでもないけど一緒に過ごしました。
A男:イノセントな僕とはえらい違い……。
M子:自分で言うのもなんだけど、すごく良い夫だと思います。流産の手術が決まった日も、仕事がすごく忙しいのに休みをとって、病院まで来てくれたりしました。
手術の後は、喪失感がすごかったです。「なんで私だけ」って何度も思いました。「なんで私だけ子どもできないの」「なんで私だけ流産するんだろう」って。調べたら、初期に流産する確率は15%程度あるそうです。でも、だったら85%の人は妊娠継続できるじゃないですか。そう考えたらやっぱり割り切れなかった。その正直な気持ちを何人かの友達に打ち明けたら「実は自分も1回流産したことがある」とか、「知り合いが経験してた」ってかなり言われて、こんなに多くの人が、って驚きました。
A男:流産のことって「タブー」みたいになってて、可視化されていない気がします。結構な確率であるはずなのに、みんな言わない。妻もどう消化したらいいかわからなかったらしくて、初期流産した人のブログをずっと読んでました。
M子:すごいわかる。お医者さんには、「3回流産しないと、『不育症』って診断はできないんですよ」とか言われて。
A男:3回も流産を経験したら、心が折れるよ!って男の僕ですら本気で思います。
M子:うん。本当にそう。もっと「つらい」「悲しい」って発信してもいいと思うんですよね。同じ境遇の人がいるはずだけれど、出てこなくて、なんかタブーになっちゃってる。それで孤独感が強まる気がします。
編集部:どうやって乗り越えたんですか。
M子:結局私は、「もうこんなめんどくさいことしたくない」って思っちゃって、手術後に体調が戻ったという診察を受けたのを最後に、不妊治療の病院に行くのをやめました。本当に子どもがほしいって思ってたら病院にまた通うんだろうけど、私はそこまで欲しくないってことなのかなあ、って。でも今35歳。今年36歳になるんですけど、リミットが近づいてきてるなあ、本当にこのままでいいのかな、って思う時はあります。40歳くらいまでは妊娠する人もいるから、自然にできちゃえばいいのに、って。でもできない。だから、変なモヤモヤが続いています。
A男:難しいですよね。僕は妻のこと大好きなんですけど、最近セックスするのが怖いんです。この先にまた流産があって、妻が悲しい思いをしちゃうんじゃないか、って思っちゃって……。
M子:難しい問題ですね。いつになっても悩みが尽きないなあ。そのつど少しずつ折り合いをつけていくしかないんでしょうけどね。
編集部:そうですね。このテーマは今後も、telling,では引き続き考えていきたいと思います。今日は本当にありがとうございました。
- ●妊活と不妊治療のリアル
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