ブサイクでケチでもいい。結婚相手には賢いDNAを求める北京の女子
北京に住むAちゃん(仮名)とは、中国語の先生と生徒として知り合った。それは、対面ではなく、音声チャットを使ったオンライン授業。話しているうちに、Aちゃんの賢くて優しい人柄に惹かれて、実際に会ってみたいと思うようになった。そんな頭のいいAちゃんとの会話と、“賢い選択”の話。
知的な北京の女の子が、まさかの爆弾発言
「あなたに会ってみたいんだけど」
何度か授業を受けた後、私はAちゃんにこんな“どストレート”な告白をしてみた。
「じゃ、中国に来るとき、必ず連絡くださいね。必ずね」
こう快く受けてくれたAちゃんは、私が北京に行くと食事の相手になってくれた。会うのは初めてだったけど、お互いのことはたくさん話していたから、距離感はなかった。そしてほどなく、授業ではしないような深い話に発展した。
実際に会ったAちゃんのイメージは想像どおりだった。ソフトな口調、しかも控えめな音量で授業をするAちゃんは、優しくさとすような言い回しから、頭の良さとあたたかい人柄をにじませていた。ちょっとぽっちゃりめでほんわかした雰囲気は、思い描いていたビジュアルと見事にマッチしていてホッとした。でも、ある会話の途中で、
「私、性欲が強いから」
と、サラッと言い放つのを私は聞き逃さなかった。中国では地味めな女の子でも、こんなにストレートな言い方をするのか!? 大人である自分が一瞬とまどったのが恥ずかしく思えるほど、一切の躊躇(ちゅうちょ)もなくこう言い放った。
もしかしたら私に曖昧な言い方をしても、中国語を理解できないと思ったんだろうか。実際、“オブラートに包んだシモネタ”を理解できる語学力は、まだないけれど…。
一般的なセオリーに当てはまらないのは、むしろ勝算
その“ある会話”というのは、ごくごく普通の男女の関係性についてだった。Aちゃんは、当時付き合い始めたばかりだった彼氏について話してくれた。Aちゃんは大卒の26歳。中国ではほとんどの女性が結婚を意識する年齢だ。最初は何の抵抗もなく聞いていたのだけど、思いもしない展開が待っていた。
「彼とはネットで出会ったの。まあ、これは普通よね。それでね、会ってみたらものすごくブサイクだったの。その上ものすごくケチで。びっくりしちゃいました(笑)」
ブサイクでケチ…。普通なら一発でやめておくべきだと判断すると思うが、Aちゃんの一番優先すべき点はここではなかった。
「彼はものすごく頭がいいの。北京の有名大学を卒業しているのよ。いえ、私が言いたいのは学歴そのものじゃなくて、とにかく彼の頭がとてもいいということ」
聞けば、彼は中国大陸の、かなり内陸の方で育ったらしい。北京から丸2日かけないとたどり着けないというその山奥の村では、みな、自給自足の暮らしをしていて、外部との交流が一切ないのだとか。彼の両親は村の方言しか話せない。もしも彼の両親と話すことになったら、彼に通訳を頼まなければならない。さすが広大な中国大陸。北京から見たらそこはもう、外国も同然だ。
「そんな閉ざされた場所で育った人が、北京の有名理系大学を卒業して、しかも今、有名IT企業で働いてるのよ。情報が遮断されているのに、どうやって自分がいる環境が普通ではないことを知ったんだと思う? 地頭がよくないと、村から出ることすら考えないと思うの。単にガリ勉だけじゃ無理でしょう」
ブサイクでも、いざとなったら整形すればいい。
Aちゃんの言うことは、ものすごく説得力があったある程度の情報をキャッチできる環境にいる人が多いから、そこから自分にとって必要なものを取捨選択し、キッカケをつかみ、経験を積む。でも、外で何が起こっているかも満足に知ることができないような状況だったらどうだろう。そういう環境下で何かを求める場合は、自ら重い扉を開ける勇気がないとできないのだと、そのとき学んだ。
一度会っただけで彼のすごさを見極められる20代のAちゃんも立派だし、「ブサイクが何よ、ケチが何よ」と、自分の中でブレない判断基準を持っているところは偉いと思った。
「私の中で顔はそんなに重要じゃないの。だっていざとなったら整形だってできるじゃない。ケチなのは単なる価値観の違いだから、一緒にいればどうにかなる問題でしょ。でも、頭の良さだけは何をどうやったって変えられないの。優秀なDNA、私が欲しいのはコレ。いいのいいの、私、性欲が強いから」
Aちゃんはもう、未来の我が子のことを想像していた。
自分にない価値観を、外国語で聞くことは本当に難しい。Aちゃんのビジュアルとのギャップもあって、最後のオチを理解するのに実はちょっと時間がかかったけれど、とても頭のいいAちゃんらしい考え方だな、と思った。そして、ますますそんなAちゃんのファンになってしまった。
Aちゃんはその後1年ほど彼と付き合って、本当に結婚した。早く後日談を聞きたい。