産んでもいいけど、産まないと思う。不妊治療を経験した女性の本音
もうすぐ37歳になる。結婚して4年。子どもはいない。
もともと「子どもがほしい」と思ったことはなかった。むしろ、子どもは嫌いだ。電車の中で泣き声が聞こえると、全身が総毛立ち、耳をふさぎたくなる。冷静な顔をしているけれど、私には母性がないのではないか。欠陥があるのではないか。そんなことをずっと考えていた。
生理痛がひどくてピルを飲んでいた私は、結婚を機に飲むのをやめた。「この人の子どもだったら産んでもいいかも」という気持ちが初めて芽生えたからだ。そして結婚、出産とトントン進んでいる友人を見ると、自分もその流れに乗らないといけない気がしたし、そうなるだろうと思っていた。ピルをやめた直後は妊娠しやすいと聞いていた。でも、特に妊娠の兆候はなかった。
「はっきりしたい」という気持ちから不妊検査、そして治療へ
ピルをやめて1年経ち、子どもはできないままだった。もやもやした気持ちを抱えるのが嫌だから、2人で不妊治療外来に行った。2人とも異常なし。むしろ健康ですね、と言われるぐらいの状態。そしてなし崩し的に不妊治療が始まった。
排卵日にセックスをする「タイミング法」を試みること半年。「そろそろ次のステップにいきましょう」と言われて人工授精へ。排卵日を見定めて、セックスではなく注射器で子宮に精子を入れるこの方法、まさに「治療」という言葉がピッタリのような気がした。これだけやったんだから早く結果が出てほしい。だんだん、焦る気持ちが募るようになった。
妊娠したのに全然嬉しくない
人工授精をして4回目か、5回目だったように思う。ついに妊娠。その時の気持ちは「やっと結果が出た」と、「これで自由がなくなってしまうのか」。「子どもができた」嬉しさが一切ないことにハッとした。それでも自分の中で育っていく命。どの病院で分娩をするべきか…気が早いように思うが、そんなことを考えて、「〇〇病院 分娩」で調べていた時に、ひとつのブログを見つけてしまった。
「不妊治療で子どもを授かり、出産したが、まったく子どものことを愛せない」
サッと血の気が引くのがわかった。もしかしたら私もこうなるかもしれない。これから好きな旅行もお酒も我慢して、子どものために生きられるのだろうか。そんなことばかりが頭をよぎった。
それが伝わったのか…そんなことはないと思うが、9週目で流産だと診断された。激痛に耐える手術を終えて、ただただ虚脱感がつのった。
それと同時に、頭のどこかでこんな声もあった。「もうここまでやってダメだったのだから、子どもを望まなくてもいいのではないか」。
もういいよ、2人で生きよう
それ以来、不妊治療外来には行っていない。もともと「子どもがすごくほしいわけではない」と言っていた夫は、これ以上子どもを望まないことにすぐ同意してくれた。「2人で生きていけばそれでいい、もっといろんなところに出かけよう」。それで十分だと思った。
そうやって2人で決めてからは、とても楽になった。義務感のようなセックスをすることも、会社の人の目を気にしてこそこそと病院に通うこともない。自由にお酒も飲めるし、旅行にもいけるし、スポーツもできる。挙げ句、なんにも知らない友達から「最近顔色がよくなったね」なんて言われる始末。やっぱり、「子ども」に縛られすぎていたのがきっといけなかったんだ。
突然向けられる「善意の刃」
だけど、「子どもは産まなくていいや」と割り切っているのに、何気ない一言に傷つけられることはある。お世話になった年上の人と飲んでいるとき、「でもさ、仕事が充実しているのは素晴らしいけれど、最終的には子どもを生むことがあなたの幸せだと思うよ」と突然言われて、呆然とした。
そしてこう続く。「知り合いの娘さんが今39歳で、子どもが3歳なんだけど、不妊治療して人工授精までして授かってさ。大変だったと思うけど今すごく幸せそうだよ。あなたにもそういう気持ちを味わってほしい。」
たぶん、この人に悪気はないのだ。まったくと言っていいほど、悪気はないのだ。むしろ「年の離れた娘のような私」を「心配して」「助言」してくれているのだ。だけどどうしようもなく、怒りがこみ上げてくる。何も知らないくせに。不妊治療のつらさも、「もういいや」と諦めた気持ちも、そもそも子どもに対する執着がないことも。
正直、100%「子どもはいらない」とまだ言い切れない。もし自然に妊娠したら、まあそれはそれでいいかなと思う。でも、きっとそうはならないんじゃないかな。勝手な予感だけど。
だから、産んでもいいけど、たぶん産まないと思うよ。これからも。
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