矢沢心「不妊治療で大事なのはパートナーと心が通じていること」
格闘家の魔裟斗さんとのおしどり夫婦として知られる矢沢心さんは、現在、5歳と3歳になる2人の女の子の母親。夫と共著で不妊治療の経験をつづった『夫婦で歩んだ不妊治療 あきらめなかった4年間』(日経BP社)を今年2月に出版しました。
排卵がされにくくなる「多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう)症候群」だった矢沢さんは、治療を始めてから1人目のお子さんを授かるまでの4年間で7度の体外受精を経験。その過程では、妊娠反応は出ても赤ちゃんが育っていない「枯死卵(こしらん)」と診断されたり、妊娠3カ月目での流産を経験したりと、様々な困難を乗り越えてきました。以下は、矢沢さんとの一問一答です。
自分に合う病院を探して、2回転院
――telling,編集部の取材では、不妊治療を経験した女性たちは「学校の勉強と違って、努力した分の成果が約束されていないことがつらい」「どこまで頑張ったらいいかわからない」といった悩みを持っていました。矢沢さんは「もう治療をやめたい」と思った瞬間はなかったのですか。
「私は主人との間に赤ちゃんがほしいと強く思っていたので『産むまで頑張ろう』というつもりでした。だから、途中で治療をやめたいと思ったことは一度もありません。私の場合は不妊治療を始めてから食事や睡眠などの生活習慣も改めましたし、ストレスをためないように気をつけるようにもなって、体の状態が良くなっていくのが自分でもわかりました。病院も、自分に合うところを求めて途中で2回転院しました。努力しているうちに治療の結果も少しずつですが良くなっていったので、ステップアップしている感覚がありました。受け身ではなく、治療をしながら『自分で前に進めている』と思えたから、つらいことがあっても頑張れたのだと思います」
――流産などのつらい経験もされていますが、どのように乗り越えてきたのでしょうか。
何か、ターニングポイントはありましたか。
流産後、日記をつけるのを辞めた理由
「流産を経験した後で、それまでつけていた日記をやめました。ストレスの発散になると思って毎日、寝る前に治療のことなどについて書いていたんですが、だんだんそれが、『毎日やらなければいけない』という義務のようになっていました。うまくいかなかった経験を思い出して気分が落ち込んだり、日記を書かないと眠れなくて、就寝時間が遅くなったりすることもあった。日記をやめてみたら、そうした重みから解放されて、『こんなにすっきり眠れるのか』と驚いたんです。過ぎたことをあれこれ振り返るのはやめて、『今日も病院にいけた』とか、自分ができたことについて『頑張った』と、自分をほめてあげるようにしたら、気持ちがずっと楽になりました」
――あまり頑張りすぎるとかえってストレスにつながり、マイナスになってしまうんですね。病院選びは、どんなことに気をつけたらいいのでしょうか。
「私が最終的に選んだ病院には、主人が先生を紹介してくれたことがきっかけでめぐり合いました。過去の実績なども調べて、治療にしっかりとした結果がともなっていることもわかったので、ここにかけてみよう、という気持ちになったんです。それまでは体質的に麻酔が合わないこともあってつらかったのですが、新しい病院では採卵の時に麻酔を使わないため、治療がずっと楽になりました。もちろん、病院の方針と自分の考え方が合うかどうかも大切です。これから病院を選ぶなら、診察に入る前に夫婦で足を運んで先生の説明を聞いてみて、納得してから決めることをお勧めします」
無理になぐさめてくれなくていい
――ところで、telling,編集部が取材した男性の声としては、不妊治療をなかなか「自分ごと」として受け止められないという悩みがありました。たとえば、流産した妻にどんな言葉をかけていいのかわからず、相手を傷つけてしまう。こういうことは、どうすれば防げるのでしょう。
「私が流産したと伝えた時は、主人はカフェに連れていってくれて、2人でお茶を飲みました。主人も私も言葉が出てこなくてほとんど無言でしたが、ただ一緒に隣にいてくれるだけで十分でした。そんな状態の時に、色んな言葉をかけられても耳に入ってこなかったでしょうし、一人でいるのもつらい。無理になぐさめる言葉をかけようとするからおかしくなってしまうわけで、それまでの不妊治療の過程でパートナーときちんと向き合っていれば、適切な言葉も出てくるでしょうし、あえて言葉をかけなくても伝わると思うんです。そうやって、2人が同じ方向を向いて心と心が通じていることが、女性の側の心の安定にとってもすごく大事だと思います」
(後編に続く)
※後編は6月12日に公開予定です。お楽しみに。
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