産まない人生を考える

「産まないの?」に深い意味はない。みんな共通点を求めてるだけ

「産まない」「子どもはいらない」と意思表明するのって勇気がいる。自分で決めていいことのはずなのに…。夫婦2人で生活することを結婚前から決め、20代、30代を過ごしてきたライターの河辺さや香さん。自身の経験やミレニアル女子へのインタビューを通して、「産まない人生」について考えていきます。シリーズ4回目は、アメリカ在住のミツコさんに聞いた、子どもを産まない人生をポジティブに捉える考え方をお伝えします。

●産まない人生を考える 04

「It’s complicated ! (ちょっと複雑なの)」
 この“魔法の言葉”を発した途端、子どもがいないことに対してあれこれ詮索されなくなったという、アメリカ在住のミツコさん。前回に引き続き、アメリカでは子どもを産まないことに対してどう考えられているかを尋ねてみた。

複雑に捉えているのはこちらだけ。でも、複雑な気持ちを知ってほしい

 ミツコさんが通っていたデンタルクリニックでは、初めて会った歯科衛生士にのっけから、「結婚は? 子どもは?」とあいさつ代わりに聞かれたという。なかなか妊娠することができなかったミツコさんにとって、この質問は胸を突き刺すくらい辛いものだった。相手に悪気がないのは分かっているけれど、なんとかやめさせたい。それも言葉少なに。「It’s complicated ! (ちょっと複雑なの)」は、まさにこのシチュエーションにぴったりなフレーズだった。

 「これで、さすがに相手も私に質問してはいけないと悟ったみたい。居心地が悪くなったのかしらね、それ以降何も聞かなくなったわ。私も余分なことを言わずに済んだ」

 こんな風に聞いてくるのは、なにもこの人に限ったことではない。ミツコさんは、いくつか印象に残っているエピソードがあると話してくれた。

  「アメリカで生活している中で『アジア人なのに、子どもがいないなんて珍しいわね』と言われたことがあったわ。その当時は何も言い返せず、バカにされた気がしてただただ家で泣いていた。夫が通っていた眼科医の先生も、いつ子どもを作るつもりなのかと詮索してくるから苦痛だったみたい。それとね、親戚にも不妊で悩む女性がいたの。親戚の集まりに出席すると、必ず子どものことを聞かれるからノイローゼになってしまって、家から出られなくなっちゃったそうよ。かわいそうよね」

 でも、ミツコさんはこうも語ってくれた。

「きっとみんな、その質問に深い意味なんてないのよ。ただ共通点を見つけたいだけ。『犬飼ってる?』って聞かれて『飼ってるわ!』って答えたら、そこから会話も広がるし距離感が縮まるじゃない。それと同じよ。私は今、そんな風に気楽に考えているわ」

“childless(チャイルドレス)”より“childfree(チャイルドフリー)”

 ミツコさんは現在、子どもがいない生活を選んで良かったと、とてもポジティブに捉えている。一番大きなことは、“自由を手に入れたこと”だそう。

 「若い時はキャリアを積んで夢だった仕事に就くことができた。時間だけでなく経済的に余裕もできたから、自分たちが暮らしやすいと思う理想の家を手に入れることもできたわ。夫も難関の資格を取ってビジネスを始めたの。これはきっと、自由な時間があったからできたことだと思う。アメリカには「YOLO(人生は一度きり〈You Only Live Once〉)」っていうスラングがあるんだけど、私は楽しい人生を自分でカスタマイズできたと思っているわ。だから幸せよ」

 英語には「childless(チャイルドレス・子どものない)」という単語があるが、最近では「childfree(チェイルドフリー)」という言葉もよく見かけるようになったという。意味は同じだが、後者は子どもがいない人生を豊かでポジティブだと捉える意味合いがある。「『childless』って、足りない、不足しているっていうニュアンスがあって、なんとなく嫌だった」とミツコさん。きっと同じ気持ちを抱く人はたくさんいることだろう。

 そしてミツコさんはこうも付け加えてくれた。

「保健所から保護した愛犬に無償の愛を与えたり、野菜を種から育てたりしていて、その成長を楽しみにしているの。子ども以外に何か育てる喜びを見出すことが大切なのかな、と思うわ」

 今回のミツコさんとの会話を通して、インタビュアーである私の気持ちまでフッと楽になった。ポジティブなメッセージは、きっと読者のみなさんにも届くだろうと信じている。

フリーランス・ライター、エディター、インタビュアー。出版社勤務後、北京・上海・シンガポールでの生活を経て東京をベースにフリーランサーとして活動中。
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