「結婚制度のいいところがわからない」結婚の意味を見いだせないA子の場合
婚活アプリの感想を聞こうとしていたけれど…
「その企画ってどうなのかなあ?」
A子の言葉に、思わず姿勢を正した。その日私は下北沢のビストロで、彼女と、共通の友人と飲んでいた。婚活の記事を書くために、取材を兼ねて飲もうとみんなを誘ったのだ。書く記事の構想はあらかじめ考えてあった。未婚の友人に婚活アプリの使い方を教えてもらいつつ、使った感想をきいて、記事にまとめる。「まだアプリ使ってないの?」という誘いのフレーズもどこかに入れる。1500字程度の、読みやすい感じで。
しかしA子と話すうちに、そんな記事じゃだめだ、と思った。彼女は言う。
「婚活をナナメからっていうコンセプトはいいと思うんだよね。でも結論でアプリをおすすめする、っていうのはちょっと安易じゃない?」
私は素直にうなずいていた。そうだよね。婚活って、結婚って、そんな単純なものじゃない。
「結婚のいいところって何? 子どもを持つこと以外に」
そもそも、A子は結婚という制度自体に疑問を持っている。
彼女は国立大学を出た後、大手総合商社の総合職でバリバリ働くいわゆるキャリアウーマンだ。現在30歳。20代で海外赴任も経験している。私から見た彼女は、明晰な頭脳と強い精神力を持ち合わせ、笑顔がとてもかわいい、とにかく魅力的な人だ。
そんなA子はかつて、自分もいつかは結婚するんだろうなあ、とぼんやりとした将来を思い描いていたらしい。だから結婚していないという現実は当初の予想とは違っているのだが、今の彼女は満ち足りていて、結婚などしなくてもいいと考えている。
「結婚という制度のいいところって何? 子どもを持つこと以外で教えてほしいんだけど」
と彼女に言われた。そういえば、私はなんで結婚したんだっけ…? 考えることもなく自然な流れだった結婚、でも結婚に対する考え方はほんとうに人それぞれだ。このことに真摯に向き合わなければ、そもそも婚活についての記事なんか書けるわけがないのだった。
しかしそんなA子も婚活を経験しているのであった。彼女が婚活アプリに登録したのは1年半ほど前。周囲のやや強引な勧めによるものだった。
「A子、このままじゃやばいよ!」
職場の飲み会の席で、相手がいないことを周囲の男性から心配された。彼女には結婚したいという思いがないけれど、そんな彼女はまわりから「相手がいなくてかわいそう」という同情の目で見られる。それがA子にとってすごくしんどいのだと言う。彼女は自ら望んだわけではないが、婚活を始めた。
プロフィールから「年収」を消すと、男性からのメッセージが増えた
ところがA子の感じるしんどさは続いた。合コンに行って自分の仕事を明かすと、男性たちが引いてしまう。彼女の高いスペックはむしろ、出会いの足かせになるのだ。婚活アプリでも同様だった。自分のプロフィールから「年収」の項目を削除した途端、男性からのメッセージが増えた。高い年収が男性をたじろがせていたのだ。仕事を頑張れば頑張るほど、モテなくなる。努力家のA子にとってこの不条理は受け入れがたいものに違いない。
そうはいっても彼女にはもともと行動力がある。ものは試しと、しんどいながらも婚活パーティにも参加してみた。しかし、ひとりの相手と10分も話せないせわしなさに、相手のことは何もわからないと感じた。しかも、本気でないから相手を選ぶ基準も決められない。
結局のところ、彼女にとっては結婚が必要のないもののように感じられるのだ。海外の人たちの結婚観はもっと気楽なものなんじゃないかなあと彼女は付け加えた。
仮に、との前提で、そんな彼女に聞いてみた。もし結婚するとしたらどんな生活を望む?
「私の精神が乱されることなく安定すること。」
即答であった。かっこいい。さすがA子である…。自分の生活を上手にマネジメントできる彼女だが、男性との過去の恋愛では心を乱されて疲れることが多かった。だから日々がそうなるのはとても耐えられないのだという。
とにかく婚活という言葉を軽々しく扱ってはならない。A子の話を聞き、私は肝に銘じた。
しかしいったい婚活とは、結婚とは何なのか。大きな問いの前でそう簡単に答えが出ることもなく、わかったのは、この店のワインはどれも美味しいということだけであった。
続きの記事<婚活は就活と同じ?条件ではなく、もっと自然に出会いたいB子の場合【婚活05】>はこちら
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