メイクアップフォトグラファー(34歳)

流産しても、お客様には話せない。こっそり思い切り泣きました。

メイクアップフォトグラファー(34歳) 10年来の知人で、出会ったのは彼女が20代前半のころ。当時は、自身が書いた脚本による舞台を都内で上演することになったと意気込んでいた。その後、大阪で写真展を開催。故郷の富山にUターンし、結婚後はすぐにメイクアップサロンを立ち上げて……。いつも何かに挑戦しているイメージがある。久々に会うと、妊婦や新生児を撮影するというビジネスが忙しいとのこと。「仕事も家庭も順調そうですね」と言うと、いろんな話をしてくれた。

産婦人科を受診したら、「卵子の数が少ないですね」って

 先日、産婦人科を受診し、「卵子の数が少ないですね」って言われました。45歳ぐらいの人と同じくらいだって。

 20代の頃は子どものこと、ほとんど考えたことがなかったです。漠然と「33歳までには欲しいなあ」って。なぜ33歳かというと、35歳から高齢出産になるでしょ。「ちょっと抵抗があるなあ」と思っていました。希望する病院で産めない可能性も高くなるじゃないですか。でも、34歳になっちゃいましたね。

 今、妊婦さんを撮影する「マタニティー・フォト」と、生後2週間以内の新生児を撮影する「ニューボーン・フォト」を仕事にしています。お客様は「あなたのお子さんは?」と、皆さん思ってらっしゃるでしょうね。

 20113月に結婚し、おばの手伝いで化粧品の販売を始めました。でもメイク道具を売っているだけなら、ネット社会のこのご時世、発展性はないなと。メイクをしたお客様の写真をスマートフォンで撮ってあげると、とても喜ばれたのです。なので、一眼レフカメラで撮影するようになり、それがビジネスになりました。

辻ちゃんのマタニティー・フォトに衝撃を受けました。「これだ!」と

 その後、モーニング娘。の辻(希美)ちゃんがブログでマタニティー・フォトを公開しているのを見て、衝撃を受けました。「これだ!」と。「富山」と「マタニティー・フォト」ってネットで検索したら、専門にやっているところがなかったんです。だから、始めました。

 ちょうどそのころ、夫と偶然入ったワインバーで、都内でカメラマンをやっていたけれど、ワインが好きだからとUターンしてワインのお店を始めた人と、たまたま知り合いになったんです。「マタニティー・フォトを撮りたいんです」と話したら、「僕、カメラマンやっていたから教えてあげるよ」って。その店に行かなきゃ会えない人でした。すごい縁だと思います。現役のカメラマンだったら、仕事が忙しくて教えてはくれないでしょうからね。

 妊婦さんになって10キロ以上体重の増えた方が写真を見て「あー、太っちゃった」と気にされないよう、ちょっとだけ補正してあげたりして…。そういうの、大事です。 

 その後、ニューボーン・フォトも始めました。20178月にはオーストラリアで行われた「ニューボーン・フォトサミット」にも参加したんですよ。日本から参加していたのは5人だけでした。

ニューボーン・フォトは撮影以外の知識も必要で難しい

 ニューボーン・フォトは撮影以外にも、赤ちゃんとママに関する知識も必要で、本当に難しいんです。サミットでは衛生管理や、赤ちゃんの筋肉がどうなっているのか、睡眠、湿度、温度など撮影に関係する環境について学びました。赤ちゃんが泣いてしまって困る、なんていうことは、ほとんどないんです。いろいろ配慮していますから。

Le Grand提供

 妊婦さんを撮らせていただくと、新生児、100日、半年後の「ハーフバースデー」、1歳、2歳、3歳。そうこうしているうちに、第二子を妊娠…。うちのお客さんは、リピート率がすごく高いんです。七五三も出張が大変だからと断っていたけれど、今年から頑張ることにしました。

 「マインドマップ」って、ご存じですか? 頭の中で起こっていることを目に見えるようにした思考ツールです。20歳の時からずっと書いてきました。何をやりたいかをどんどん書き出していくのです。見返してみると、仕事については、いろいろ夢があったけれど、家族については全く目標がなかったんです。夫と何をしたいとか、子どもをどうするかとか。まあ、お互いそういう人だから結婚できたのかもしれません。ルームシェアをしてる人みたいな、同居人みたいな。

 夫もすごく忙しくて、1年前に転職したんです。そしたら午後7時に帰ってくるようになり、旅行もできるようになりました。2人で何をしたいかも考えるようになりました。だから私も、定休日の月曜日以外は休まなかったんですけれど、最近は土曜か日曜どちらか休むようになりました。

最初に流産したときは、夫に言いませんでした

 「3人目を妊娠しています」っていうお客さんの言葉に、複雑な気持ちになったことがありました。 自分には何もないって思ってしまっていました。この方たちは人間としての生活を全うしている。ちゃんとしたライフスタイルを築いているなあ。なのに自分は何も始まっていないなあ。

 誤解しないでくださいね。仕事が嫌になったわけではないんです。本当に好きです。大好きです。でも、心の持ちようをどうするかについては、ずいぶん悩みました。未婚のウェディングプランナーさんの中にも、こんなふうに考えている人、いるんじゃないでしょうかね。

私、不育症なんです

 私、不育症なんです。妊娠しても、赤ちゃんがお腹の中でうまく育たなくて、流産してしまうんですね。卵子の数も同世代の女性と比べると少ないから、妊娠のチャンスが少ないのに、3回流産しています。最初に流産した時は、夫に言いませんでした。言う必要はないかと。いろいろ考えていると、「最後は代理出産という方法しかないのかな」と、思ってしまいますね。

 自分が流産しても、お客さんの予約はキャンセルできません。お客さんには絶対こんな話できない。だって、そんなこと言ってしまったら「第二子、第三子の時にも、お願いします」って言いにくいじゃないですか。でも、3回目に流産した時、こっそり、思いっきり泣きました。

 いろいろお話ししましたけれど、トータル的には「すごく幸せな仕事だなー」って思っているんです。人生の節目に携わることができているから。長く続けてこられたこと、感謝していますよ。「自分って、強いなあ」って思いますね。

 富山県高岡市にて

北陸に拠点を置く新聞社でスポーツ、教育・研究・医療などの分野を担当し2012年に退社。現在はフリーランスの記者として雑誌・書籍などに執筆。