「産む」を支える「ファミリープランニング外来」って？
●家族のかたち
――ファミリープランニング外来とはどんなものなのでしょうか
「ファミリー」と言えば、昔は両親や祖父母がいて、自分も結婚して妊娠、出産するのが一般的でした。最近では同性同士のカップルや、籍を入れずに一緒に暮らすなど、家族のかたちも多様化しています。
妊娠も自分で産むだけでなく、生まれた赤ちゃんをいただく「妊娠」、つまり養子縁組もある。妊娠したものの、事情があって育てられないという人もいる。ライフスタイルが多様化するなか、女性たちには後悔しない人生を選んでほしい。産婦人科医として培った経験の引き出しからいろいろな選択肢を提供しようと始めました。
今は産むことをあきらめなくていい時代
――なぜ、必要だと？
産科医になった1970年代当時、予期せぬ妊娠をすると、自分で育てられなければ中絶するしかありませんでした。妊娠何カ月であろうと中絶して、死産として届け出るケースもあったぐらいです。なんとかしてあげたい人はたくさんいましたが、今のような養子縁組の制度もなく、どうすることもできなかった。
いまは制度も整い、相談先もある。産むことをあきらめなくていい時代です。
女性たちには、どんな選択肢であれ、選んだら後悔しないことが大事だと伝えます。
産むと決めたら、ちゃんと産む。育てられないなら、養子に出す。中絶という選択肢もあります。ただ、じゅうぶん悩み抜いて選んだ結果には後悔はしないでほしいんです。
ここに来れば、専門家たちが様々な視点で相談にのります。心を決めるために十分な時間をあげますから、思う存分悩んで決めてほしいと思います。
――予期せぬ妊娠をした人って、すごく後ろめたい気持ちで、下を向いて病院の門をくぐるイメージがあります。
これまではね。だけど今の時代、妊娠したのは身体が健康な証拠です。私は予期せぬ妊娠をした人にも「おめでとう」と言いますよ。女性は身体の機能を最大限に使って妊娠、出産するんです。数日の入院でも、産後はおいしいものを食べて、ぺちゃんこになったおなかを見て、安心して元の生活に戻ってもらう。それでいいじゃないですか。
妊娠、出産は「本能」、育てるのは「エンドレスな学習」
――これまでは、予期せぬ妊娠で駆け込む先と、養子縁組の窓口は連携していませんでした。ここではつながるんですね。
私たちは養子縁組団体と協働もしています。養子を迎えたい方とうまくマッチングがかなったら、養親さんにはここで親になるための研修も受けてもらいます。
自分で産み育てても、子育ては苦労するもの。まして自分が産んでいないと、すごく悩んでしまう人もいます。だからここでよく学んでいただく。
妊娠、出産は本能でできるけど、育てるのは「エンドレスな学習」です。子どもは産んで終わりじゃなくて、そこからが山あり谷あり。当然、失敗もある。教えてくれる人がそばにいれば軌道修正できます。
子どもができなくても、文化を次の世代に託すことはできる
――不妊治療をしている方は、初めから血が繋がらない子どもをわが子として育てる養子縁組をイメージしているのでしょうか？
それはあまりないと思います。不妊治療をしている方と養子を迎えたい方では、向いている方向が違うので、それを無理やりねじ曲げさせることはできません。
でも、子どもができないことで離婚してしまうのも、どうかなと思って。せっかくこの広い世界で出会ったふたりです。子どもを産むためだけの結婚、夫婦ではないでしょう？
人間はほかの動物と違い、「文化」があります。養子を迎え、自分たちが培ってきた文化を次の世代に託すのも、私はありだと思います。
不妊治療をある程度やった方が、いったんレールを外れ、もう一度自然体で戻って来るときがある。そのとき、養子縁組を望む方のために道があればいい。それぞれに一番いい道に、自然と決まっていけばいいと思います。
- 松峯寿美さん
- 東京女子医科大学大学院修了。名誉院長を務める「東峯婦人クリニック」は1980年開業。不妊治療や手厚い産後ケアで知られる。日本産前産後ケア・子育て支援学会長。
