私が産まないと決めたわけ「ふたりで楽しく生きていきたい。でも…」
仕事や趣味を生きがいに、楽しくふたりで
T子はもともと子どもをほしいと強く思ったことがなかった。そんな自分は母性が欠落しているのではないか? 人と違って、おかしいのではないか? と悩んだ時期もあった。
29歳の時に、いまの夫と結婚。結婚直後に発覚した持病のせいもあって、出産や子育てによる肉体的・精神的負担を負いたくない、という気持ちがあった。理想とするライフスタイルを維持するには、子どもをもつという選択肢はおのずと除外されていった。
夫とは、子どもを持つことについて何度となく話した。友人や親戚の子どもと触れ合った日や、食事時などに何気なく会話にのぼることが多い。産まないことを選択する夫婦、同性のカップル、事実婚の夫婦……。いわゆる“マイノリティー”な人たちの考えだって、本人にとってはそれが正しいし、ハッピーに生きる権利はあるよね、と。同じ価値観を持つ夫と「ふたりで仕事や趣味を生きがいに、楽しく生きていこう」と決めた。
「産まない」ことへの理解は…
T子が暮らすのは、東京から離れた地方都市だ。だからなおさら、「産まない」という選択が理解されないと感じる。「産まない」選択をしたことは、同じ考えを持つDINKSの友人にしか伝えていない。
表向きには「不妊で子どもが授からない」ということにしている。まだまだ社会は、「理由があって産めない」女性に同情はしても、自ら「産まない」と決めた女性への理解は低い――周りと会話するなかで、たびたび感じてきたことだ。「女性として生まれたからには」と、何度も言われた。相手はまったく悪気はなく、むしろ応援する気持ちで伝えてくれているのはわかっている。だが、女性は出産・育児がセットで考えられているんだなと実感するたびに、複雑な気持ちになってしまう。
もし妊娠したら、産むと思う
周りの友人は結婚し、次々と母になっていく。その姿を見ていると、「子どもをもつこと」への憧れが首をもたげてくることもある。出産や子育ては、より人生を彩り、豊かにしていくのだろうなと思うことも、正直ある。もし妊娠したら、産むと思う。この世に誕生した命はかけがえのないものだから、人工的に消すべきではないと思うからだ。ただ、そうならないように避妊はしている。
子どもがいる、いないで友情関係が変化するという話もよく聞くが、いまのところT子と友人の関係は変化していない。いや、変化しないようにT子が取り繕っている、という方が正しいかもしれない。やはり微妙な気持ちは、少しあるのだ。
「産まない」ことがマイノリティーと呼ばれても
「産まない」人生を選択したけれど、一生子どもとかかわらない人生はさみしいという気持ちもあって、1年前に保育士の免許を取得し、勤務をスタートさせた。これから社会的ニーズもある仕事だと思ったからだ。将来は得意な英語を活かして、子どもと関わる仕事をしたいとも考えている。
もしかしたら、そうやって子どもに関わることで、自分の存在価値を正当化したいのかも、とも思う。産まない後ろめたさやもやもやを、意義のある仕事にたずさわることで払拭したい自分がいる。
めいっぱい悩んで、もがいて……。自分の生き方が、世間的にはマイノリティーと呼ばれるものであっても、その考えを誰もが肯定する社会であってほしい、と心底願う日々だ。
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