産まない人生を考える

子どもを産まない選択

「産まない」「子どもはいらない」と意思表明するのって勇気がいる。自分で決めていいことのはずなのに……。夫婦二人で生活することを結婚前から決め、20代、30代を過ごしてきたライターの河辺さや香さん。自身の経験やミレニアル女子へのインタビューを通して、「産まない人生」について考えていきます。

●産まない人生を考える 

01 子どもを産まない選択

 最近のこと。ある朝2匹の犬を連れて、夫と散歩に出かけた。私はフリーランス、夫は出社時間が自由なので、仕事の都合さえつければ平日の朝でもゆっくり犬の散歩ができる。さすがに毎日は難しいので、気まぐれな飼い主に振り回される犬たちはかわいそうだけど、私たちにとっては心地のいい大事な時間だ。

初対面の人に言われた、「子どもがいなくちゃ…」

 たわいのない話をしながら、川沿いの遊歩道を歩いていたら、向こうから手押し車を押すご婦人がいらっしゃった。おそらく、80代とお見受けした。

「あら、かわいいわねぇ。なんていう犬なの?」
「フレンチブルドッグです。もう一匹は、チワワとミニチュア・ピンシャーのミックス犬です」
「そうなの〜。ハイカラねぇ。私、もう難しい名前は覚えられないわ。ふふふ」

 こんな、どこにでもありがちな世間話をしていたのだが、しばらくするとご婦人は私たちを見てこうおっしゃった。

「でもあなたたち、犬ばっかりかわいがっていても、子どもがいなくちゃどうしようもないじゃない」

 ちなみに、私たちに子どもがいないことは一言も言ってない。エスパーか! と思った。

「犬ばっかりじゃねえ。子どもがいなくちゃどうしようもないわ。ご夫婦、仲がよろしいんでしょう?」

 ご婦人は3度くらいにこやかに「子どもがいなくちゃどうしようもないわ」とおっしゃった。

「そうですね(笑)」

 私はなんとなく、話が長くなるとこの場を離れにくくなるだろうと思い、当たりさわりのない返事をし、「それではまた」と会釈すると、犬に引きずられるようなそぶりをして歩き出した。

「ねえねえ、どうして私たちに子どもがいないってわかったんだと思う?」
「さぁねー」
「もしかして30代の新婚夫婦に見えたのかな(笑)」
「うーん、それはどうだろう(苦笑)」

 夫は特に気にする様子もなく、何ごともなかったかのように歩いていった。中学生の子どもがいてもおかしくない年齢の私は「きっと自分たちは若く見られたに違いない」と、都合のいいように解釈した。ちょっと前なら「大きなお世話!」と感じたかもしれないのに、こんなに余裕でいられる自分の心境の変化に、40代になったことを少しうれしく思った。

子どもを産まないことも、人生の選択肢の1つ

 私は現在41歳、3つ年上の夫と結婚して13年目になる。先にも書いた通り、子どもはいない。結婚する前から自分は産まないだろうと思っていたので、それを相手にも伝えてから籍を入れた。

 読者のみなさんと同世代の女性から、「どうして産まない選択をしたんですか? 産め産めというプレッシャーを、どうやって切り抜けたんですか?」と真剣に相談された。世の中には意外と私のような女性がいるのかもしれないと思い、このテーマを掘り下げようと思った。

 私は子どもをほしいと思ったことがない。授かりものだから、いざ産みたいと思っても希望どおりいくものではないことはもちろん分かっている。だから、「産まない選択」という表現もおこがましいのかもしれない。やりたいことが山ほどあるし、忙しいのは事実だ。でも忙しい方が性に合っているし、子どもが嫌いなわけではない。みんなが望むものをなぜ自分はほしいと思わないのか、これまでも十分に考えたのだけどよくわからない。

 誤解をしないでいただきたいのだが、私は自ら子どもを産まない選択をしただけであって、産んだ方や産みたいと思う方を否定するつもりは一切ない。ただ、世の中にはこういう人もいるということを知ってほしいのと、もし産まない選択をしたことで悩んでいたり、心がざわついている人がいれば、少しでもそれを軽くできればと本気で思っている。デリケートな問題なので、書くのは少し勇気がいるのだけど、だからこそいろんな考え方があるということを知ってほしかった。

 次回は、産まない選択をしたことで、これまでどのようなプレッシャーを受けてきたのか、そしてどうやって切り抜けて(スルーして?)きたのかを書きたいと思う。ゆくゆくは、積極的に産まない選択をしてきた方に取材をしたり、海外の事例なども取り入れていけたらと思っている。

続きの記事<子どもを産まなかった私の30代>はこちら

フリーランス・ライター、エディター、インタビュアー。出版社勤務後、北京・上海・シンガポールでの生活を経て東京をベースにフリーランサーとして活動中。
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