「子どもを産まない」ことへのそれぞれの悩み、それぞれの選択
●産まない人生を考える 03
産まない人生をテーマにした文章を公開したところ、思わぬ反響があって私自身も驚いている。もちろん、「何言っちゃってんの、この人!」「そんなの勝手だ」みたいな批判を受けることもあるけれど、賛同してくれる人がいたり、勇気づけられたというコメントを頂戴することもあった。改めてこの話題をオープンにしてよかったと思った。
子どもがいない人は、みな同じ理由ではない
繰り返しになるけれど、私は子どもがいる方の人生を否定するつもりは全く無い。私自身にも甥や姪がいて、彼らに会う度に例えようもない愛おしさを抱く。そして“目に入れても痛くない”とはこのことか、と身をもって感じる。子どもがいる人生はとても素晴らしいものだと想像するし、味わったことのない幸せがいくつもあると思う。ただ、私は自分の意志でそれを選ばなかった。それだけのことだ。
自分の意志で選ばなかった、というのは、決定権は自分にあったわけだから、とても幸せなことだ。だが、それで自分を正当化したことが、私を少々図々しくさせた。不妊で悩んでいた友人にこんなことを言ってしまったのである。
「子どもがいない人生も、十分素敵だと思うよ。きっと、幸せな生活を送れる気がするよ」
辛そうな友人を見ていられなくなって、なんとか勇気づけようと思ったのが本意だ。でも私の考え方は根本的に間違っていた。それは、彼女の言葉で気付かされた。
「それは、自分で産まない選択をした人が言えること。あなたと私は全く違う。私はどうしても子どもがほしいの!諦めろ、みたいな言い方しないで」
このとき、自分の失態に気づいた。子どもがいない人はみんな〝同志〟だと思っていたが、全員が本人の意志でそうしようと思ったわけではないのだ。欲しくても授からない人、事情があって産めない人、そこには数え切れないくらいの理由がある。
この出来事はもう随分前のことだが、それ以降私は、ますますこの問題に関してデリケートに扱わなければ、と思うようになった。
子どもができないことを、親にも、夫にも申し訳なく思った
不妊問題については私が取り上げるべきではないと思うのでこれ以上深掘りしないが、このことが原因で子どもがいない人生を選んだ方に、話を聞くことができた。
アメリカ人の旦那さんとダラスに暮らすミツコさん(仮名)は、体外受精と顕微授精に計3回挑戦したものの出産にはいたらず、その結果子どもがいない人生を選んだ。
結婚したのは20代後半。30代前半はお互いにやりたい仕事を優先し、子どもは“タイミング次第で”と考える程度だった。30代後半に差し掛かり、子どもがいないのは親にも申し訳ないと思うようになった。しかし、いよいよ真剣に子づくりを、と考えたとき、それがとても困難なことだと分かった。そして40代前半になり、夫婦ふたりで生きていくことを決めた。
「決心するときは、正直言って辛かった。夫にも申し訳ない、と思ったわ。でもね、その反面覚悟を決めたら楽になったっていうか…」
ミツコさんは、そんな複雑な心のうちを語ってくれた。治療中は知らず知らずのうちにプレッシャーが重くのしかかり、心も敏感になっていた。
旦那さんはずっと、心身ともにミツコさんに寄り添ってくれていたのだという。
「ふたりで生きていこうって決めたとき、夫がこのインフィニティリングをくれたんです。たとえ子どもがいなくても、僕たちの愛は永遠だよって。とにかく夫が、子どもを産まなかった自分を少しも責めたり、否定しなかったことが嬉しかった」
実はこの日、ミツコさんのインタビューに同席してくれていた旦那さんは、「当たり前だよ」と言わんばかりに終始やさしく頷いていた。
これ以上詮索させない魔法の言葉を見つけた
アメリカでは子どもを産まないことに対してどう考えられているのだろう。私はなんとなく日本とは違うような気がして聞いてみた。
「日本と同じよ。デリカシーなく理由を聞いてくる人もいるし、事情を察してそっとしておいてくれる人もいる。とあるデンタルクリニックで、いつ子どもをつくるのかとしつこく聞いてくる人がいたわ。それがとっても苦痛で。でも、あるフレーズを発したら、それ以降ピタッと何も言わなくなったのよ。魔法の言葉を見つけたの!」
相手を黙らせる魔法の言葉って、一体なんだろう。個人的にもぜひ知りたいと思い、続くミツコさんの言葉に耳を傾けた。
「それはね、『It’s complicated ! (ちょっと複雑なの)』」
第4回に続く
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第6回私が産まないと決めたわけ「彼との結婚が一番だから、子どもは産まない。」
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第7回私が産まないと決めたわけ「ふたりで楽しく生きていきたい。でも…」
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第8回「子どもを産まない」ことへのそれぞれの悩み、それぞれの選択
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第9回「産まないの?」に深い意味はない。みんな共通点を求めてるだけ
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第10回「産まない」ことは「生産性がない」のか。いつもその思いが胸にある